LTVが伸びない企業の組織構造

――「顧客との長い関係」を作れる組織と、作れない組織を分けているもの
山口偉大 2026.05.08
誰でも

こんにちは、山口偉大(Takehiro Yamaguchi)です。 

このニュースレターでは、経営やマーケティング現場で見てきた「意思決定」「事業の伸ばし方」「マーケティングと組織」の話を、構造化して書いていきます。 顧問・アドバイザーの現場でしか話さない踏み込んだ話、SNSには出さない制作中のプロダクトの裏側、ゲストを招いた対談記事なども配信予定です。 

▼ 取り上げるテーマ

・マーケティング

・事業戦略

・企業/事業分析 

・経営者の意思決定 

・プロダクト開発と編集 

・音楽・料理・カルチャー・旅から考える仕事の設計

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自己紹介

まずは簡単な自己紹介から。略歴はこんな感じです。

経歴

山梨県出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。PR会社「株式会社ベクトル」にてPRコンサルタントとして従事したのち、「株式会社Branding Engineer(現 株式会社TWOSTONE&Sons)」へ参画、各種人材・DX関連の事業立ち上げや事業部長・経営企画を歴任し独立。上場企業から地方の中堅・中小企業までありとあらゆる業種・規模感の新規事業開発 / マーケティング / ブランディング / PR支援等を実施。その後「Start-X合同会社」を設立。マーケティングや事業開発、クリエイティブ制作等の支援事業と共同・自社事業を複数展開。「株式会社グッドパッチ」参画後は、各種新規事業開発や事業グロース支援業務に従事。現在は、再度「Start-X合同会社」の代表を継続しながらフリーランスとしても活動し、複数企業の顧問・アドバイザーも兼務。

音楽:DJ & Producer「Takehiro Yamaguchi」名義でSpotify・Apple Musicなどの各種音楽配信プラットフォームにて配信中。

料理:プライベートシェフとして和食・寿司を提供。 

拠点:山梨 × 東京の2拠点。

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***

はじめに:「LTVを上げよう」と言いながら、構造的に下げている組織

経営やマーケティング現場で、ここ数年で最もよく聞くようになった言葉のひとつが「LTV」だ。

Life Time Value——顧客生涯価値。

新規獲得コストが高騰する中、既存顧客から長く深く価値をもらう、という発想は、もはや経営の常識だ。

「LTVを上げよう」「LTVを最重要KPIにしよう」「LTVこそが事業の本質だ」——こういった言葉が、経営会議でもマーケミーティングでも当たり前に飛び交うようになった。

