LTVが伸びない企業の組織構造
こんにちは、山口偉大(Takehiro Yamaguchi)です。
このニュースレターでは、経営やマーケティング現場で見てきた「意思決定」「事業の伸ばし方」「マーケティングと組織」の話を、構造化して書いていきます。 顧問・アドバイザーの現場でしか話さない踏み込んだ話、SNSには出さない制作中のプロダクトの裏側、ゲストを招いた対談記事なども配信予定です。
▼ 取り上げるテーマ
・マーケティング
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・経営者の意思決定
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経歴
山梨県出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。PR会社「株式会社ベクトル」にてPRコンサルタントとして従事したのち、「株式会社Branding Engineer(現 株式会社TWOSTONE&Sons)」へ参画、各種人材・DX関連の事業立ち上げや事業部長・経営企画を歴任し独立。上場企業から地方の中堅・中小企業までありとあらゆる業種・規模感の新規事業開発 / マーケティング / ブランディング / PR支援等を実施。その後「Start-X合同会社」を設立。マーケティングや事業開発、クリエイティブ制作等の支援事業と共同・自社事業を複数展開。「株式会社グッドパッチ」参画後は、各種新規事業開発や事業グロース支援業務に従事。現在は、再度「Start-X合同会社」の代表を継続しながらフリーランスとしても活動し、複数企業の顧問・アドバイザーも兼務。
音楽:DJ & Producer「Takehiro Yamaguchi」名義でSpotify・Apple Musicなどの各種音楽配信プラットフォームにて配信中。
料理:プライベートシェフとして和食・寿司を提供。
拠点:山梨 × 東京の2拠点。
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はじめに:「LTVを上げよう」と言いながら、構造的に下げている組織
経営やマーケティング現場で、ここ数年で最もよく聞くようになった言葉のひとつが「LTV」だ。
Life Time Value——顧客生涯価値。
新規獲得コストが高騰する中、既存顧客から長く深く価値をもらう、という発想は、もはや経営の常識だ。
「LTVを上げよう」「LTVを最重要KPIにしよう」「LTVこそが事業の本質だ」——こういった言葉が、経営会議でもマーケミーティングでも当たり前に飛び交うようになった。
しかし、現場で何社も見てきて、ある奇妙な現象に気づくようになった。
「LTVを上げよう」と最も声高に言っている企業ほど、実はLTVが伸びていない。
施策は打っている。MAツールも入れている。CSチームも組成している。アップセル・クロスセルの仕組みも整えている。
それでも、LTVは伸びない。
担当者は「もっと施策を打たなければ」と焦り、CSチームは「もっと顧客接点を増やそう」と疲弊し、経営層は「なぜ伸びないのか」と頭を抱える。
これは、なぜ起きるのか。
結論から言う。
LTVが伸びない原因のほとんどは、「施策」ではなく「組織構造」にある。LTVを上げる施策を打てば打つほど、組織構造がそれを打ち消している。
LTVは、表面の施策では上がらない。
LTVは、組織が「顧客との長い関係を作れる構造」になっているかどうかで決まる。
そして、多くの組織は、構造的に「顧客との短い関係しか作れない」ように設計されている。
今回は、この「LTVと組織構造の関係」を徹底的に分解していきたい。
なぜ多くの組織がLTVを上げられないのか、その構造と、転換のための設計について整理する。
第1章:「LTV」という言葉が、組織を錯覚させている
1-1. 「LTVを上げる施策」の多くは、LTVを上げない
まず、ここから話を始めたい。
