顧客が離れる本当の理由——満足度調査では絶対にわからないこと
この記事で分かること
満足度もNPSも高いのに顧客が離れていくのは、調査の出来が悪いからではなく、調査という道具の構造のせいだということ
離脱の現れ方には3つの型があり、自社の型によって、見落としているものが違うこと
離れた顧客の本当の理由は、「満足でしたか」ではなく「今、代わりに何を使っていますか」の中にあること
NPSは高いのに、解約率が上がっていた
支援先の、BtoBのSaaSでの話です。
その会社は、定期的にNPS(顧客に「この製品を人に薦めたいか」を聞く調査)を取っていて、数字は高い水準を保っていました。顧客の声も好意的なものが多い。社内の空気としては、「顧客にはちゃんと評価されている」でした。
ところが、管理画面で解約率を見ていたとき、数字がじわじわ上がっていることに気づきました。調査は「大丈夫」と言っている。でも、実際の数字は「離れ始めている」と言っている。
どちらかが間違っている、と考えたくなります。でも、たぶんどちらも正しい。調査は、聞いた相手の、聞いた時点の気持ちを正確に映していた。ただ、それは解約していく顧客の姿ではなかった。
最初に、言葉をひとつ決めておきます。この記事でいう「満足度調査」は、満足度のアンケートだけでなく、NPSのような、顧客の気持ちを聞く調査全般のことです。指標の名前は違っても、どれも同じ構造の上に立っています。
そして、その構造には、どれだけ丁寧に設計しても埋められない穴があります。今日はその話です。
直近の週末トレンド便で、Amazonが買った人にレビューを「頼んで集める」仕組みを売り出した話を書きました。顧客の声をどう集めるかは、AIの時代になって、むしろ大事になっています。ただ、集める声が誰の、いつの声なのかを間違えると、どれだけ丁寧に集めても、肝心なものは見えてきません。
満足したまま、去っていく
満足と継続がずれることは、実はずいぶん前から指摘されてきました。
ロイヤルティ研究の第一人者で、ベインのコンサルタントだったフレッド・ライクヘルドは、1996年の著書『The Loyalty Effect』の中で、離れていった顧客の多くが、離れる直前の調査では「満足」か「とても満足」と答えていた、という調査結果を紹介しています。引用のされ方によって数字には幅があり、60〜80%とも、65〜85%とも書かれます。
この数字は、大規模な学術調査の結果ではなく、コンサルティングの現場から出てきた指摘です。そこは割り引いて読む必要があります。ただ、その後の研究も同じ方向を向いています。マーケティング研究者のリチャード・オリバーは、1999年の論文で、ロイヤルな顧客はたいてい満足しているものの、満足が継続に結びつくとは限らず、満足は継続の予兆として当てにならない、と整理しています。
ライクヘルド自身も、ここから先へ進みました。2003年、ハーバード・ビジネス・レビューに「The One Number You Need to Grow」という論文を書き、満足度ではなく「人に薦めたいか」を聞くほうが、成長をよく予測すると主張します。これがNPSの始まりです。
ところが、そのNPSにも、のちに検証が入りました。元の論文で示された「予測」は、実は過去の成長率と照らし合わせたものだった、という指摘です。
満足度からNPSへ。指標は替わりました。でも、冒頭の支援先のように、NPSが高いまま顧客が離れていく会社は、今もあります。
僕は、問題は指標の選び方ではないと考えています。誰に、いつ、何を聞いているか。この構造が同じなら、指標を替えても、見えるものは変わりません。
離脱には、3つの型がある
構造の話に入る前に、ひとつ整理をさせてください。「顧客が離れる」と一口に言っても、事業によって、その現れ方がまったく違うからです。
Marketing-OSでは、事業モデルを7つに分けて設計しています。BtoB、BtoC、BtoBtoC、マーケットプレイス、D2C・EC、SaaS、それにどれにも当てはまらない場合のカスタム。継続を見る指標も、モデルごとに初期値を変えています。BtoCならリピート率、BtoBtoCなら加盟店の継続率、SaaSなら解約率や既存顧客の売上の維持率、という具合です。
これを、離脱の「現れ方」で束ね直すと、3つの型になります。

契約型(SaaS、BtoB)
解約する、更新しない、発注が減る。離れる「瞬間」がはっきりあります。
購入・来訪型(D2C・EC、BtoC)
次を買わない、次に来ない。ここには解約の瞬間がありません。顧客は何も言わずに、ただ来なくなる。「やめた日」が存在しないのが、この型の特徴です。
二面型(BtoBtoC、マーケットプレイス)