しかし、現場で何社も見てきて、ある奇妙な現象に気づくようになった。

「LTVを上げよう」と最も声高に言っている企業ほど、実はLTVが伸びていない。

施策は打っている。MAツールも入れている。CSチームも組成している。アップセル・クロスセルの仕組みも整えている。

それでも、LTVは伸びない。

担当者は「もっと施策を打たなければ」と焦り、CSチームは「もっと顧客接点を増やそう」と疲弊し、経営層は「なぜ伸びないのか」と頭を抱える。

これは、なぜ起きるのか。

結論から言う。

LTVが伸びない原因のほとんどは、「施策」ではなく「組織構造」にある。LTVを上げる施策を打てば打つほど、組織構造がそれを打ち消している。

LTVは、表面の施策では上がらない。

LTVは、組織が「顧客との長い関係を作れる構造」になっているかどうかで決まる。

そして、多くの組織は、構造的に「顧客との短い関係しか作れない」ように設計されている。

今回は、この「LTVと組織構造の関係」を徹底的に分解していきたい。

なぜ多くの組織がLTVを上げられないのか、その構造と、転換のための設計について整理する。

***

第1章:「LTV」という言葉が、組織を錯覚させている

1-1. 「LTVを上げる施策」の多くは、LTVを上げない

まず、ここから話を始めたい。

多くの企業で「LTV施策」と呼ばれているものを並べてみる。

  • リピート購入を促進するメールマガジン

  • アップセル・クロスセルの提案

  • 解約防止のキャンペーン

  • カスタマーサクセスチームによる定期的なフォロー

  • ロイヤリティプログラム

  • 定期購入・サブスクリプションへの誘導

これらは、確かに「LTV関連の施策」だ。

しかし、これらの多くが、実は「LTVを上げているように見えて、上げていない」。

理由はシンプルだ。

これらの施策の大半は、「短期の取引額を増やす」ことに最適化されている。

「リピートしてもらう」「もう一品買ってもらう」「解約しないでもらう」——これらは、その瞬間の取引を成立させる行為だ。

しかし、LTVの本質は、「顧客との長期の関係性」だ。

短期の取引を積み重ねることと、長期の関係性を作ることは、似ているようで別物だ。

例えば、

  • リピート購入を促進するメールを大量に送る → 顧客はうざいと感じて、ブランドへの好感度が下がる

  • アップセルを強引に提案する → 顧客は売り込まれている感覚を持って、関係性が薄れる

  • 解約防止のために値引きする → 顧客は「最初から安く出来たのか」と不信感を持つ

  • ロイヤリティプログラムでポイントを配る → 顧客はポイント目当てになり、ブランドへの愛着が育たない

これら全てが、「短期の数字」は動かすが、「長期の関係性」は弱める。

つまり、「LTV施策」と呼ばれているものの多くが、実はLTVを長期的には下げている。

「LTVを上げる施策」と「短期の取引を増やす施策」は、別物だ。多くの組織は、後者を前者と勘違いしている。

1-2. LTVは「測れない部分」に本質がある

もう一つの根本的な問題がある。

LTVは、定義上は「顧客一人あたりが、生涯にわたって企業にもたらす利益」だ。

これを定量的に計算する方法は、確かに存在する。

しかし、
「将来的に何年継続するか」
「将来的にいくら追加購入するか」
「将来的に何人を紹介してくれるか」
——これらは、現時点では推測でしかない。

つまり、現時点で「LTV」と呼ばれている数字の多くは、「過去のデータからの推計値」に過ぎない。

そして、過去のデータから推計したLTVを最大化しようとすると、「過去に有効だった施策の繰り返し」になる。

これは、「未来の関係性」を作る活動とは、根本的に違う。

未来の関係性は、推計のしようがない。

しかし、それを作ることが、本当のLTV向上だ。

現時点で「LTV最大化」と称している活動の多くは、過去の最適化であって、未来の関係性構築ではない。

***

第2章:「LTVが伸びない組織」の典型的な構造

経営現場で見てきて、LTVが伸びない組織には、共通する構造的な問題がある。5つに整理する。

構造①:「新規獲得部隊」と「既存顧客部隊」が完全に分離している

最も多いのが、この構造だ。

組織の中で、「新規顧客を取るチーム」と「既存顧客を維持するチーム」が、別々に動いている。

マーケティング部・営業部は、新規獲得に責任を持つ。 カスタマーサクセス部・カスタマーサポート部は、既存顧客に責任を持つ。

この分業構造は、合理的に見える。

しかし、ここに大きな落とし穴がある。

新規獲得チームが取ってくる顧客の質が、既存顧客チームの仕事のしやすさを決める。

新規獲得チームが「とにかく数を取ろう」として、本来のターゲットではない顧客を大量に集めると、既存顧客チームはその顧客を継続させるために膨大な労力を使うことになる。