多くの企業で「LTV施策」と呼ばれているものを並べてみる。
リピート購入を促進するメールマガジン
アップセル・クロスセルの提案
解約防止のキャンペーン
カスタマーサクセスチームによる定期的なフォロー
ロイヤリティプログラム
定期購入・サブスクリプションへの誘導
これらは、確かに「LTV関連の施策」だ。
しかし、これらの多くが、実は「LTVを上げているように見えて、上げていない」。
理由はシンプルだ。
これらの施策の大半は、「短期の取引額を増やす」ことに最適化されている。
「リピートしてもらう」「もう一品買ってもらう」「解約しないでもらう」——これらは、その瞬間の取引を成立させる行為だ。
しかし、LTVの本質は、「顧客との長期の関係性」だ。
短期の取引を積み重ねることと、長期の関係性を作ることは、似ているようで別物だ。
例えば、
リピート購入を促進するメールを大量に送る → 顧客はうざいと感じて、ブランドへの好感度が下がる
アップセルを強引に提案する → 顧客は売り込まれている感覚を持って、関係性が薄れる
解約防止のために値引きする → 顧客は「最初から安く出来たのか」と不信感を持つ
ロイヤリティプログラムでポイントを配る → 顧客はポイント目当てになり、ブランドへの愛着が育たない
これら全てが、「短期の数字」は動かすが、「長期の関係性」は弱める。
つまり、「LTV施策」と呼ばれているものの多くが、実はLTVを長期的には下げている。
「LTVを上げる施策」と「短期の取引を増やす施策」は、別物だ。多くの組織は、後者を前者と勘違いしている。
1-2. LTVは「測れない部分」に本質がある
もう一つの根本的な問題がある。
LTVは、定義上は「顧客一人あたりが、生涯にわたって企業にもたらす利益」だ。
これを定量的に計算する方法は、確かに存在する。
しかし、
「将来的に何年継続するか」
「将来的にいくら追加購入するか」
「将来的に何人を紹介してくれるか」
——これらは、現時点では推測でしかない。
つまり、現時点で「LTV」と呼ばれている数字の多くは、「過去のデータからの推計値」に過ぎない。
そして、過去のデータから推計したLTVを最大化しようとすると、「過去に有効だった施策の繰り返し」になる。
これは、「未来の関係性」を作る活動とは、根本的に違う。
未来の関係性は、推計のしようがない。
しかし、それを作ることが、本当のLTV向上だ。
現時点で「LTV最大化」と称している活動の多くは、過去の最適化であって、未来の関係性構築ではない。
第2章:「LTVが伸びない組織」の典型的な構造
経営現場で見てきて、LTVが伸びない組織には、共通する構造的な問題がある。5つに整理する。
構造①:「新規獲得部隊」と「既存顧客部隊」が完全に分離している
最も多いのが、この構造だ。
組織の中で、「新規顧客を取るチーム」と「既存顧客を維持するチーム」が、別々に動いている。
マーケティング部・営業部は、新規獲得に責任を持つ。 カスタマーサクセス部・カスタマーサポート部は、既存顧客に責任を持つ。
この分業構造は、合理的に見える。
しかし、ここに大きな落とし穴がある。
新規獲得チームが取ってくる顧客の質が、既存顧客チームの仕事のしやすさを決める。
新規獲得チームが「とにかく数を取ろう」として、本来のターゲットではない顧客を大量に集めると、既存顧客チームはその顧客を継続させるために膨大な労力を使うことになる。
しかし、新規獲得チームは「新規の数」で評価されているから、顧客の質は気にしない。
逆に、既存顧客チームは「解約率」で評価されているから、質の悪い顧客を渡されても、それを「解約させない」努力を続ける。
その結果、
新規獲得チームは、数字を達成して「成果」を主張する
既存顧客チームは、疲弊しながら数字を維持する
全体としてのLTVは、構造的に上がらない
「新規」と「既存」の分業は、LTVを上げる活動を構造的に阻害する。
なぜなら、LTVは「新規獲得から既存維持まで、一貫した顧客体験」によってしか作れないからだ。
