すべてのビジネスは「問いの質」で決まる
事業をどうグロースさせるか。そういう議題の会議に同席したことがあります。
話が進むにつれて、気づいたことがありました。出てくるのが、KPIの話だけなんです。どの数字がいま何%で、どれを来期どこまで伸ばすか。数字の読み方も正確で、議論も真面目でした。ただ、事業の伸ばし方を話しているはずなのに、口にされるのは、すでに測っている数字の増減だけだった。
そこで僕は、別の問いを投げました。
そのとき投げた問いそのものは、その会社の事情に深く結びついているので、ここには書きません。書きたいのは、問いの中身ではなく、そのとき何が起きていたかのほうです。
KPIの話しか出なかったのは、参加者の能力が低かったからではありません。最初に置かれた問いが、そういう答えしか出てこない形をしていたからです。
「どのKPIを、どれだけ伸ばすか」と問えば、答えはどのKPIをどれだけ伸ばすかの中から出てきます。当たり前のように聞こえますが、ここに、多くの会社が見落としている構造があります。
今日は、その構造の話と、問いをどうやって磨くかの話を書きます。
問いを立てた時点で、答えの範囲は決まっている
問いには、答えを探す道具としての顔と、もう一つの顔があります。答えを探す範囲を、先に決めてしまうという顔です。

「どのKPIを、どれだけ伸ばすか」という問いを、もう一度見てください。
この問いは、答えがすでに測っている数字の中にあることを、前提にしています。表のどこかの行を選び、その値を上げる。それ以外の答えは、最初から視野に入っていません。
でも、事業が伸びない理由は、たいてい表の外にあります。まだ測っていない理由で顧客が離れていたり、自分たちでは気づいていない理由で選ばれていたりする。表の中をいくら丁寧に探しても、そこには出てきません。
問いを変えると、この範囲が動きます。「お客さまは、なぜうちを選び続けているのか」と問えば、答えは表の外にも広がる。測っていない理由、言葉になっていない強み、担当者の頭の中にだけある感触。問いを一つ入れ替えただけで、探しにいく場所が変わります。
会議の出来は、答えの出来で評価されがちです。でも実際には、会議が始まった瞬間、最初に置かれた問いによって、出てくる答えの上限はもう決まっている。
会議は、答えを評価して、問いを評価しない
では、なぜ問いは磨かれないのか。
理由は単純で、誰も問いを評価しないからです。

会議のあとに振り返られるのは、どんなアイデアが出たか、どの施策に決まったか、見通しは妥当か、です。その議論がどんな問いから始まったかを振り返る会社は、ほとんどありません。
評価されないものは、磨かれません。だから問いは、いつも同じ形のまま置かれ続けます。前回の会議と同じ問い、去年の計画と同じ問い。答えだけが毎回新しくなり、答えを出す枠のほうは、何年も変わらない。
ドラッカーは1954年の『現代の経営』で、経営判断の誤りで最もよくある原因は、正しい問いを探すより、正しい答えを探すことに力を入れてしまうことだ、という趣旨のことを書いています。そして、間違った問いへの正しい答えほど役に立たないものはない、危険ですらある、と続けています。
70年以上前の指摘ですが、状況はむしろ強まっていると思います。答えを出すコストは、この数年で劇的に下がりました。調べる、まとめる、案を出す。そこはもう速い。そのぶん、何を問うかの差だけが、そのまま残るようになっています。
では、問いはどうやって磨けばいいのか。
ここから先は、無料登録してくださった方に向けて書きます。問いを確かめる手がかり、冒頭のKPIの問いを実際に4回書き直していく過程、そして問いを磨くための3つの動作まで、具体的に書いていきます。
良い問いかどうかは、確かめられる
問いの良し悪しは、センスの問題だと思われがちです。でも、確かめる手がかりはあります。
いちばん頼りになるのは、安宅和人さんの『イシューからはじめよ』です。安宅さんは、よいイシュー(いま答えを出すべき問い)の条件として、3つを挙げています。本質的な選択肢であること、深い仮説があること、答えを出せること。
そこに、僕が現場で必ず足している観点が2つあります。

