グロース戦略はなぜ"間違った問い"から始まるのか
こんにちは!山口です。
このニュースレターでは、企業のマーケティングや事業グロース戦略等について分析していきます。時折、ゲストを招いた対談記事なども配信していけたらと考えています。
ビジネス成長の”最強の武器”になるニュースレターを目指して配信していきますので、ぜひ応援のほどよろしくお願いします。
✓ レターのテーマ
・マーケティング
・事業戦略
・企業/事業分析
・汎用的なビジネスノウハウ
・キャリア論
自己紹介
まずは簡単な自己紹介から。略歴はこんな感じです。基本的には、起業家として活動しながらも「マーケティングや事業開発」が自分のキャリアの軸となっております。
経歴
山梨県出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。PR会社「株式会社ベクトル」にてPRコンサルタントとして従事したのち、「株式会社Branding Engineer(現 株式会社TWOSTONE&Sons)」へ参画、各種人材・DX関連の事業立ち上げや事業部長・経営企画を歴任し独立。上場企業から地方の中堅・中小企業までありとあらゆる業種・規模感の新規事業開発 / マーケティング / ブランディング / PR支援等を実施。その後「Start-X合同会社」を設立。マーケティングや事業開発、クリエイティブ制作等の支援事業と共同・自社事業を複数展開。複数企業の顧問・アドバイザーも兼務。
※SNS発信も頑張っておりますので、ぜひフォローのほどよろしくお願いします!
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はじめに:「問い」が全てを決める瞬間
突然ですが、問いかけます。
あなたの会社は、現在のビジネス戦略を立案するとき、
「何から始めますか?」
多くの経営者は、こう答えるでしょう。
「競合分析から」
「市場規模の確認から」
「顧客ニーズの調査から」
確かに、どれも重要です。
ただし、その全てを実行する前に、もっと根源的な問題があります。
それは、
「そもそも、何を問うべきなのか」という問い自体が、明確に設定されていない
ということです。
実は、戦略立案の失敗の大半は、
「分析が不足していた」わけではなく、
「間違った問いを正確に分析していた」
というケースなのです。
例えば、Quibi の事例を思い出してください。
彼らは「移動中の 10 分動画」という前提で、
市場調査も、ビジネスプランも、資金調達も、
全て完璧に実行しました。
ただし、
「本当は問うべき問い」を問わないまま。
その結果、 $1.75 billion を失いました。
一方で、Stripe や Figma、Shapeways のような成功企業は、
何が違ったのか。
答えは明確です。
「正しい問いから始めた」
だけなのです。
このニュースレターでは、その「正しい問いへの到達プロセス」を、
詳しく解き明かします。
第1章:なぜ企業は「間違った問い」から始まるのか
では、なぜ多くの企業は、
「問い」の重要性を過小評価し、
「間違った問い」から始まってしまうのか。
その理由は、組織の深い構造の中にあります。
1-1. 「分析」が得意な企業文化の罠
日本企業は特に、分析に強いです。
数字で根拠を示す
データで意思決定する
エビデンスベースで進める
これ自体は素晴らしい特性です。
ただし、ここに陥りやすい致命的な罠があります。
「分析を深掘りすれば、問いも自動的に正しくなる」という勘違い
実際には、そうではありません。
むしろ逆です。
間違った問いほど、詳細に分析するほど、その間違った仮説は「強化」されていきます。
例えば、ある大手自動車メーカーが、
「電動化時代に、ガソリン車のエンジン効率化は市場需要があるか?」
という問いで 3 年かけて市場調査をしたとします。
当然、結果は「ある程度の需要がある」となります。
なぜなら、ガソリン車は確実に今後も売られるから。
そのデータが「詳細」であればあるほど、
企業は「ガソリン車開発への投資」を加速させます。
その精密な分析に基づいて、さらに 100 億円をつぎ込みます。
その間に、
EV シフトの波は、企業を置き去りにする。
分析が「詳細」であればあるほど、
間違った問いに基づいた戦略は「正当化」され、
組織全体を間違った方向へ加速させるのです。
1-2. 「すぐに答えが欲しい」という組織圧力
組織には、常に「スピード」を求める圧力があります。
四半期ごとの決算が近い