構造②:「顧客の声」が事業の意思決定に届かない
二つ目の構造的問題が、これだ。
カスタマーサポートやカスタマーサクセスの現場には、毎日大量の「顧客の声」が届いている。
不満、要望、提案、感謝——これらは、事業を改善するための一次情報の宝庫だ。
しかし、この情報の多くが、商品開発や経営の意思決定に届かない。
「クレーム対応」として処理される。「個別対応」として記録される。
そして、その情報は、CS部門の中だけに溜まっていく。
商品開発チームは、その情報を見ない。経営層は、要約された数字(NPS、満足度スコア)しか見ない。
結果として、「顧客が本当に何を求めているか」が、組織の中心に届かない。
そして、商品も、サービスも、コミュニケーションも、「顧客の現実」とズレたまま改善されていく。
顧客の声が事業の中心に届かない組織で、LTVが上がるはずがない。
LTVを上げる本質は、「顧客が長く付き合いたいと思える関係」を作ることだ。
そのためには、「顧客が何を求めているか」を、組織の中心が常に把握している必要がある。
しかし、多くの組織では、CSが「顧客の声を聞く窓口」として隔離され、その情報が事業中枢に届かない構造になっている。
構造③:「商品」と「顧客体験」が別の責任になっている
三つ目の構造が、最も見えにくい。
多くの組織で、「商品の品質」を担保する部門と、「顧客体験」を担保する部門が、別々の責任になっている。
商品開発・プロダクトチームは、「機能や品質」に責任を持つ。 カスタマーサクセス・サポートチームは、「使い方の支援や問題解決」に責任を持つ。
これは、機能的な分業として正しいように見える。
しかし、顧客から見ると、「商品の品質」と「顧客体験」は分離していない。
商品が使いづらいと、サポートに問い合わせが増える。サポートが対応に追われると、対応の質が落ちる。対応の質が落ちると、顧客の満足度が下がる。満足度が下がると、解約する。
このサイクルは、商品の問題から始まっている。
しかし、商品開発チームは、「自分たちの商品がCS部門の負荷を増やしている」という自覚を持ちにくい。
なぜなら、CS部門の負荷は、商品開発チームのKPIには入っていないからだ。
「商品」と「顧客体験」を分離した組織では、商品の問題が顧客体験に皺寄せされ、その皺寄せが解約として現れる。
LTVを上げるためには、商品とサポート、機能と体験、開発と運用——これらを一体として設計できる組織構造が必要だ。
しかし、多くの組織は、これらを別の責任として分けている。
構造④:「短期売上」と「長期関係性」が、同じ評価軸で測られている
四つ目の構造が、評価制度の問題だ。
組織の評価制度は、ほぼ全ての場合「短期の売上・利益」を中心に設計されている。
四半期の売上目標、月次の利益目標、週次のKPI——これらが組織の評価軸だ。
この評価制度の下で、LTVを意識した行動が取れるだろうか。
例えば、CSの担当者が、
「この顧客には、今は売り込まずに信頼関係を深める時期だ」
「この顧客のクレームには、利益を犠牲にしてでも徹底対応すべきだ」
「この顧客には、自社のサービスは合わないから、他社を紹介すべきだ」
——こういった「長期関係性のための判断」をしたとする。
しかし、これらの行動は、短期の売上には貢献しない。
むしろ、短期の数字を犠牲にする。
評価制度が「短期の売上」を中心に設計されている組織では、こういった行動を取った担当者は、評価が下がる。
結果として、組織全体に「短期売上を優先する」行動様式が浸透する。
短期の売上で評価される組織で、長期のLTVが上がるはずがない。
構造⑤:「顧客との接点を持つ人」が、最も評価されない構造になっている
最後の構造的問題が、最も根深い。
組織の中で、「顧客と直接接する人」の評価が、しばしば最も低い。
カスタマーサポート、カスタマーサクセス、現場の営業——これらは、組織のヒエラルキーの中で「下位」として位置づけられがちだ。
報酬も、評価も、キャリアパスも、本社のマーケや経営企画やプロダクトチームより低いことが多い。
