グロース戦略はなぜ"間違った問い"から始まるのか

――正しい問い設定が、事業成長の80%を決める理由
山口偉大 2026.04.03
誰でも

こんにちは!山口です。

このニュースレターでは、企業のマーケティングや事業グロース戦略等について分析していきます。時折、ゲストを招いた対談記事なども配信していけたらと考えています。

ビジネス成長の”最強の武器”になるニュースレターを目指して配信していきますので、ぜひ応援のほどよろしくお願いします。

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自己紹介

まずは簡単な自己紹介から。略歴はこんな感じです。基本的には、起業家として活動しながらも「マーケティングや事業開発」が自分のキャリアの軸となっております。

経歴

山梨県出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。PR会社「株式会社ベクトル」にてPRコンサルタントとして従事したのち、「株式会社Branding Engineer(現 株式会社TWOSTONE&Sons)」へ参画、各種人材・DX関連の事業立ち上げや事業部長・経営企画を歴任し独立。上場企業から地方の中堅・中小企業までありとあらゆる業種・規模感の新規事業開発 / マーケティング / ブランディング / PR支援等を実施。その後「Start-X合同会社」を設立。マーケティングや事業開発、クリエイティブ制作等の支援事業と共同・自社事業を複数展開。複数企業の顧問・アドバイザーも兼務。

※SNS発信も頑張っておりますので、ぜひフォローのほどよろしくお願いします!