株主説明会に向けて数字を示す必要がある
競合が動いている
この圧力の下では、
経営層は「時間をかけて問い自体を吟味する」という行為を、
ぜいたく品として捉えてしまいます。
その結果、
「とりあえず、一般的だと思われる問いで分析を始めよう」
という決定が下されるのです。
その一般的な問いが、
実は業界全体が共有してしまった「間違った前提」である可能性には、
気付かないまま。
1-3. 「過去の成功体験」の呪い
これはより深刻です。
企業が過去に成功した戦略がある場合、
その戦略の基盤になっていた「問い」を、
無意識のうちに「正解」だと思い込んでしまいます。
例えば、ある大手小売業が、
「いかに広い店舗面積を確保し、商品数を増やすか」
という問いで 20 年間、右肩上がりの成長を遂行したとします。
その過程で、この問いは「正解」という刻印を受けます。
会社の遺伝子に組み込まれます。
ただし、時代が変わります。
オンライン通販が台頭した。
顧客は「品揃え」より「利便性」「配送速度」「レコメンド精度」を求め始めた。
それでも、組織は依然として、
「いかに大きな店舗を作るか」という問いを問い続け、
巨額を投資し続ける。
なぜなら、その問いが組織の深くに刻み込まれているから。
組織は、過去の成功の「問い」から逃げられない宿命を持っているのです。
1-4. 「問い自体を問う」という習慣の欠落
最後に、最も重要な点。
日本企業では、
「問い自体を問う」という思考習慣が、
組織に組み込まれていない場合が多いのです。
ビジネススクールでも、企業研修でも、
「与えられた問いに対して、いかに良い答えを導き出すか」
という訓練は充実しています。
ただし、
「その問いそのものが正しいのか」
「本当は別の問いを問うべきではないか」
という問い直しの習慣は、
ほぼ教えられていません。
その結果、多くの組織では、
「与えられた問いに対する答え探し」という、
相対的に簡単なゲームが、
「本質的な問い自体を見つけるゲーム」を、
圧倒的に圧倒してしまうのです。
第2章:「正しい問い」と「間違った問い」の見分け方
では、「正しい問い」と「間違った問い」は、
どのように見分けるのか。
実は、明確な基準があります。
2-1. 「正しい問い」の 3 つの特徴
特徴1:「仮説」ではなく「疑問」を含んでいる
正しい問いには、常に「疑問」が含まれています。
例えば、Stripe の創業者・Patrick Collison は、
「アイルランドにいて、なぜこんなに決済処理が複雑なんだ?」
という「疑問」から始まりました。
これは仮説ではなく、疑問です。
仮説であれば、
「決済処理を簡単にしたら、市場は応答するだろう」
という推測が含まれています。
ただし、疑問であれば、
「なぜそうなっているのか」
という根本的な理解を求める態度が含まれています。
その疑問が深掘りされることで、
「決済が複雑な理由は、実は銀行システムそのものの設計にある」
という発見に到達する。
その発見から、初めて戦略が生まれるのです。
特徴2:「市場の前に、顧客の課題」を問っている
間違った問いは、往々にして
「市場規模はいくらか」
「競合はどこか」
という市場分析から始まります。
一方、正しい問いは、
「顧客は本当に何に困っているのか」
という個別具体的な課題理解から始まります。
Airbnb の創業者たちは、
「不動産市場のうち、未利用のアセットがある」
という市場分析から始まった投資家もいました。
ただし、彼らが問うたのは、
「なぜ、個人の家を貸し出す人と借りる人がつながっていないのか」
という顧客課題でした。
その疑問から、信頼、支払い、法規制という、
市場分析では見えない本質的な課題が浮かび上がった。
その課題解決こそが、戦略の本質になるのです。
特徴3:「実現の困難さ」を含んでいる
正しい問いには、常に「困難さ」が含まれています。
「簡単に解決できる問い」は、すでに解決されている可能性が高い。
一方、「非常に難しい問い」「一見すると不可能に見える問い」は、
実はこそが、他人が手をつけていない領域である可能性が高いのです。
例えば、SpaceX の Elon Musk が問うた問い:
「なぜロケットの第一段階を再利用できないのか」
これは、ロケット業界全体が「不可能」と考えていた問いです。
その「不可能」という共有前提そのものを疑うことで、
ロケット産業全体を再定義する企業が誕生しました。
正しい問いは、常に「業界全体が当たり前と思っている前提」を疑っています。