結果として、優秀な人材は「顧客と直接接する仕事」を避けるようになる。
「もっと戦略的な仕事をしたい」「もっと裁量がある仕事をしたい」と、本社機能に移っていく。
そして、顧客との接点には、相対的に経験の浅い人材や、評価の低い人材が残る。
しかし、LTVを上げる本質は、「顧客との毎日の接点」にある。
その接点を担う人材の質が低い組織では、LTVは構造的に上がらない。
「顧客との接点を持つ人」が、組織の中で最も尊敬されない構造の組織では、顧客との関係性は深まらない。
LTVを本気で上げたい組織は、まず「顧客との接点を持つ人」の評価を、組織の中で最も高くすることから始める必要がある。
第3章:「LTV指向の組織」と「短期売上指向の組織」の決定的な違い
ここまで、LTVが伸びない組織の構造的問題を5つ挙げた。
これらを総合すると、組織には大きく2つのタイプがあることが見えてくる。
タイプA:「短期売上指向」の組織
このタイプの組織は、以下の特徴を持つ。
新規獲得が「成長の主役」
既存顧客は「維持する対象」
KPIは月次・四半期ベース
顧客の声は「個別対応」として処理
商品開発と顧客体験は分離
顧客接点を持つ人材の評価は相対的に低い
このタイプの組織では、LTVは構造的に伸びない。
新規顧客を取り続けることでしか、成長できない。
そして、新規獲得コストが上がり続ける現代において、このタイプの組織は徐々に成長率が鈍化する。
タイプB:「LTV指向」の組織
このタイプの組織は、以下の特徴を持つ。
「既存顧客から長く深く価値をもらう」が成長の主役
新規獲得は「LTVが高い顧客との出会いの場」
KPIは年単位・コホート単位
顧客の声は事業の中心情報として扱う
商品と顧客体験は一体として設計
顧客接点を持つ人材の評価が相対的に高い
このタイプの組織では、時間とともにLTVが伸び、新規獲得への依存度が下がっていく。
そして、ある段階を越えると、「広告費を増やさなくても事業が伸び続ける」状態に到達する。
タイプAとタイプBの違いは、施策の違いではなく、「何を成長の中心に置くか」という組織の根本思想の違いだ。
そしてこの根本思想は、組織構造、評価制度、人材配置、意思決定プロセス——全てに影響する。
施策をいくら追加しても、根本思想が「短期売上指向」のままなら、LTVは上がらない。
第4章:「LTV指向の組織」を作るための、5つの構造転換
タイプAからタイプBへの転換は、簡単ではない。
しかし、転換のための具体的な構造設計はある。
5つの転換ポイントを示す。
転換①:「新規獲得チーム」と「既存顧客チーム」を、同じKPIで評価する
最も重要な転換が、これだ。
新規獲得チームの評価軸を、「新規の数」だけでなく、「新規顧客のその後のLTV」も含めて設計する。
例えば、
新規獲得チームの評価項目に、「獲得した顧客の3ヶ月後・6ヶ月後の継続率」を加える
新規獲得チームと既存顧客チームの両方が、「コホート単位のLTV」で共通の評価を受ける
「いつ獲得した顧客が、今いくら累計で価値をもたらしているか」を、両チームで共有する
これにより、新規獲得チームは「数を取る」だけでなく、「長く付き合える顧客を取る」ことに意識を向ける。
そして、既存顧客チームは、「新規獲得チームから渡された顧客を、いかに長く深く付き合うか」に集中できる。
新規と既存が「同じ顧客の旅」を共有する評価設計があると、組織全体がLTVに向かう。
転換②:「顧客の声」を事業の中心に届ける仕組みを作る
二つ目の転換が、顧客の声の流通設計だ。
カスタマーサポートやカスタマーサクセスに届く顧客の声を、事業の中心まで届ける仕組みを作る。
例えば、
月次で、CS部門から経営会議に「顧客の声サマリー」を提出する
商品開発チームが、定期的にCSの現場に同席する
経営層が、月に数件、自分で顧客の問い合わせに目を通す
「顧客の声から始まった改善」を、組織全体で共有・称賛する
この仕組みがあると、組織の意思決定が「顧客の現実」と接続される。