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はじめに:「問い」が全てを決める瞬間

突然ですが、問いかけます。

あなたの会社は、現在のビジネス戦略を立案するとき、

「何から始めますか?」

多くの経営者は、こう答えるでしょう。

「競合分析から」

「市場規模の確認から」

「顧客ニーズの調査から」

確かに、どれも重要です。

ただし、その全てを実行する前に、もっと根源的な問題があります。

それは、

「そもそも、何を問うべきなのか」という問い自体が、明確に設定されていない

ということです。

実は、戦略立案の失敗の大半は、

「分析が不足していた」わけではなく、

「間違った問いを正確に分析していた」

というケースなのです。

例えば、Quibi の事例を思い出してください。

彼らは「移動中の 10 分動画」という前提で、

市場調査も、ビジネスプランも、資金調達も、

全て完璧に実行しました。

ただし、

「本当は問うべき問い」を問わないまま。

その結果、 $1.75 billion を失いました。

一方で、Stripe や Figma、Shapeways のような成功企業は、

何が違ったのか。

答えは明確です。

「正しい問いから始めた」

だけなのです。

このニュースレターでは、その「正しい問いへの到達プロセス」を、

詳しく解き明かします。

***

第1章:なぜ企業は「間違った問い」から始まるのか

では、なぜ多くの企業は、

「問い」の重要性を過小評価し、

「間違った問い」から始まってしまうのか。

その理由は、組織の深い構造の中にあります。

1-1. 「分析」が得意な企業文化の罠

日本企業は特に、分析に強いです。

  • 数字で根拠を示す

  • データで意思決定する

  • エビデンスベースで進める

これ自体は素晴らしい特性です。

ただし、ここに陥りやすい致命的な罠があります。

「分析を深掘りすれば、問いも自動的に正しくなる」という勘違い

実際には、そうではありません。

むしろ逆です。

間違った問いほど、詳細に分析するほど、その間違った仮説は「強化」されていきます。

例えば、ある大手自動車メーカーが、

「電動化時代に、ガソリン車のエンジン効率化は市場需要があるか?」

という問いで 3 年かけて市場調査をしたとします。

当然、結果は「ある程度の需要がある」となります。

なぜなら、ガソリン車は確実に今後も売られるから。

そのデータが「詳細」であればあるほど、

企業は「ガソリン車開発への投資」を加速させます。

その精密な分析に基づいて、さらに 100 億円をつぎ込みます。

その間に、

EV シフトの波は、企業を置き去りにする。

分析が「詳細」であればあるほど、

間違った問いに基づいた戦略は「正当化」され、

組織全体を間違った方向へ加速させるのです。

1-2. 「すぐに答えが欲しい」という組織圧力

組織には、常に「スピード」を求める圧力があります。

  • 四半期ごとの決算が近い

  • 株主説明会に向けて数字を示す必要がある

  • 競合が動いている

この圧力の下では、

経営層は「時間をかけて問い自体を吟味する」という行為を、

ぜいたく品として捉えてしまいます。

その結果、

「とりあえず、一般的だと思われる問いで分析を始めよう」

という決定が下されるのです。

その一般的な問いが、

実は業界全体が共有してしまった「間違った前提」である可能性には、

気付かないまま。

1-3. 「過去の成功体験」の呪い

これはより深刻です。

企業が過去に成功した戦略がある場合、

その戦略の基盤になっていた「問い」を、

無意識のうちに「正解」だと思い込んでしまいます。

例えば、ある大手小売業が、

「いかに広い店舗面積を確保し、商品数を増やすか」

という問いで 20 年間、右肩上がりの成長を遂行したとします。

その過程で、この問いは「正解」という刻印を受けます。

会社の遺伝子に組み込まれます。

ただし、時代が変わります。

オンライン通販が台頭した。

顧客は「品揃え」より「利便性」「配送速度」「レコメンド精度」を求め始めた。

それでも、組織は依然として、

「いかに大きな店舗を作るか」という問いを問い続け、

巨額を投資し続ける。

なぜなら、その問いが組織の深くに刻み込まれているから。

組織は、過去の成功の「問い」から逃げられない宿命を持っているのです。

1-4. 「問い自体を問う」という習慣の欠落

最後に、最も重要な点。

日本企業では、

「問い自体を問う」という思考習慣が、

組織に組み込まれていない場合が多いのです。

ビジネススクールでも、企業研修でも、

「与えられた問いに対して、いかに良い答えを導き出すか」

という訓練は充実しています。

ただし、

「その問いそのものが正しいのか」

「本当は別の問いを問うべきではないか」

という問い直しの習慣は、

ほぼ教えられていません。

その結果、多くの組織では、

「与えられた問いに対する答え探し」という、

相対的に簡単なゲームが、

「本質的な問い自体を見つけるゲーム」を、

圧倒的に圧倒してしまうのです。

***

第2章:「正しい問い」と「間違った問い」の見分け方

では、「正しい問い」と「間違った問い」は、

どのように見分けるのか。

実は、明確な基準があります。

2-1. 「正しい問い」の 3 つの特徴

特徴1:「仮説」ではなく「疑問」を含んでいる

正しい問いには、常に「疑問」が含まれています。

例えば、Stripe の創業者・Patrick Collison は、

「アイルランドにいて、なぜこんなに決済処理が複雑なんだ?」

という「疑問」から始まりました。

これは仮説ではなく、疑問です。

仮説であれば、

「決済処理を簡単にしたら、市場は応答するだろう」

という推測が含まれています。

ただし、疑問であれば、

「なぜそうなっているのか」

という根本的な理解を求める態度が含まれています。

その疑問が深掘りされることで、

「決済が複雑な理由は、実は銀行システムそのものの設計にある」

という発見に到達する。

その発見から、初めて戦略が生まれるのです。

特徴2:「市場の前に、顧客の課題」を問っている

間違った問いは、往々にして

「市場規模はいくらか」

「競合はどこか」

という市場分析から始まります。

一方、正しい問いは、

「顧客は本当に何に困っているのか」

という個別具体的な課題理解から始まります。

Airbnb の創業者たちは、

「不動産市場のうち、未利用のアセットがある」

という市場分析から始まった投資家もいました。

ただし、彼らが問うたのは、

「なぜ、個人の家を貸し出す人と借りる人がつながっていないのか」

という顧客課題でした。

その疑問から、信頼、支払い、法規制という、

市場分析では見えない本質的な課題が浮かび上がった。

その課題解決こそが、戦略の本質になるのです。

特徴3:「実現の困難さ」を含んでいる

正しい問いには、常に「困難さ」が含まれています。

「簡単に解決できる問い」は、すでに解決されている可能性が高い。

一方、「非常に難しい問い」「一見すると不可能に見える問い」は、

実はこそが、他人が手をつけていない領域である可能性が高いのです。

例えば、SpaceX の Elon Musk が問うた問い:

「なぜロケットの第一段階を再利用できないのか」

これは、ロケット業界全体が「不可能」と考えていた問いです。

その「不可能」という共有前提そのものを疑うことで、

ロケット産業全体を再定義する企業が誕生しました。

正しい問いは、常に「業界全体が当たり前と思っている前提」を疑っています。

2-2. 「間違った問い」の 3 つの特徴

対照的に、「間違った問い」には、明確な特徴があります。

特徴1:「業界共通の前提」で始まっている

間違った問いの大半は、

業界全体が共有している前提の上に成り立っています。

例えば、タクシー業界では、

「いかに効率的に乗客をピックアップするか」

という問いが共有されています。

その前提の上で、

より正確な配車アルゴリズム、

より多くのドライバー採用、

営業区域の拡大

といった施策が競争されています。

ただし、その共有前提そのもの——

「タクシーは『供給側主導』である」

という前提——を疑わない限り、

Uber や Grab のような破壊企業には勝てないのです。

特徴2:「市場規模」から逆算して問いを設定している

間違った問いによくあるパターン:

「人口 1 億 2000 万人の日本で、年 1 兆円の市場がある。

これを 5% 獲得すれば、500 億円の事業だ」

という逆算思考です。

これは「市場」の観点からは正しく聞こえます。

ただし、「顧客」の観点からは、

「その市場の 5% を獲得するために、何が必要か」

という本質的な問いが、抜け落ちているのです。

Quibi の場合:

「モバイル動画市場は成長している。

移動中に短編動画を見る市場は、うちが取れる」

という市場規模逆算思考だったと考えられます。

ただし、本当に問うべきだったのは、

「2020 年時点で、人々の移動時間帯の使い方は、

5 年前の 2015 年と比べてどう変わったのか」

という問いです。

実際には、 TikTok や YouTube Shorts が、

移動中の空き時間の消費方法を根本的に変えていたのです。

特徴3:「自社の能力」を前提にしている

最後に、これは極めて日本企業的ですが、

「うちの能力なら、これはできるだろう」

という自社能力前提で問いが設定される傾向です。

例えば、ある家電メーカーが、

「うちは電子機器の設計に強い。

スマートホームデバイスの市場を取ろう」

という問いを立てたとします。

ただし、本当に問うべきだったのは、

「消費者はスマートホームに何を求めているのか」

「実は、スマートホームの課題は、

テクノロジーではなく、

複数デバイスの統一設定と

プライバシー問題なのではないか」

という問いです。

自社能力は後付けで対応できますが、

「顧客の本当の課題」を見誤ると、

技術力がいくらあっても、市場には響きません。

***

第3章:業界別「間違った問い」の典型パターン

では、実際にはどのような「間違った問い」が、

各業界で蔓延しているのか。

具体的に整理してみます。

3-1. 小売・EC 業界の典型的な間違い

間違った問い: 「いかに在庫効率を高め、配送コストを削減するか」

本来問うべき問い: 「顧客の『購買体験』で、本当に困っていることは何か」

実例:大手小売業界

10 年前の問いが「在庫効率」「配送コスト」であれば、

それで競争優位は成立しました。

ただし、2015 年以降は、

その問いの前提が変わったのです。

消費者は「安さ」より「利便性」を求め始めた。

「早い配送」より「確実な配送」を求め始めた。

ただし、組織は依然として、

「在庫効率」という問いで最適化を進める。

一方で、Amazon は異なる問いを問うていました。

「顧客はなぜ、リアル店舗に行くのをやめたのか」

その疑問から、

返品手数料無料、

配送追跡のリアルタイム更新、

顧客レビューの信頼性強化

といった施策が生まれた。

結果として、顧客体験の質で圧倒的に上回りました。

3-2. 金融・銀行業界の典型的な間違い

間違った問い: 「いかに貸出金利を最大化し、リスク管理を厳密にするか」

本来問うべき問い: 「顧客が本当に欲しいのは『金銭』ではなく『信頼と判断支援』ではないか」

実例:日本の銀行

銀行は、過去 30 年間、

「貸出金利の最大化」と「リスク管理」を問い続けてきました。

その問いで最適化された組織は、

確かに短期的には利益を生み出します。

ただし、2010 年代後半のフィンテック革命では、

新興企業が異なる問いを問い始めました。

「なぜ、個人が副業を始めようとするとき、

銀行は支援できないのか」

「なぜ、起業家が融資を申し込むとき、

3 ヶ月も待たなければならないのか」

その疑問から、

即日審査の融資プラットフォーム、

リアルタイムな家計管理アプリ、

AIによる信用評価

といったサービスが生まれました。

それらは「銀行ほどの金額」は扱いませんが、

「顧客体験」「信頼」「判断支援」の質では、

銀行を圧倒しました。

3-3. 通信キャリア業界の典型的な間違い

間違った問い: 「いかに通信速度を高め、基地局をカバーエリアを広げるか」

本来問うべき問い: 「顧客は本当は何を『つながり』として求めているのか」

実例:日本の通信キャリア

NTT ドコモ、ソフトバンク、au は、

20 年間、「通信インフラの質」を問い続けてきました。

その問いで最適化した結果、

日本は通信速度の速さで世界トップクラスになりました。

ただし、その間に、

WeChat や LINE は異なる問いを問い始めていたのです。

「電話やメールではなく、『つながり』そのものを再定義できないか」

その疑問から、

メッセージング、決済、ローカルサービス、

音楽配信が統合されたプラットフォームが生まれました。

通信速度は「前提」に過ぎず、

「つながりの質」は、サービスの豊富さと使いやすさで決まるのです。

***

第4章:「正しい問い」への到達プロセス

では、「正しい問い」に到達するには、

具体的にどのようなプロセスを経る必要があるのか。

その「問い直し」の方法論を整理します。

4-1. Step 1:現在の問いを「言語化」する

多くの組織では、

現在進行形で「問い」を持っていながら、

その問いを言語化していません。

なぜなら、

その問いが「当たり前」だと思い込んでいるから。

最初のステップは、それを言語化することです。

演習:あなたの会社の「問い」は何か

「うちは、いかに効率的に〇〇をするか」

という文型で、

現在のビジネス戦略の背後にある「問い」を言語化してください。

例:

  • 「いかに営業効率を高めるか」

  • 「いかに製造コストを削減するか」

  • 「いかに顧客獲得単価を下げるか」

  • 「いかに市場シェアを奪うか」

言語化することで、初めて、その問いが

「当たり前」から「選択肢の一つ」に転換されます。

4-2. Step 2:その問いの「前提」を疑う

言語化した問いに対して、

「その問いが前提としていることは何か」

を問い直します。

例えば、「営業効率を高める」という問いは、

以下の前提を含んでいます:

  • 顧客数は増やす必要がある

  • 営業への投資は継続される

  • 営業チームの生産性向上は重要である

その前提の一つ一つに対して、

「本当にそうなのか」と問い直すのです。

  • 「本当に顧客数を増やす必要があるのか。 もしかして、既存顧客からの信頼を深める方が重要では」

  • 「本当に営業への投資は継続されるべきか。 もしかして、営業以外の自動化・セルフサービス化の方が効果的では」

  • 「本当に営業生産性の向上が重要か。 もしかして、顧客満足度の向上の方が重要では」

このプロセスを通じて、

隠れていた「別の問い」が浮かび上がり始めます。

4-3. Step 3:「異業種」「異職種」の視点を取り入れる

最も有効な「問い直し」のテクニックは、

「異なる文脈の人に、その問いについて説明し、

その人からの反応を受ける」

ことです。

例えば、営業効率化に取り組む企業の経営層が、

全く別の業界のプロダクト責任者(PM)や、

音楽プロデューサーや、

シェフに、

「うちは営業効率化に取り組んでいるんだ」

と説明するとします。

その人たちからは、

「えっ、なぜ営業効率なんですか」

という率直な疑問が返ってくる可能性が高いのです。

その「異業種からの疑問」こそが、

「本来問うべき問い」へのヒントになります。

4-4. Step 4:「顧客」ではなく「個人」に話を聞く

多くの企業は「顧客調査」をします。

ただし、調査対象者が「顧客」という役割を演じている限り、

「本当の疑問」は浮かび上がりません。

むしろ効果的なのは、

その人が「どんな個人的な課題を持っているのか」

を理解することです。

例えば、営業効率化を検討する企業が、

単に「営業プロセスの課題」を営業マンに聞くのではなく、

「あなたの人生で、今、何が一番大変ですか」

という問いを投げかけるとしたら。

返ってくる答えは、

「子どもの教育費の心配」

「親の介護」

「毎日深夜に資料作りをしている」

といった、個人的な課題かもしれません。

その個人的な課題こそが、

「本当は営業効率化ではなく、

営業プロセスの『自動化』『簡素化』が必要」

という本質的な問いへたどり着くきっかけになるのです。

4-5. Step 5:「失敗事例」から逆算する

最後に、最も重要なテクニック。

「同じ問いを問った企業で失敗した事例」を徹底的に研究することです。

なぜなら、失敗事例こそが、

「その問いの限界」を示しているから。

例えば、モバイル短編動画市場に参入しようとする企業は、

Quibi の失敗を徹底的に分析すべきです。

「なぜ、$1.75 billion を投じながら失敗したのか」

その分析過程で、

「『移動中の 10 分動画』という前提そのものが、

実は 2020 年時点では成立していなかった」

という本質的な気付きが生まれます。

失敗事例は、「間違った問い」の教科書です。

***

第5章:「正しい問い」から生まれた戦略の事例

では、「正しい問い」から始まった企業は、

実際に何を成し遂げたのか。

具体的な事例を 3 つ見ていきます。

5-1. Stripe:決済の「複雑さ」を問う

Stripe が問うた問い:

「なぜ、個人や小規模事業者が、

インターネットで商品を売ろうとするとき、

支払い処理だけで数週間もかかるのか」

この問いは「市場規模」ではなく、

Patrick Collison という一人の個人が実際に経験した「疑問」

から始まりました。

その疑問から、

「決済処理を簡単にする」のではなく、

「銀行システムそのものの複雑さを解きほぐす」

という別の層の問題が見えてきたのです。

結果として、Stripe は:

  • 開発者向け API の革新

  • 規制対応の自動化

  • 多通貨決済の統一化

といった施策を生み出しました。

これらは、「決済市場で勝つ」という問いからは決して生まれない施策です。

「個人の疑問」から始まった問いが、

業界全体を再定義する企業を生み出したのです。

5-2. Figma:デザインの「協業」を問う

Figma が問うた問い:

「なぜ、デザイナーが、

同じプロジェクトで複数人で働くとき、

ファイル共有と版管理だけでこんなに時間を費やすのか」

これも、創業者が実際に経験した「疑問」です。

その疑問から、

「デザイン『ツール』の改善」ではなく、

「デザイン『プロセス』そのものの再設計」

という根本的な問題が見えてきたのです。

結果として、Figma は:

  • クラウドベースの設計(リアルタイム同時編集)

  • プロトタイピングとコラボレーションの統一

  • 開発者との連携の自動化

といった、Photoshop や Sketch には存在しない機能を生み出しました。

この問いの違いが、

「デザインツール市場」から

「デザイン + 開発 の協業プラットフォーム市場」

を創造した企業を生み出したのです。

5-3. Shapeways:3D プリンティングの「利民化」を問う

Shapeways が問うた問い:

「なぜ、3D プリンティングは存在するのに、

個人が『自分だけの商品』を製造できないのか」

この問いは、市場規模分析からは決して生まれません。

むしろ、

「3D プリンティング市場は限定的である」

という市場規模分析からは、

参入を避けるべき領域に見えるでしょう。

ただし、「個人が本当に必要としていること」という疑問から出発すると、

「小ロット製造」「カスタマイズ」「クラウドソーシング」

という新しい市場が見えてきたのです。

結果として、Shapeways は、

3D プリンティング業界そのものを、

「大量製造向けツール」から

「個人の創造を支援するプラットフォーム」

へと再定義しました。

***

第6章:あなたの会社が「正しい問い」に到達するための 30 日プラン

では、読者の企業が「正しい問い」に到達するには、

具体的に何をすればよいのか。

実践的なプランを提案します。

Week 1:「現在の問い」を言語化する

Day 1-2: 経営層で集まり、

「うちの会社は、根本的には何を『問い』としているのか」

を言語化します。

形式:「うちは、いかに〇〇をするか」という文型。

複数の答えが出ることは珍しくありません。

全て言語化しましょう。

Day 3-5: その「問い」が、

会社全体の予算配分、

採用基準、

評価指標

にどのように反映されているか、

確認します。

Day 6-7: その「問い」が、

過去 5 年間のビジネス上の意思決定に、

どのように影響してきたか、

分析します。

Week 2:「前提」を疑う

Day 8-10: Week 1 で言語化した「問い」に対して、

「その問いが前提としていることは何か」

を 5 段階の深掘りで整理します。

形式:「なぜ?」を 5 回繰り返す。

例:

  • 「営業効率化が必要」

  • 「なぜ?」→「顧客数を増やしたいから」

  • 「なぜ?」→「売上を増やしたいから」

  • 「なぜ?」→「市場シェアを拡大したいから」

  • 「なぜ?」→「競合に勝ちたいから」

  • 「なぜ?」→「...市場では生き残れないから」

この深掘りプロセスで、

「本来問うべき問い」が浮かび上がり始めます。

Day 11-14: その前提の一つ一つに対して、

「本当にそうなのか」という反論を用意します。

例:「本当に営業数を増やす必要があるのか。

もしかして、顧客満足度を深める方が重要では」

Week 3:「異業種」「異職種」の視点を導入

Day 15-18: 全く別の業界の人物(PM、デザイナー、アーティストなど)に、

自社の「問い」について説明し、

その人からの疑問や指摘を受けます。

「なぜそれを問うんですか」

「本当には、別の問題なのでは」

といった率直な反応こそが、

「盲点」を明らかにします。

Day 19-21: その反応を踏まえて、

「新しい問い」の候補を 3 つ以上、

リストアップします。

Week 4:実行と検証

Day 22-30: 新しい問いに基づいて、

「小規模な実験」を設計し、

2 週間で結果を得ます。

結果を踏まえて、

「本当の問い」はどれなのか、

を確定します。

***

第7章:「問い」の強度が、事業成長の質を決める

ここまで、「問い」の重要性について述べてきました。

最後に、より広い視点で、

「問い」がどのように事業成長全体に影響するのか、

を整理したいと思います。

7-1. 「弱い問い」の企業の特徴

「弱い問い」から始まる企業には、共通の特徴があります。

特徴1:「成長の天井」がある

「いかに効率化するか」という問いで最適化された企業は、

その問いの「最適解」に到達すると、

成長が止まります。

なぜなら、その問いの外側には、

選択肢がないから。

特徴2:「イノベーション」が生まれない

「与えられた問いに答える」という組織では、

根本的に新しい価値観は生まれません。

イノベーションは常に、

「当たり前の問い」を問い直すことから始まるからです。

特徴3:「変化への対応が遅い」

「弱い問い」で最適化された組織は、

その問いが有効な間は、

すぐに反応できます。

ただし、市場環境が変わり、

その問い自体が「時代遅れ」になると、

組織全体が麻痺します。

なぜなら、

「問いそのものを変える」

という経験がないから。

7-2. 「強い問い」の企業の特徴

対照的に、「強い問い」から始まる企業には、

別の特性があります。

特徴1:「成長の加速」がある

「強い問い」に基づく企業は、

1 つの問いを深掘りしながら、

同時に「新しい問い」を探し始めます。

その結果、成長が「直線」ではなく「曲線」になるのです。

特徴2:「イノベーションが常態化」している

「問い直す」という習慣が組織に埋め込まれていると、

イノベーションは「稀な事象」ではなく、

「常态」になります。

特徴3:「環境変化への適応が自然」

市場が変わっても、

組織に「問い直す DNA」があれば、

自然と戦略が転換されます。

なぜなら、

「問いそのものを更新する」

という能力が、組織的な筋肉になっているから。

7-3. 「問い」のバージョンアップ

実は、企業の成長とともに、

「問い」もバージョンアップされるべきです。

例えば、Stripe の場合:

  • 起業初期の問い:「なぜ決済処理は複雑なのか」

  • 成長期の問い:「なぜ、グローバル決済はばらばらなのか」

  • 成熟期の問い:「なぜ、支払い周辺のエコシステムは非効率なのか」

各段階で、「問い」が進化しています。

その進化が、

  • 初期は「決済 API」

  • 成長期は「多通貨決済」

  • 成熟期は「支払い周辺サービスの統合(Connect)」

といった、新しい価値提供につながったのです。

***

第8章:「問い」を組織の DNA に組み込む方法

最後に、実践的なポイント。

「問い直す」という習慣を、

組織の意思決定プロセスに埋め込むには、

どうすればよいのか。

8-1. 「問い直し」をプロセス化する

最も有効なのは、

全ての重大な意思決定の前に、

「その意思決定の背後にある『問い』は何か」

を問い直すプロセスを、

制度として組み込むことです。

形式:重要な施策提案の際に、

以下の質問に答えることを必須とする。

  • 「この施策は、どのような『問い』に答えるものか」

  • 「その問いの前提は何か」

  • 「別の問いの方が重要ではないか」

このプロセスが制度化されると、

やがて組織全体で「問い直す」文化が醸成されます。

8-2. 「異業種交流」を組織に埋め込む

もう一つ、効果的なのは、

定期的に「全く別の業種の人物」と対話する

という制度です。

月 1 回、経営層が異業種のゲストを招待し、

「うちの問いについてどう思うか」

を問い直す。

その対話が、新しい視点をもたらします。

8-3. 「失敗事例の研究」を習慣化する

そして最後に、

同じ問いを問いながら失敗した企業の事例を,

定期的に研究することです。

「なぜ失敗したのか」

その分析が、

「本来問うべき問い」への気付きをもたらします。

***

第9章:シーシャログから見えた「問い」の力

ここまで、抽象的な事例を示してきました。

最後に、私自身の最新プロジェクト

「シーシャログ」という事例を通じて,

「正しい問い」がいかに事業設計を変えるのか,

具体的に示したいと思います。

9-1. シーシャログが問うた問い

シーシャログは、

「食べログのシーシャ屋版」というアプリですが,

その出発点は、

「なぜ日本には、シーシャカフェの『評判を信頼できる場所』がないのか」

という疑問です。

これは、一般的なビジネス分析からは決して生まれません。

なぜなら、「シーシャ市場」など、

経営学的には「ニッチ市場」に分類されるから。

市場規模分析では、

「参入する価値があるのか」という問いが優先されます。

ただし、私が問うたのは、

「市場規模」ではなく、

「シーシャという個人的な趣味の中で,

自分が本当に困っていることは何か」

というシンプルな疑問だったのです。

9-2. その疑問から見えた事業設計

その疑問から,以下のことが明確になりました。

困難さの本質:

  • 店舗検索が困難(Google マップは情報が古い)

  • フレーバー情報が統一されていない

  • 初心者にとって「どこが初心者向けか」が不明瞭

  • スタッフの対応品質にばらつきがある

その困難さを解く方法:

  • 利用者(シーシャ愛好家)が、自分で店舗情報を更新できるプラットフォーム

  • フレーバーとスタッフ対応の「信頼スコア」

  • コミュニティ的な「初心者ガイド」機能

これらは、「市場規模」の分析からは決して出てこない,

「個人的な課題」を起点にしたデザインなのです。

9-3. シーシャログが「素材を編集して場を作る」という核心を強化する理由

実は,シーシャログという事業は,

Start-X の事業ポートフォリオにおいて,

「素材を編集して,場を作る人」

というコア定義を,

最も具現化するプロジェクトなのです。

  • くらべるメディア:情報を編集して,意思決定を支援

  • Marketing-OS:1000社の経験を蒸留し,編集して,提供

  • シーシャログ:シーシャカフェの情報を編集し,コミュニティの場を作る

全て,「素材の編集」という同じ原理で統一されています。

その統一性が,

個人ブランドの磁力を指数的に高めるのです。

***

最後に:問い直す勇気

ここまで述べてきたことは,

要するにこういうことです。

戦略の80%は,「何を問うか」で決まる。

その「問い」の質は,「市場分析の精度」ではなく,「個人の疑問の深さ」で決まる。

多くの経営者は,

「もっと詳細に分析しよう」

と考えます。

ただし,本当に必要なのは,

「現在の『問い』が本当に正しいのか」

を問い直す勇気です。

その問い直しの瞬間に,

事業成長の本当のきっかけが生まれるのです。

***

それでは,最後までお読みいただきありがとうございました!

次回は「成長企業だけがやっている「仮説の回し方」をテーマに,

お届けします。

今回は「グロース戦略はなぜ『間違った問い』から始まるのか」についてお届けしましたが,

今後も企業や事業などの分析を通じて,

お役立ち情報を発信していきます。

応援のほどよろしくお願いします。

ではでは。

いかがでしたか。今回の記事が少しでも参考になれば嬉しいです。

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