2-2. 「間違った問い」の 3 つの特徴
対照的に、「間違った問い」には、明確な特徴があります。
特徴1:「業界共通の前提」で始まっている
間違った問いの大半は、
業界全体が共有している前提の上に成り立っています。
例えば、タクシー業界では、
「いかに効率的に乗客をピックアップするか」
という問いが共有されています。
その前提の上で、
より正確な配車アルゴリズム、
より多くのドライバー採用、
営業区域の拡大
といった施策が競争されています。
ただし、その共有前提そのもの——
「タクシーは『供給側主導』である」
という前提——を疑わない限り、
Uber や Grab のような破壊企業には勝てないのです。
特徴2:「市場規模」から逆算して問いを設定している
間違った問いによくあるパターン:
「人口 1 億 2000 万人の日本で、年 1 兆円の市場がある。
これを 5% 獲得すれば、500 億円の事業だ」
という逆算思考です。
これは「市場」の観点からは正しく聞こえます。
ただし、「顧客」の観点からは、
「その市場の 5% を獲得するために、何が必要か」
という本質的な問いが、抜け落ちているのです。
Quibi の場合:
「モバイル動画市場は成長している。
移動中に短編動画を見る市場は、うちが取れる」
という市場規模逆算思考だったと考えられます。
ただし、本当に問うべきだったのは、
「2020 年時点で、人々の移動時間帯の使い方は、
5 年前の 2015 年と比べてどう変わったのか」
という問いです。
実際には、 TikTok や YouTube Shorts が、
移動中の空き時間の消費方法を根本的に変えていたのです。
特徴3:「自社の能力」を前提にしている
最後に、これは極めて日本企業的ですが、
「うちの能力なら、これはできるだろう」
という自社能力前提で問いが設定される傾向です。
例えば、ある家電メーカーが、
「うちは電子機器の設計に強い。
スマートホームデバイスの市場を取ろう」
という問いを立てたとします。
ただし、本当に問うべきだったのは、
「消費者はスマートホームに何を求めているのか」
「実は、スマートホームの課題は、
テクノロジーではなく、
複数デバイスの統一設定と
プライバシー問題なのではないか」
という問いです。
自社能力は後付けで対応できますが、
「顧客の本当の課題」を見誤ると、
技術力がいくらあっても、市場には響きません。
第3章:業界別「間違った問い」の典型パターン
では、実際にはどのような「間違った問い」が、
各業界で蔓延しているのか。
具体的に整理してみます。
3-1. 小売・EC 業界の典型的な間違い
間違った問い: 「いかに在庫効率を高め、配送コストを削減するか」
本来問うべき問い: 「顧客の『購買体験』で、本当に困っていることは何か」
実例:大手小売業界
10 年前の問いが「在庫効率」「配送コスト」であれば、
それで競争優位は成立しました。
ただし、2015 年以降は、
その問いの前提が変わったのです。
消費者は「安さ」より「利便性」を求め始めた。
「早い配送」より「確実な配送」を求め始めた。
ただし、組織は依然として、
「在庫効率」という問いで最適化を進める。
一方で、Amazon は異なる問いを問うていました。
「顧客はなぜ、リアル店舗に行くのをやめたのか」
その疑問から、
返品手数料無料、
配送追跡のリアルタイム更新、
顧客レビューの信頼性強化
といった施策が生まれた。
結果として、顧客体験の質で圧倒的に上回りました。
3-2. 金融・銀行業界の典型的な間違い
間違った問い: 「いかに貸出金利を最大化し、リスク管理を厳密にするか」
本来問うべき問い: 「顧客が本当に欲しいのは『金銭』ではなく『信頼と判断支援』ではないか」
実例:日本の銀行
銀行は、過去 30 年間、
「貸出金利の最大化」と「リスク管理」を問い続けてきました。
その問いで最適化された組織は、
確かに短期的には利益を生み出します。
ただし、2010 年代後半のフィンテック革命では、
新興企業が異なる問いを問い始めました。
「なぜ、個人が副業を始めようとするとき、
銀行は支援できないのか」
「なぜ、起業家が融資を申し込むとき、
3 ヶ月も待たなければならないのか」
その疑問から、
即日審査の融資プラットフォーム、
リアルタイムな家計管理アプリ、
AIによる信用評価
といったサービスが生まれました。
それらは「銀行ほどの金額」は扱いませんが、
「顧客体験」「信頼」「判断支援」の質では、
銀行を圧倒しました。