そして、商品もサービスも、顧客との接点で起きていることを反映して進化していく。
顧客の声が事業中枢に届かない組織は、顧客との関係性を深められない。
転換③:「商品」と「顧客体験」を一体として設計する
三つ目の転換が、組織の役割設計だ。
商品開発と顧客体験を、別々の部門ではなく、「一つの責任」として設計する。
具体的には、
プロダクトマネージャーの責任範囲に、「ローンチ後の顧客体験」も含める
商品開発チームの評価指標に、「顧客満足度」「解約率」を加える
カスタマーサクセスチームを、商品開発チームと同じプロジェクト体制に組み込む
「商品の問題」と「サポートの負荷」を、同じダッシュボードで管理する
これにより、商品開発チームは「使いやすい商品を作ること」と「サポート負荷を下げること」が同じ問題だと認識するようになる。
そして、組織全体として「商品から顧客体験まで、一貫した品質」を追求できるようになる。
転換④:「短期売上」と「長期関係性」を別の評価軸として持つ
四つ目の転換が、評価制度の改革だ。
組織の評価軸を、短期と長期の二本立てにする。
短期軸:今期の売上、利益、新規獲得数、CVR 長期軸:コホートLTV、継続率、顧客満足度、紹介経由の比率、ブランド認知
両方の達成度を、評価に組み込む。
これにより、「短期の売上を上げるためなら、長期の関係性を犠牲にしてもいい」という判断が、組織の中で正当化されなくなる。
逆に、「短期の売上を犠牲にしてでも、長期の関係性を守る」という判断が、組織として評価される。
評価制度が変わらない限り、組織の行動は変わらない。LTV指向への転換は、評価制度の改革から始まる。
転換⑤:「顧客接点を持つ人」を組織の中心に置く
最後の転換が、最も文化的なものだ。
「顧客と直接接する人」を、組織の中で最も尊敬される存在として位置づける。
具体的には、
カスタマーサポート・サクセスの報酬・評価を、本社機能と同等以上にする
経営層への昇進ルートに、「顧客接点を持つ部署での経験」を必須要件として組み込む
「優秀な人材ほど、顧客接点を持つ仕事に配属される」キャリアパスを設計する
顧客との接点で起きた優れた対応を、組織全体で称賛する仕組みを作る
これは、組織の文化を根本から変える取り組みだ。
長い時間がかかる。
しかし、これができている組織は、LTVが構造的に高い。
なぜなら、最も優秀な人材が、顧客との関係性を作る最前線にいるからだ。
「顧客との関係性」は、組織が「顧客との関係性」を最も大事にしている証拠を、文化として示し続けることでしか作れない。
第5章:「LTV指向の組織」への転換に必要な、経営層の覚悟
ここまで構造転換のポイントを5つ挙げた。
しかし、これらの転換は、現場では実行できない。
なぜなら、これらは全て、組織の根本構造に手を入れる話だからだ。
組織構造、評価制度、人材配置、報酬体系——これらを変えられるのは、経営層だけだ。
そして、経営層がこれらを変えるためには、相応の覚悟が必要だ。
覚悟①:「短期の数字を犠牲にする」覚悟
LTV指向の組織への転換は、短期の数字を一時的に犠牲にする。
新規獲得チームの評価軸に「LTV」を加えると、短期的には新規の数が減る可能性がある。
商品開発チームの評価軸に「顧客満足度」を加えると、リリース速度が落ちる可能性がある。
CS部門の評価を上げると、人件費が増える。
これらは全て、短期の数字には不利だ。
しかし、長期の事業成長には不可欠だ。
経営層が、株主や社内に対して、「短期の数字を犠牲にしてでも、長期のLTVを取りに行く」という宣言ができるか。
その覚悟が、転換の出発点だ。
覚悟②:「組織の既得権益」と戦う覚悟
組織の評価制度や人材配置を変えると、必ず既得権益との衝突が起きる。
本社機能の人たちは、自分たちの評価が相対的に下がることを嫌がる。
新規獲得部隊は、「LTV」という新しい評価軸に反発する。
商品開発チームは、「顧客満足度」という曖昧な指標を加えられることを警戒する。