しかし、新規獲得チームは「新規の数」で評価されているから、顧客の質は気にしない。

逆に、既存顧客チームは「解約率」で評価されているから、質の悪い顧客を渡されても、それを「解約させない」努力を続ける。

その結果、

  • 新規獲得チームは、数字を達成して「成果」を主張する

  • 既存顧客チームは、疲弊しながら数字を維持する

  • 全体としてのLTVは、構造的に上がらない

「新規」と「既存」の分業は、LTVを上げる活動を構造的に阻害する。

なぜなら、LTVは「新規獲得から既存維持まで、一貫した顧客体験」によってしか作れないからだ。

構造②:「顧客の声」が事業の意思決定に届かない

二つ目の構造的問題が、これだ。

カスタマーサポートやカスタマーサクセスの現場には、毎日大量の「顧客の声」が届いている。

不満、要望、提案、感謝——これらは、事業を改善するための一次情報の宝庫だ。

しかし、この情報の多くが、商品開発や経営の意思決定に届かない。

「クレーム対応」として処理される。「個別対応」として記録される。

そして、その情報は、CS部門の中だけに溜まっていく。

商品開発チームは、その情報を見ない。経営層は、要約された数字(NPS、満足度スコア)しか見ない。

結果として、「顧客が本当に何を求めているか」が、組織の中心に届かない。

そして、商品も、サービスも、コミュニケーションも、「顧客の現実」とズレたまま改善されていく。

顧客の声が事業の中心に届かない組織で、LTVが上がるはずがない。

LTVを上げる本質は、「顧客が長く付き合いたいと思える関係」を作ることだ。

そのためには、「顧客が何を求めているか」を、組織の中心が常に把握している必要がある。

しかし、多くの組織では、CSが「顧客の声を聞く窓口」として隔離され、その情報が事業中枢に届かない構造になっている。

構造③:「商品」と「顧客体験」が別の責任になっている

三つ目の構造が、最も見えにくい。

多くの組織で、「商品の品質」を担保する部門と、「顧客体験」を担保する部門が、別々の責任になっている。

商品開発・プロダクトチームは、「機能や品質」に責任を持つ。 カスタマーサクセス・サポートチームは、「使い方の支援や問題解決」に責任を持つ。

これは、機能的な分業として正しいように見える。

しかし、顧客から見ると、「商品の品質」と「顧客体験」は分離していない。

商品が使いづらいと、サポートに問い合わせが増える。サポートが対応に追われると、対応の質が落ちる。対応の質が落ちると、顧客の満足度が下がる。満足度が下がると、解約する。