3-3. 通信キャリア業界の典型的な間違い
間違った問い: 「いかに通信速度を高め、基地局をカバーエリアを広げるか」
本来問うべき問い: 「顧客は本当は何を『つながり』として求めているのか」
実例:日本の通信キャリア
NTT ドコモ、ソフトバンク、au は、
20 年間、「通信インフラの質」を問い続けてきました。
その問いで最適化した結果、
日本は通信速度の速さで世界トップクラスになりました。
ただし、その間に、
WeChat や LINE は異なる問いを問い始めていたのです。
「電話やメールではなく、『つながり』そのものを再定義できないか」
その疑問から、
メッセージング、決済、ローカルサービス、
音楽配信が統合されたプラットフォームが生まれました。
通信速度は「前提」に過ぎず、
「つながりの質」は、サービスの豊富さと使いやすさで決まるのです。
第4章:「正しい問い」への到達プロセス
では、「正しい問い」に到達するには、
具体的にどのようなプロセスを経る必要があるのか。
その「問い直し」の方法論を整理します。
4-1. Step 1:現在の問いを「言語化」する
多くの組織では、
現在進行形で「問い」を持っていながら、
その問いを言語化していません。
なぜなら、
その問いが「当たり前」だと思い込んでいるから。
最初のステップは、それを言語化することです。
演習:あなたの会社の「問い」は何か
「うちは、いかに効率的に〇〇をするか」
という文型で、
現在のビジネス戦略の背後にある「問い」を言語化してください。
例:
「いかに営業効率を高めるか」
「いかに製造コストを削減するか」
「いかに顧客獲得単価を下げるか」
「いかに市場シェアを奪うか」
言語化することで、初めて、その問いが
「当たり前」から「選択肢の一つ」に転換されます。
4-2. Step 2:その問いの「前提」を疑う
言語化した問いに対して、
「その問いが前提としていることは何か」
を問い直します。
例えば、「営業効率を高める」という問いは、
以下の前提を含んでいます:
顧客数は増やす必要がある
営業への投資は継続される
営業チームの生産性向上は重要である
その前提の一つ一つに対して、
「本当にそうなのか」と問い直すのです。
「本当に顧客数を増やす必要があるのか。 もしかして、既存顧客からの信頼を深める方が重要では」
「本当に営業への投資は継続されるべきか。 もしかして、営業以外の自動化・セルフサービス化の方が効果的では」
「本当に営業生産性の向上が重要か。 もしかして、顧客満足度の向上の方が重要では」
このプロセスを通じて、
隠れていた「別の問い」が浮かび上がり始めます。
4-3. Step 3:「異業種」「異職種」の視点を取り入れる
最も有効な「問い直し」のテクニックは、
「異なる文脈の人に、その問いについて説明し、
その人からの反応を受ける」
ことです。
例えば、営業効率化に取り組む企業の経営層が、
全く別の業界のプロダクト責任者(PM)や、
音楽プロデューサーや、
シェフに、
「うちは営業効率化に取り組んでいるんだ」
と説明するとします。
その人たちからは、
「えっ、なぜ営業効率なんですか」
という率直な疑問が返ってくる可能性が高いのです。
その「異業種からの疑問」こそが、
「本来問うべき問い」へのヒントになります。
4-4. Step 4:「顧客」ではなく「個人」に話を聞く
多くの企業は「顧客調査」をします。
ただし、調査対象者が「顧客」という役割を演じている限り、
「本当の疑問」は浮かび上がりません。
むしろ効果的なのは、
その人が「どんな個人的な課題を持っているのか」
を理解することです。
例えば、営業効率化を検討する企業が、
単に「営業プロセスの課題」を営業マンに聞くのではなく、
「あなたの人生で、今、何が一番大変ですか」
という問いを投げかけるとしたら。
返ってくる答えは、
「子どもの教育費の心配」
「親の介護」
「毎日深夜に資料作りをしている」
といった、個人的な課題かもしれません。
その個人的な課題こそが、
「本当は営業効率化ではなく、
営業プロセスの『自動化』『簡素化』が必要」
という本質的な問いへたどり着くきっかけになるのです。
4-5. Step 5:「失敗事例」から逆算する
最後に、最も重要なテクニック。
「同じ問いを問った企業で失敗した事例」を徹底的に研究することです。
なぜなら、失敗事例こそが、
「その問いの限界」を示しているから。
例えば、モバイル短編動画市場に参入しようとする企業は、
Quibi の失敗を徹底的に分析すべきです。