経営層がこれらの反発を押し切って、組織構造を変えられるか。
組織構造の変革は、必ず既得権益との戦いになる。それを避ける経営者は、組織を変えられない。
覚悟③:「結果が出るまで時間がかかる」を受け入れる覚悟
LTV指向の組織への転換は、結果が出るまでに時間がかかる。
新しい評価制度の効果が現れるのは、半年〜1年後だ。
新しい人材配置の効果が現れるのは、1〜2年後だ。
組織文化が変わって、それが業績に反映されるのは、2〜3年後だ。
その間、経営層は「効果が出ているのか分からない」状態に耐えなければならない。
「やはり元に戻そう」「もっと短期的な効果が出る施策に切り替えよう」という誘惑に、勝ち続ける必要がある。
LTVは、3年で見て初めて成果が見える指標だ。3年待てない経営層に、LTV指向の組織は作れない。
第6章:診断チェックリスト
あなたの組織が「LTVが伸びない構造」に陥っていないかを確認する。
「LTV阻害構造」診断
以下の項目で4つ以上当てはまれば、組織構造の転換が急務だ。
□ 新規獲得チームの評価指標に、獲得した顧客のその後のLTVが含まれていない
□ カスタマーサポート・サクセス部門の報酬や評価が、本社機能より低い
□ 顧客の声が、商品開発や経営の意思決定に直接届く仕組みがない
□ 商品開発チームの評価指標に、顧客満足度や解約率が含まれていない
□ 経営層が、月次で自分で顧客の問い合わせやレビューに目を通すことがない
□ 評価制度が「四半期の売上・利益」を中心に設計されており、長期指標が補助的にしか扱われていない
□ 「短期の売上を犠牲にしてでも、長期の関係性を守った」事例が、組織で称賛された記憶がない
□ 優秀な人材のキャリアパスに、「顧客接点を持つ部署での経験」が組み込まれていない
最後の問いかけ
「あなたの組織で、最も優秀な人材は、どこに配属されているか?それは、顧客との接点を持つ部署か、それとも本社機能か。」
この問いへの答えが、あなたの組織の「LTVに対する本気度」を示している。
優秀な人材が本社機能に集中している組織は、口でLTVを語っても、構造としてはLTVを軽視している。
優秀な人材が顧客接点に配属されている組織は、構造として顧客との関係性を最優先している。
そして、この差が、5年後・10年後の事業の競争力を決定的に分ける。
最後に
今回は「LTVが伸びない企業の組織構造」というテーマで、その構造的な問題と、転換のための具体的な設計を整理してきました。
結論をもう一度、一行で言う。
LTVが伸びないのは、施策の問題ではない。組織が「短期売上を最優先する構造」になっているからだ。構造を変えなければ、施策をいくら追加しても、LTVは上がらない。
経営現場で見てきて感じるのは、「LTVを上げよう」と最も声高に言う組織ほど、組織構造はLTVを上げる方向に設計されていないということだ。
LTVは、目標として掲げる対象ではない。
LTVは、組織のあらゆる構造に「顧客との長い関係性を作る」という思想が埋め込まれて、初めて自然に上がるものだ。
評価制度、人材配置、報酬体系、意思決定プロセス、情報の流通——これら全てが、「顧客との長期関係」を作る方向に設計されているか。
もし今、あなたの組織で「LTVが上がらない」と感じているなら、施策を追加する前に、組織構造そのものを見直してほしい。
その見直しは、痛みを伴う。
短期の数字を犠牲にする判断も必要になる。
既得権益との戦いも避けられない。
しかし、その覚悟ができた組織だけが、5年後・10年後に「広告費に依存しない、安定した成長」を実現できる。
次回は「• • マーケティングは“実行”ではなく“意思決定”である」をテーマに、顧客理解の盲点について深掘りします。
今後も、企業・事業の分析を通じてお役立ち情報を発信していきます。時間の許す限り頑張って発信していきますので、応援のほどよろしくお願いします。
ではでは。
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