本質的な選択肢か。 その問いに答えが出たとき、次にやることが変わるか。どちらの答えでも同じ行動になるなら、その問いは答えを出す意味が薄い。
深い仮説があるか。 答えの見当がついていて、しかもそれが「当たり前」ではないか。誰もが思いつく答えしか想定していない問いは、調べても予想どおりの結果しか返ってきません。
答えを出せるか。 手持ちの時間と情報で、最後までたどり着けるか。大きすぎる問いは、途中で薄い答えに着地します。
ここからが、僕が足している2つです。
主語は誰か。 問いの主語が、自社になっているか、顧客になっているか。「うちはどうすれば」という問いは、自社の都合の範囲から出られません。冒頭のKPIの問いも、主語は自社でした。
何を捨てたか。 問いの中で、見ない範囲を決めているか。範囲を切っていない問いは、答えも散らかります。「顧客はなぜ選ぶのか」より「3年以上続いている顧客はなぜ選ぶのか」のほうが、答えにたどり着く道が一本に絞られる。
5つを全部満たす問いは、最初からは出てきません。だから、書き直します。
1つの問いを、4回書き直す
冒頭のKPIの問いを、実際に書き直してみます。これは、あの会議で投げた問いそのものではありません。同じ構造の問いを、誰の会社でも使える形で磨いていく例です。

最初の問い:どのKPIを、どれだけ伸ばせば、事業は伸びるのか。
主語は自社、答えの範囲は表の中。ここから始めます。
1回目(主語を変える):お客さまは、何を理由にうちを選び続けているのか。
主語を顧客に入れ替えました。これだけで、答えを探す場所が表の外に出ます。ただ、まだ大きすぎる。「お客さま」が全員を指しているので、答えが散らかります。
2回目(範囲を切る):3年以上続いているお客さまは、そうでない方と何が違うのか。
見る範囲を、長く続いている顧客に絞りました。短期で離れた顧客や、一度きりの取引は、この問いでは見ないと決めた。捨てたことで、比べる相手がはっきりします。
3回目(選択肢にする):長く続く理由は、価格なのか、それとも担当との関係なのか。
ここで、仮説を二択の形で問いに埋め込みました。答えがどちらに出るかで、次にやることが変わります。価格なら値付けの話になり、関係なら担当の配置や引き継ぎの話になる。安宅さんの言う「本質的な選択肢」と「深い仮説」を、一度に満たす形です。
4回目(答えを出せる大きさにする):長く続いているお客さま5社に、今月中に直接聞いたら、同じ答えが返ってくるか。
最後に、答えを出せる大きさまで縮めました。誰に、いつまでに、何を聞くかが決まっている。この問いなら、今月中に答えが出ます。
最初と最後を、並べてみてください。
どのKPIを、どれだけ伸ばせば、事業は伸びるのか。 長く続いているお客さま5社に、今月中に直接聞いたら、同じ答えが返ってくるか。
最初の問いには、会議で何時間でも議論できます。最後の問いは、議論する必要がありません。聞きに行けばいい。
問いを磨くというのは、議論の時間を延ばすことではなく、動ける形になるまで縮めることなんだと思っています。
問いを磨くための、3つの動作
書き直しの手順とは別に、問いそのものを出したり深めたりするための動作があります。どれも、答えを急がないための動作です。