「なぜ、$1.75 billion を投じながら失敗したのか」
その分析過程で、
「『移動中の 10 分動画』という前提そのものが、
実は 2020 年時点では成立していなかった」
という本質的な気付きが生まれます。
失敗事例は、「間違った問い」の教科書です。
第5章:「正しい問い」から生まれた戦略の事例
では、「正しい問い」から始まった企業は、
実際に何を成し遂げたのか。
具体的な事例を 3 つ見ていきます。
5-1. Stripe:決済の「複雑さ」を問う
Stripe が問うた問い:
「なぜ、個人や小規模事業者が、
インターネットで商品を売ろうとするとき、
支払い処理だけで数週間もかかるのか」
この問いは「市場規模」ではなく、
Patrick Collison という一人の個人が実際に経験した「疑問」
から始まりました。
その疑問から、
「決済処理を簡単にする」のではなく、
「銀行システムそのものの複雑さを解きほぐす」
という別の層の問題が見えてきたのです。
結果として、Stripe は:
開発者向け API の革新
規制対応の自動化
多通貨決済の統一化
といった施策を生み出しました。
これらは、「決済市場で勝つ」という問いからは決して生まれない施策です。
「個人の疑問」から始まった問いが、
業界全体を再定義する企業を生み出したのです。
5-2. Figma:デザインの「協業」を問う
Figma が問うた問い:
「なぜ、デザイナーが、
同じプロジェクトで複数人で働くとき、
ファイル共有と版管理だけでこんなに時間を費やすのか」
これも、創業者が実際に経験した「疑問」です。
その疑問から、
「デザイン『ツール』の改善」ではなく、
「デザイン『プロセス』そのものの再設計」
という根本的な問題が見えてきたのです。
結果として、Figma は:
クラウドベースの設計(リアルタイム同時編集)
プロトタイピングとコラボレーションの統一
開発者との連携の自動化
といった、Photoshop や Sketch には存在しない機能を生み出しました。
この問いの違いが、
「デザインツール市場」から
「デザイン + 開発 の協業プラットフォーム市場」
を創造した企業を生み出したのです。
5-3. Shapeways:3D プリンティングの「利民化」を問う
Shapeways が問うた問い:
「なぜ、3D プリンティングは存在するのに、
個人が『自分だけの商品』を製造できないのか」
この問いは、市場規模分析からは決して生まれません。
むしろ、
「3D プリンティング市場は限定的である」
という市場規模分析からは、
参入を避けるべき領域に見えるでしょう。
ただし、「個人が本当に必要としていること」という疑問から出発すると、
「小ロット製造」「カスタマイズ」「クラウドソーシング」
という新しい市場が見えてきたのです。
結果として、Shapeways は、
3D プリンティング業界そのものを、
「大量製造向けツール」から
「個人の創造を支援するプラットフォーム」
へと再定義しました。
第6章:あなたの会社が「正しい問い」に到達するための 30 日プラン
では、読者の企業が「正しい問い」に到達するには、
具体的に何をすればよいのか。
実践的なプランを提案します。
Week 1:「現在の問い」を言語化する
Day 1-2: 経営層で集まり、
「うちの会社は、根本的には何を『問い』としているのか」
を言語化します。
形式:「うちは、いかに〇〇をするか」という文型。
複数の答えが出ることは珍しくありません。
全て言語化しましょう。
Day 3-5: その「問い」が、
会社全体の予算配分、
採用基準、
評価指標
にどのように反映されているか、
確認します。
Day 6-7: その「問い」が、
過去 5 年間のビジネス上の意思決定に、
どのように影響してきたか、
分析します。
Week 2:「前提」を疑う
Day 8-10: Week 1 で言語化した「問い」に対して、
「その問いが前提としていることは何か」
を 5 段階の深掘りで整理します。
形式:「なぜ?」を 5 回繰り返す。
例:
「営業効率化が必要」
「なぜ?」→「顧客数を増やしたいから」
「なぜ?」→「売上を増やしたいから」
「なぜ?」→「市場シェアを拡大したいから」
「なぜ?」→「競合に勝ちたいから」
「なぜ?」→「...市場では生き残れないから」
この深掘りプロセスで、
「本来問うべき問い」が浮かび上がり始めます。
Day 11-14: その前提の一つ一つに対して、