このサイクルは、商品の問題から始まっている。

しかし、商品開発チームは、「自分たちの商品がCS部門の負荷を増やしている」という自覚を持ちにくい。

なぜなら、CS部門の負荷は、商品開発チームのKPIには入っていないからだ。

「商品」と「顧客体験」を分離した組織では、商品の問題が顧客体験に皺寄せされ、その皺寄せが解約として現れる。

LTVを上げるためには、商品とサポート、機能と体験、開発と運用——これらを一体として設計できる組織構造が必要だ。

しかし、多くの組織は、これらを別の責任として分けている。

構造④:「短期売上」と「長期関係性」が、同じ評価軸で測られている

四つ目の構造が、評価制度の問題だ。

組織の評価制度は、ほぼ全ての場合「短期の売上・利益」を中心に設計されている。

四半期の売上目標、月次の利益目標、週次のKPI——これらが組織の評価軸だ。

この評価制度の下で、LTVを意識した行動が取れるだろうか。

例えば、CSの担当者が、

  • 「この顧客には、今は売り込まずに信頼関係を深める時期だ」

  • 「この顧客のクレームには、利益を犠牲にしてでも徹底対応すべきだ」

  • 「この顧客には、自社のサービスは合わないから、他社を紹介すべきだ」

——こういった「長期関係性のための判断」をしたとする。

しかし、これらの行動は、短期の売上には貢献しない。

むしろ、短期の数字を犠牲にする。

評価制度が「短期の売上」を中心に設計されている組織では、こういった行動を取った担当者は、評価が下がる。

結果として、組織全体に「短期売上を優先する」行動様式が浸透する。

短期の売上で評価される組織で、長期のLTVが上がるはずがない。

構造⑤:「顧客との接点を持つ人」が、最も評価されない構造になっている

最後の構造的問題が、最も根深い。

組織の中で、「顧客と直接接する人」の評価が、しばしば最も低い。

カスタマーサポート、カスタマーサクセス、現場の営業——これらは、組織のヒエラルキーの中で「下位」として位置づけられがちだ。

報酬も、評価も、キャリアパスも、本社のマーケや経営企画やプロダクトチームより低いことが多い。

結果として、優秀な人材は「顧客と直接接する仕事」を避けるようになる。

「もっと戦略的な仕事をしたい」「もっと裁量がある仕事をしたい」と、本社機能に移っていく。

そして、顧客との接点には、相対的に経験の浅い人材や、評価の低い人材が残る。

しかし、LTVを上げる本質は、「顧客との毎日の接点」にある。

その接点を担う人材の質が低い組織では、LTVは構造的に上がらない。

「顧客との接点を持つ人」が、組織の中で最も尊敬されない構造の組織では、顧客との関係性は深まらない。

LTVを本気で上げたい組織は、まず「顧客との接点を持つ人」の評価を、組織の中で最も高くすることから始める必要がある。

***

第3章:「LTV指向の組織」と「短期売上指向の組織」の決定的な違い

ここまで、LTVが伸びない組織の構造的問題を5つ挙げた。

これらを総合すると、組織には大きく2つのタイプがあることが見えてくる。

タイプA:「短期売上指向」の組織

このタイプの組織は、以下の特徴を持つ。

  • 新規獲得が「成長の主役」

  • 既存顧客は「維持する対象」

  • KPIは月次・四半期ベース

  • 顧客の声は「個別対応」として処理

  • 商品開発と顧客体験は分離

  • 顧客接点を持つ人材の評価は相対的に低い

このタイプの組織では、LTVは構造的に伸びない。

新規顧客を取り続けることでしか、成長できない。

そして、新規獲得コストが上がり続ける現代において、このタイプの組織は徐々に成長率が鈍化する。

タイプB:「LTV指向」の組織

このタイプの組織は、以下の特徴を持つ。

  • 「既存顧客から長く深く価値をもらう」が成長の主役

  • 新規獲得は「LTVが高い顧客との出会いの場」

  • KPIは年単位・コホート単位

  • 顧客の声は事業の中心情報として扱う

  • 商品と顧客体験は一体として設計

  • 顧客接点を持つ人材の評価が相対的に高い

このタイプの組織では、時間とともにLTVが伸び、新規獲得への依存度が下がっていく。

そして、ある段階を越えると、「広告費を増やさなくても事業が伸び続ける」状態に到達する。

タイプAとタイプBの違いは、施策の違いではなく、「何を成長の中心に置くか」という組織の根本思想の違いだ。

そしてこの根本思想は、組織構造、評価制度、人材配置、意思決定プロセス——全てに影響する。

施策をいくら追加しても、根本思想が「短期売上指向」のままなら、LTVは上がらない。

***

第4章:「LTV指向の組織」を作るための、5つの構造転換

タイプAからタイプBへの転換は、簡単ではない。

しかし、転換のための具体的な構造設計はある。

5つの転換ポイントを示す。