加盟店と消費者、売り手と買い手。二つの顧客を同時に抱える事業です。この型では、片側が離れると、もう片側も連れていかれる。加盟店が減れば消費者の選択肢が減って消費者が離れ、消費者が減れば加盟店にとっての旨みが減って加盟店が離れる。
支援の現場で関わってきた業態を、この3つに当てはめると、こうなります。
業態 型 離脱の現れ方 SaaS 契約型 解約・更新しない、使わなくなる BPO・受託・コンサル 契約型 契約を更新しない、発注が減る 学校・塾・研修 契約型 退会・退塾、次の講座を申し込まない D2C・EC 購入・来訪型 2回目を買わない、定期便を止める 小売・飲食・美容 購入・来訪型 来店の間が空き、来なくなる メディア・会員制 契約型と購入・来訪型の両方 購読をやめる前に、読まなくなる 人材紹介・マッチング 二面型 求職者と企業の、どちらかが動かなくなる 予約・フランチャイズ本部 二面型 加盟店が抜け、利用者が減る
型によって、満足度調査がまだ役に立つ場面も違います。
契約型では、解約の瞬間があるぶん、解約の直前と直後に聞く機会が作れます。調査が届く余地は、3つの型の中で一番大きい。購入・来訪型では、調査が届くのはほぼ「今も買っている、来ている人」だけなので、調査で分かるのは、残っている人が何を気に入っているかです。それはそれで大事な情報ですが、離れた理由とは別物です。二面型では、片側の調査だけを見ていると判断を誤るので、両側を同じ時期に並べて見ることが最低限の前提になります。
自社がどの型か、まず確かめてみてください。複数の型にまたがる事業もあります。たとえばBtoBのSaaSでも、現場の担当者一人ひとりの利用は購入・来訪型に近い動きをします。ここから先の3つのずれは、型によって現れ方が違います。
相手のずれ:答えているのは、誰か
満足度調査が構造的に見落とすものは、3つのずれに整理できます。相手、時期、聞き方です。

ひとつ目は、相手のずれです。調査に答えているのは、離れていく人ではない。 ここから見ていきます。
答えるのは、残っている顧客だけ
満足度調査に答えてくれるのは、今も顧客でいてくれる人です。離れた人は、そもそも調査の対象から外れているか、届いても答えません。
契約型なら、解約のときにアンケートを取る会社は多いと思います。でも、答えてくれる人は少なく、答えても「価格」「機能が合わない」といった選択肢を選んで終わることが多い。本当の理由は、選択肢の中にはありません。
とくに「価格」は、解約の理由として選ばれやすい答えです。高いと言えば、それ以上説明しなくて済むからです。「担当が変わって、誰も使わなくなった」「上司に効果を説明できなかった」「別の部署が入れたツールで間に合うようになった」。こういう、本当はもっと込み入った事情が、「価格」の一語に畳まれてしまう。解約時のアンケートで「価格」が一番多かったとしても、値下げをすれば戻ってくるとは限りません。
購入・来訪型になると、もっと難しくなります。解約の瞬間がないので、「離れた人に聞く」機会そのものがない。顧客台帳に名前は残っていても、その人がもう来ないのか、たまたま間が空いているだけなのか、調査からは区別がつきません。
答える人と、やめると決める人が違う
もうひとつ、見落とされやすいずれがあります。満足を答えている人と、やめると決める人が、別の人であることがあるのです。

契約型、とくにBtoBでは、これがいちばんはっきり出ます。NPSに答えるのは、毎日その製品を使っている担当者です。でも、解約や更新を決めるのは、予算を持つ部長や経営者であることが多い。Gartnerの調査として広く引かれている数字では、複雑なBtoBの購入には、ふつう6〜10人の意思決定者が関わります。
担当者は製品に満足している。でも決裁者は、予算の見直しで「この費用は本当に要るのか」を問い直している。冒頭の支援先で起きていたのも、僕の見立てでは、このずれが大きかったと思っています。
契約型の中でも、BPOや受託の仕事では、満足を答えるのは現場の責任者で、契約の見直しをするのは購買や経営企画の部門だったりします。現場は「よくやってくれている」と思っていても、コスト削減の号令ひとつで、契約は相見積もりにかけられます。
購入・来訪型でも、同じことが起きます。たとえば学習塾なら、満足度を答えるのは通っている生徒で、辞めさせるかどうかを決めるのは、学費を払っている保護者です。
二面型では、ずれ方がさらに複雑です。人材紹介なら、求職者の満足度がいくら高くても、採用する企業の側が「紹介される人が合わない」と感じ始めれば、企業からの依頼が減り、やがて求職者に紹介できる仕事も減っていきます。消費者にだけ満足度を聞いていると、先に離れ始めた加盟店の動きが見えません。そして加盟店が抜けたあとで、消費者の満足度が下がり始める。調査に変化が出た時には、原因はもう片側で、ずっと前に起きています。