出す:4分間、問いだけを出し続ける。
MITのハル・グレガーセンが提唱している「クエスチョン・バースト」という方法があります。2018年にハーバード・ビジネス・レビューで紹介されたもので、手順は単純です。悩んでいる課題を2分以内で共有し、そのあと4分間、全員で問いだけを出し続ける。ルールは、どの問いにも答えないこと、なぜその問いを出したかを説明しないこと。
グレガーセンは、大企業で試すと、特に上の立場の人ほど、4分間ですら答えを口にするのを我慢できないと書いています。
冒頭の会議を思い出すと、これはよく分かります。KPIの話が続いたのは、出てきた問いにすぐ答えが返っていたからでもある。答えが出ると、問いはそこで止まります。
深める:なぜを重ねる。ただし、矛先は仕組みに。
トヨタ生産方式を体系化した大野耐一の考え方として知られる「なぜを5回繰り返す」は、問いを深める代表的な方法です。表面の原因で止まらず、根っこにある原因まで問いを掘り下げる。
ひとつ気をつけたいことがあります。この問いを人に向けると、詰問になります。「なぜミスしたのか」を5回繰り返されたら、誰でも追い詰められる。トヨタ系の現場では「人を責めずに、仕組みを責めろ」という言葉が大事にされていると、長くその現場にいた方が書いています。なぜを重ねるなら、矛先は人ではなく仕組みに向けます。
入れ替える:主語を顧客に置き換える。
これは、さっきの書き直しの1回目と同じ動作です。自社が主語の問いを、顧客が主語の問いに書き直す。いちばん簡単で、いちばん効きます。会議の最初の問いに「うちは」「どうすれば」が入っていたら、それだけで一度、顧客を主語にして書き直してみる価値があります。
良い問いだったかは、答えの後で分かる
問いの良し悪しを最終的に判断できる場所があります。答えが出た後、行動が変わったかどうかです。
答えが出ても、次にやることが何も変わらなかったなら、その問いは磨きが足りなかった。逆に、答えを見た瞬間に「では来月からこう変えよう」と決まったなら、良い問いだったということです。
これは、問いを立てる時点ではまだ分からないことも多い。だから、答えが出た後に一度だけ振り返ってください。この問いで、何が変わったか。変わらなかったなら、問いのどこが甘かったか。
会議が答えだけを振り返る場から、問いも振り返る場に変わると、次の問いは確実に良くなります。
KPIを問うのが悪いわけではない
ここまでKPIの問いを悪い例として扱ってきたので、誤解のないように書いておきます。
KPIを問うこと自体は、何も悪くありません。事業の形がすでに決まっていて、あとは運用の精度を上げる段階なら、「どの数字を、どれだけ動かすか」はまさに問うべきことです。
問題は、段階と問いが合っていないときです。事業をどう伸ばすかを決める段階で、KPIの問いから入ってしまう。そうすると、まだ決まっていないはずの事業の形が、いま測っている数字の範囲に閉じ込められます。
KPIの問いは、事業の形を決める問いの後に置く。順番の話です。
問い続ける会社は、決められない
もう一つ、言い過ぎないように書いておきます。
タイトルには「すべて」と書きましたが、問いを磨けばそれで勝てるわけではありません。どれだけ良い問いを立てても、答えを実行しなければ何も起きない。良い問いは、出発点を正しい方向に向けるだけです。
それから、問いを磨くこと自体が目的になると、今度はいつまでも決めない会社になります。「まだ問いが甘い」と言い続けて、動かない。これも、よく見る失敗です。
だから、さっきの4回目の書き直しが大事なんです。最後は、答えを出せる大きさまで縮める。磨き終わった問いは、議論するものではなく、答えを取りに行くものになっているはずです。
すべてのビジネスが問いの質で決まる、というのは、問いがすべてを解決するという意味ではありません。出発点が、その後のすべての方向を決めてしまう、という意味です。
今週やること
1. 次の会議の議題を、1つ選ぶ。 議題の文を、そのまま問いの形で書き出します。
2. 会議の前に、その問いを4回書き直す。 主語を変える、範囲を切る、選択肢にする、答えを出せる大きさにする。この順番で1回ずつ。
3. 会議の冒頭で、最初の問いと最後の問いを並べて見せる。 どちらで議論を始めるかを、その場で決めてください。たいてい、最後の問いが選ばれます。
時間があれば、書き直す前に4分間だけ、クエスチョン・バーストを試してみてください。一人でもできます。答えずに、問いだけを書き出す。15個を超えたあたりから、自分でも思っていなかった問いが出てきます。
点検してみてほしいこと
□ 最近の会議の最初の問いを、正確に思い出せる
□ その問いの主語が、顧客になっていた
□ 会議のあと、答えだけでなく問いも振り返っている
□ 事業の形を決める段階で、KPIの話から入っていない
□ 問いを磨くことが、決めない理由になっていない
冒頭の会議で、僕が別の問いを投げたのは、KPIが間違っていたからではありません。その場の問いが、答えの範囲を狭めていると感じたからです。
あなたの会社の次の会議は、どんな問いから始まりますか。そしてその問いは、どんな答えを、最初から締め出していますか。
もし「うちの会議は、答えばかり議論している気がする」と感じたら、一度話しにきてください。いま会社で置かれている問いを一緒に並べて、どれを書き直すべきかを探すところから、お手伝いします。売り込みは、しません。
📕 『設計と編集』シリーズ
事業と意思決定を「何を問うか」から設計し直すための本です。PDFで全文無料。
🚀 Marketing-OS(提供中)
散らばった数字に線を引き、判断とその前提を蓄積していくためのSaaSです。観測は読むだけ、決めるのは人。まずは無料の診断から。
💼 エグゼクティブ顧問(年間5社限定)
指標の仕分けから、判断が起きる会議の設計まで、経営の隣でやります。少数の会社に、深く。月50万円〜。
takehiro.yamaguchi@start-x.work
📚 ふだんの発信
Voicy「Business Growth Radio」:https://voicy.jp/channel/821417
ではでは。 — 山口偉大 / Yamaguchi Takehiro
参考・出典
ピーター・F・ドラッカー『現代の経営』(原著 The Practice of Management, 1954年)
安宅和人『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』英治出版(2010年、改訂版2024年):https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784862763563
Hal Gregersen, "Better Brainstorming: Focus on Questions, Not Answers, for Breakthrough Insights," Harvard Business Review, March–April 2018
大野耐一『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』ダイヤモンド社(1978年)
森琢也「なんでもかんでも『なぜを5回繰り返す』は間違い」幻冬舎ゴールドオンライン:https://gentosha-go.com/articles/-/23212
すでに登録済みの方は こちら