転換①:「新規獲得チーム」と「既存顧客チーム」を、同じKPIで評価する

最も重要な転換が、これだ。

新規獲得チームの評価軸を、「新規の数」だけでなく、「新規顧客のその後のLTV」も含めて設計する。

例えば、

  • 新規獲得チームの評価項目に、「獲得した顧客の3ヶ月後・6ヶ月後の継続率」を加える

  • 新規獲得チームと既存顧客チームの両方が、「コホート単位のLTV」で共通の評価を受ける

  • 「いつ獲得した顧客が、今いくら累計で価値をもたらしているか」を、両チームで共有する

これにより、新規獲得チームは「数を取る」だけでなく、「長く付き合える顧客を取る」ことに意識を向ける。

そして、既存顧客チームは、「新規獲得チームから渡された顧客を、いかに長く深く付き合うか」に集中できる。

新規と既存が「同じ顧客の旅」を共有する評価設計があると、組織全体がLTVに向かう。

転換②:「顧客の声」を事業の中心に届ける仕組みを作る

二つ目の転換が、顧客の声の流通設計だ。

カスタマーサポートやカスタマーサクセスに届く顧客の声を、事業の中心まで届ける仕組みを作る。

例えば、

  • 月次で、CS部門から経営会議に「顧客の声サマリー」を提出する

  • 商品開発チームが、定期的にCSの現場に同席する

  • 経営層が、月に数件、自分で顧客の問い合わせに目を通す

  • 「顧客の声から始まった改善」を、組織全体で共有・称賛する

この仕組みがあると、組織の意思決定が「顧客の現実」と接続される。

そして、商品もサービスも、顧客との接点で起きていることを反映して進化していく。

顧客の声が事業中枢に届かない組織は、顧客との関係性を深められない。

転換③:「商品」と「顧客体験」を一体として設計する

三つ目の転換が、組織の役割設計だ。

商品開発と顧客体験を、別々の部門ではなく、「一つの責任」として設計する。

具体的には、

  • プロダクトマネージャーの責任範囲に、「ローンチ後の顧客体験」も含める

  • 商品開発チームの評価指標に、「顧客満足度」「解約率」を加える

  • カスタマーサクセスチームを、商品開発チームと同じプロジェクト体制に組み込む

  • 「商品の問題」と「サポートの負荷」を、同じダッシュボードで管理する

これにより、商品開発チームは「使いやすい商品を作ること」と「サポート負荷を下げること」が同じ問題だと認識するようになる。

そして、組織全体として「商品から顧客体験まで、一貫した品質」を追求できるようになる。

転換④:「短期売上」と「長期関係性」を別の評価軸として持つ

四つ目の転換が、評価制度の改革だ。

組織の評価軸を、短期と長期の二本立てにする。

短期軸:今期の売上、利益、新規獲得数、CVR 長期軸:コホートLTV、継続率、顧客満足度、紹介経由の比率、ブランド認知

両方の達成度を、評価に組み込む。

これにより、「短期の売上を上げるためなら、長期の関係性を犠牲にしてもいい」という判断が、組織の中で正当化されなくなる。

逆に、「短期の売上を犠牲にしてでも、長期の関係性を守る」という判断が、組織として評価される。

評価制度が変わらない限り、組織の行動は変わらない。LTV指向への転換は、評価制度の改革から始まる。

転換⑤:「顧客接点を持つ人」を組織の中心に置く

最後の転換が、最も文化的なものだ。

「顧客と直接接する人」を、組織の中で最も尊敬される存在として位置づける。

具体的には、

  • カスタマーサポート・サクセスの報酬・評価を、本社機能と同等以上にする

  • 経営層への昇進ルートに、「顧客接点を持つ部署での経験」を必須要件として組み込む

  • 「優秀な人材ほど、顧客接点を持つ仕事に配属される」キャリアパスを設計する

  • 顧客との接点で起きた優れた対応を、組織全体で称賛する仕組みを作る

これは、組織の文化を根本から変える取り組みだ。

長い時間がかかる。

しかし、これができている組織は、LTVが構造的に高い。

なぜなら、最も優秀な人材が、顧客との関係性を作る最前線にいるからだ。

「顧客との関係性」は、組織が「顧客との関係性」を最も大事にしている証拠を、文化として示し続けることでしか作れない。

***

第5章:「LTV指向の組織」への転換に必要な、経営層の覚悟

ここまで構造転換のポイントを5つ挙げた。

しかし、これらの転換は、現場では実行できない。

なぜなら、これらは全て、組織の根本構造に手を入れる話だからだ。

組織構造、評価制度、人材配置、報酬体系——これらを変えられるのは、経営層だけだ。

そして、経営層がこれらを変えるためには、相応の覚悟が必要だ。

覚悟①:「短期の数字を犠牲にする」覚悟

LTV指向の組織への転換は、短期の数字を一時的に犠牲にする。

新規獲得チームの評価軸に「LTV」を加えると、短期的には新規の数が減る可能性がある。