ここで、タイトルの「絶対に」の意味をはっきりさせておきます。満足度調査は、今の顧客に、今の気持ちを聞く道具です。だから、離れた人が何を考えていたのか、そして代わりに何を選んだのかは、調査の設計をどれだけ工夫しても、構造的に出てきません。それは調査の欠点というより、調査という道具の守備範囲の外にあるものです。
時期のずれ:離脱は、間隔が延びることから始まる
2つ目のずれは、時期です。離れる理由は、解約した日ではなく、間隔が延び始めた日にあります。
顧客は、ある日突然いなくなるわけではありません。僕が支援の現場で見てきた多くの離脱は、不満が爆発して去るというより、使う回数が少しずつ減り、習慣が途切れ、気づいたら離れていたという静かな形をとっていました。これは統計で示された事実ではなく、現場の観察です。ただ、型を問わず、何度も見てきた形です。

見るべき間隔は、型によって違います。
契約型なら、使う間隔です。ログインの頻度、記録や入力の頻度。
購入・来訪型なら、買う間隔と来る間隔です。いつも2か月おきに買っていた人が、3か月、4か月と空いていく。毎週来ていた人が、隔週になる。
二面型なら、両側の取引の間隔です。そして、片側の間が空き始めると、少し遅れてもう片側の間も空いていきます。
Marketing-OSでは、顧客が「90日以上、続けて使っている」状態を、ひとつの到達点として見ています。90日ごろになると、マーケティング部門の組織のサイクルが回り始める実感が出てくるからです。そして、90日に向けて順調かどうかは、毎週の記録が続いているかで見分けています。満足しているかどうかではなく、記録が続いているかどうか。週に一度の記録が二週に一度になったら、それが最初のサインです。
逆の失敗も、支援の現場で何度も見てきました。登録数、初回のログイン、初期設定の完了。こうした「始まり」の数字を成果として追いかけて、そこで安心してしまう会社です。始まりは順調なのに、続かない。始まりの数字と満足度だけを見ていると、間隔が延びていく途中の数か月が、まるごと見えなくなります。
もうひとつ、間隔の延びが見えにくくなる理由があります。新しい顧客の伸びが、既存の顧客の間隔の延びを隠してしまうのです。
新規が順調に増えている時期は、全体の利用回数や売上は伸びて見えます。その裏で、半年前に入った顧客たちの間隔が少しずつ延びていても、全体の数字には表れません。新規の勢いが落ちた瞬間に、隠れていた間隔の延びが、解約や売上の減少として一気に表に出てくる。冒頭の支援先でも、解約率の上昇に気づいたのは、全体の数字ではなく、管理画面で顧客ごとの動きを見たときでした。
満足度調査は、たいてい年に1回か、四半期に1回です。でも離脱は、その間の数週間、数か月のあいだに、間隔の延びという形で静かに進んでいます。調査を取った日に「満足」と答えた人が、その翌月から少しずつ来なくなる。調査の時期と、離脱が始まる時期は、そもそも合っていないのです。
聞き方のずれ:答えは「代わりに何を使っているか」の中にある
3つ目は、聞き方のずれです。顧客は離れたあと、何もしていないわけではありません。必ず、何かに置き換えています。
「満足ですか」「人に薦めたいですか」。こう聞かれれば、顧客は今の製品やサービスについて答えます。でも、離れる理由は、今の製品の中だけにあるとは限りません。
離れた顧客は、代わりに何かを選んでいます。
契約型なら、別のツールに乗り換えた。あるいは、社内の表計算で間に合わせることにした
購入・来訪型なら、別のブランドを買い始めた。近所に新しい店ができた。そもそもその習慣をやめた
二面型なら、加盟店は別のプラットフォームに軸足を移した。消費者は、別のアプリで済ませるようになった
この「代わりに選んだもの」こそが、離れた本当の理由を教えてくれます。別のツールに移ったなら、何がそちらで足りていたのか。社内の表計算で済ませたなら、そもそも機能が多すぎたのかもしれない。習慣ごとやめたなら、問題は製品ではなく、顧客の生活や仕事の変化の側にある。
なかでも見落とされやすいのが、「何もしない」という置き換え先です。競合に乗り換えたのではなく、自分たちの手作業に戻った。外注をやめて、社内でなんとか回すことにした。わざわざ買わなくても、手持ちのもので済ませることにした。
競合の動きを追っている会社ほど、この「何もしない」を見落とします。でも、支援の現場で離れた理由を聞いていくと、競合ではなく**「なくても困らなかった」**が答えだったことは、珍しくありません。これは満足度の高さとも矛盾しません。使っている間は満足していた。でも、やめてみたら、なくても困らなかった。