商品開発チームの評価軸に「顧客満足度」を加えると、リリース速度が落ちる可能性がある。

CS部門の評価を上げると、人件費が増える。

これらは全て、短期の数字には不利だ。

しかし、長期の事業成長には不可欠だ。

経営層が、株主や社内に対して、「短期の数字を犠牲にしてでも、長期のLTVを取りに行く」という宣言ができるか。

その覚悟が、転換の出発点だ。

覚悟②:「組織の既得権益」と戦う覚悟

組織の評価制度や人材配置を変えると、必ず既得権益との衝突が起きる。

本社機能の人たちは、自分たちの評価が相対的に下がることを嫌がる。

新規獲得部隊は、「LTV」という新しい評価軸に反発する。

商品開発チームは、「顧客満足度」という曖昧な指標を加えられることを警戒する。

経営層がこれらの反発を押し切って、組織構造を変えられるか。

組織構造の変革は、必ず既得権益との戦いになる。それを避ける経営者は、組織を変えられない。

覚悟③:「結果が出るまで時間がかかる」を受け入れる覚悟

LTV指向の組織への転換は、結果が出るまでに時間がかかる。

新しい評価制度の効果が現れるのは、半年〜1年後だ。

新しい人材配置の効果が現れるのは、1〜2年後だ。

組織文化が変わって、それが業績に反映されるのは、2〜3年後だ。

その間、経営層は「効果が出ているのか分からない」状態に耐えなければならない。

「やはり元に戻そう」「もっと短期的な効果が出る施策に切り替えよう」という誘惑に、勝ち続ける必要がある。

LTVは、3年で見て初めて成果が見える指標だ。3年待てない経営層に、LTV指向の組織は作れない。

***

第6章:診断チェックリスト

あなたの組織が「LTVが伸びない構造」に陥っていないかを確認する。

「LTV阻害構造」診断

以下の項目で4つ以上当てはまれば、組織構造の転換が急務だ。

□ 新規獲得チームの評価指標に、獲得した顧客のその後のLTVが含まれていない

□ カスタマーサポート・サクセス部門の報酬や評価が、本社機能より低い

□ 顧客の声が、商品開発や経営の意思決定に直接届く仕組みがない

□ 商品開発チームの評価指標に、顧客満足度や解約率が含まれていない

□ 経営層が、月次で自分で顧客の問い合わせやレビューに目を通すことがない

□ 評価制度が「四半期の売上・利益」を中心に設計されており、長期指標が補助的にしか扱われていない

□ 「短期の売上を犠牲にしてでも、長期の関係性を守った」事例が、組織で称賛された記憶がない

□ 優秀な人材のキャリアパスに、「顧客接点を持つ部署での経験」が組み込まれていない

最後の問いかけ

「あなたの組織で、最も優秀な人材は、どこに配属されているか?それは、顧客との接点を持つ部署か、それとも本社機能か。」

この問いへの答えが、あなたの組織の「LTVに対する本気度」を示している。

優秀な人材が本社機能に集中している組織は、口でLTVを語っても、構造としてはLTVを軽視している。

優秀な人材が顧客接点に配属されている組織は、構造として顧客との関係性を最優先している。

そして、この差が、5年後・10年後の事業の競争力を決定的に分ける。

***

最後に

今回は「LTVが伸びない企業の組織構造」というテーマで、その構造的な問題と、転換のための具体的な設計を整理してきました。

結論をもう一度、一行で言う。

LTVが伸びないのは、施策の問題ではない。組織が「短期売上を最優先する構造」になっているからだ。構造を変えなければ、施策をいくら追加しても、LTVは上がらない。

経営現場で見てきて感じるのは、「LTVを上げよう」と最も声高に言う組織ほど、組織構造はLTVを上げる方向に設計されていないということだ。

LTVは、目標として掲げる対象ではない。

LTVは、組織のあらゆる構造に「顧客との長い関係性を作る」という思想が埋め込まれて、初めて自然に上がるものだ。

評価制度、人材配置、報酬体系、意思決定プロセス、情報の流通——これら全てが、「顧客との長期関係」を作る方向に設計されているか。

もし今、あなたの組織で「LTVが上がらない」と感じているなら、施策を追加する前に、組織構造そのものを見直してほしい。

その見直しは、痛みを伴う。

短期の数字を犠牲にする判断も必要になる。

既得権益との戦いも避けられない。

しかし、その覚悟ができた組織だけが、5年後・10年後に「広告費に依存しない、安定した成長」を実現できる。

次回は「• • マーケティングは“実行”ではなく“意思決定”である」をテーマに、顧客理解の盲点について深掘りします。

今後も、企業・事業の分析を通じてお役立ち情報を発信していきます。時間の許す限り頑張って発信していきますので、応援のほどよろしくお願いします。

ではでは。

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