そして、満足度調査の質問には、この置き換え先を聞く項目がありません。今の製品について聞く道具だからです。「満足でしたか」を何度聞いても、「代わりに何を選んだか」は出てこない。 冒頭で書いた「構造的に分からない」とは、この意味です。
それでも、会社が満足度調査に頼り続ける理由
ここまでの話は、知っている人も多いはずです。それでも多くの会社が、満足度やNPSを顧客の状態を測る中心に置き続けています。これは、担当者の怠慢というより、組織の側の構造です。
満足度調査は、報告しやすいのです。数字がひとつにまとまり、前年や前の四半期と並べられ、上がれば成果として説明できる。経営会議の資料に載せやすい形をしています。
一方で、間隔の延びを見ようとすると、データが部門をまたぎます。利用の記録はプロダクトやCSの側に、購入の履歴はECや店舗の側に、契約の更新は営業の側にある。誰か一人の持ち物ではないので、誰も全体を見ていない。冒頭の支援先で、解約率の上昇に気づくまで時間がかかったのも、NPSを見る人と、顧客ごとの動きを見る人が、別々だったからだと思います。
満足度調査に頼り続けるのは、それが顧客を一番よく映すからではなく、組織にとって一番扱いやすいからです。この違いを自覚しているかどうかで、同じ数字の読み方が変わります。
この見立ての限界
ここまで、満足度調査の限界を書いてきました。ただ、言い過ぎないように、いくつか断っておきます。
満足度調査を捨てる話ではありません。 不満が原因の離脱は、満足度調査でも拾えます。サポートの対応が悪かった、品質に問題があった。そういう理由は、調査でちゃんと浮かび上がります。NPSにも、紹介や口コミの傾向をつかむという役割があります。問題は道具そのものではなく、ひとつの道具に、守備範囲の外まで期待してしまうことです。
間隔を見るには、記録が要ります。 利用の記録、購入の履歴、来店の記録。こうしたデータがない事業では、間隔の延びに気づくこと自体が難しい。記録がない場合にどうするかは、別の機会に、具体的な手順として書くつもりです。
3つの型は、僕の整理です。 離脱の現れ方で束ねた見立てで、学術的な分類ではありません。複数の型にまたがる事業もありますし、型によって「静かな離脱」の割合もまったく違うはずです。自社でどれくらいの割合なのかは、自社の数字で確かめるしかありません。
今週の小さな一歩
道具や手順は、ここでは書きません。今週やってほしいことは、ひとつだけです。

最近離れた顧客に、1人だけでいいので、こう聞いてみてください。
「今、代わりに何を使っていますか」
誰に聞くかは、型で変わります。
契約型なら、使っていた担当者ではなく、契約を決めた人に。
購入・来訪型なら、間隔が一番延びている、元の常連に。
二面型なら、離れた側と、その影響を受けた側の両方に。
満足だったかどうかは、聞かなくて構いません。何に置き換えたのかだけを聞く。たいていの場合、その一言の答えが、満足度調査の何年分の数字よりも、離れた理由をはっきり教えてくれます。
点検してみてほしいこと
□ 自社の離脱が、3つの型のどれにあたるか言える
□ 満足度やNPSに答えている人と、解約や購入をやめると決める人が、同じ人かどうか分かっている
□ 顧客の「使う・買う・来る」間隔を、満足度とは別に見ている
□ 離れた顧客が、代わりに何を選んだかを、1件でも知っている
□ 満足度調査の結果が良いことを、「離れていない」ことの証拠にしていない
最後の問いかけ
あなたの会社を離れた顧客は、今、代わりに何を使っていますか。
今日の要点
満足度調査は「今の顧客」に「今の気持ち」を聞く道具。だから「離れた人が、代わりに何を選んだか」は、構造的に出てこない
離脱には3つの型がある。契約型、購入・来訪型(「やめた日」がない)、二面型(片側の離脱がもう片側を連れていく)
見落としの正体は3つのずれ。相手(答える人と、やめると決める人が違う)、時期(理由は間隔が延び始めた日にある)、聞き方(置き換え先が出てこない)
今週は、離れた顧客1人に「今、代わりに何を使っていますか」と聞いてみる
NPSや満足度は悪くないのに、なぜか顧客が離れていく。そんな違和感があったら、一度話しにきてください。あなたの会社の離脱が3つの型のどれにあたるのか、どこで間隔が延び始めているのかを、一緒に見るところから始めます。売り込みは、しません。
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— 山口偉大 / Yamaguchi Takehiro
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