「本当にそうなのか」という反論を用意します。
例:「本当に営業数を増やす必要があるのか。
もしかして、顧客満足度を深める方が重要では」
Week 3:「異業種」「異職種」の視点を導入
Day 15-18: 全く別の業界の人物(PM、デザイナー、アーティストなど)に、
自社の「問い」について説明し、
その人からの疑問や指摘を受けます。
「なぜそれを問うんですか」
「本当には、別の問題なのでは」
といった率直な反応こそが、
「盲点」を明らかにします。
Day 19-21: その反応を踏まえて、
「新しい問い」の候補を 3 つ以上、
リストアップします。
Week 4:実行と検証
Day 22-30: 新しい問いに基づいて、
「小規模な実験」を設計し、
2 週間で結果を得ます。
結果を踏まえて、
「本当の問い」はどれなのか、
を確定します。
第7章:「問い」の強度が、事業成長の質を決める
ここまで、「問い」の重要性について述べてきました。
最後に、より広い視点で、
「問い」がどのように事業成長全体に影響するのか、
を整理したいと思います。
7-1. 「弱い問い」の企業の特徴
「弱い問い」から始まる企業には、共通の特徴があります。
特徴1:「成長の天井」がある
「いかに効率化するか」という問いで最適化された企業は、
その問いの「最適解」に到達すると、
成長が止まります。
なぜなら、その問いの外側には、
選択肢がないから。
特徴2:「イノベーション」が生まれない
「与えられた問いに答える」という組織では、
根本的に新しい価値観は生まれません。
イノベーションは常に、
「当たり前の問い」を問い直すことから始まるからです。
特徴3:「変化への対応が遅い」
「弱い問い」で最適化された組織は、
その問いが有効な間は、
すぐに反応できます。
ただし、市場環境が変わり、
その問い自体が「時代遅れ」になると、
組織全体が麻痺します。
なぜなら、
「問いそのものを変える」
という経験がないから。
7-2. 「強い問い」の企業の特徴
対照的に、「強い問い」から始まる企業には、
別の特性があります。
特徴1:「成長の加速」がある
「強い問い」に基づく企業は、
1 つの問いを深掘りしながら、
同時に「新しい問い」を探し始めます。
その結果、成長が「直線」ではなく「曲線」になるのです。
特徴2:「イノベーションが常態化」している
「問い直す」という習慣が組織に埋め込まれていると、
イノベーションは「稀な事象」ではなく、
「常态」になります。
特徴3:「環境変化への適応が自然」
市場が変わっても、
組織に「問い直す DNA」があれば、
自然と戦略が転換されます。
なぜなら、
「問いそのものを更新する」
という能力が、組織的な筋肉になっているから。
7-3. 「問い」のバージョンアップ
実は、企業の成長とともに、
「問い」もバージョンアップされるべきです。
例えば、Stripe の場合:
起業初期の問い:「なぜ決済処理は複雑なのか」
成長期の問い:「なぜ、グローバル決済はばらばらなのか」
成熟期の問い:「なぜ、支払い周辺のエコシステムは非効率なのか」
各段階で、「問い」が進化しています。
その進化が、
初期は「決済 API」
成長期は「多通貨決済」
成熟期は「支払い周辺サービスの統合(Connect)」
といった、新しい価値提供につながったのです。
第8章:「問い」を組織の DNA に組み込む方法
最後に、実践的なポイント。
「問い直す」という習慣を、
組織の意思決定プロセスに埋め込むには、
どうすればよいのか。
8-1. 「問い直し」をプロセス化する
最も有効なのは、
全ての重大な意思決定の前に、
「その意思決定の背後にある『問い』は何か」
を問い直すプロセスを、
制度として組み込むことです。
形式:重要な施策提案の際に、
以下の質問に答えることを必須とする。
「この施策は、どのような『問い』に答えるものか」
「その問いの前提は何か」
「別の問いの方が重要ではないか」
このプロセスが制度化されると、
やがて組織全体で「問い直す」文化が醸成されます。
8-2. 「異業種交流」を組織に埋め込む
もう一つ、効果的なのは、
定期的に「全く別の業種の人物」と対話する
という制度です。
月 1 回、経営層が異業種のゲストを招待し、
「うちの問いについてどう思うか」
を問い直す。
その対話が、新しい視点をもたらします。
8-3. 「失敗事例の研究」を習慣化する
そして最後に、
同じ問いを問いながら失敗した企業の事例を,
定期的に研究することです。
「なぜ失敗したのか」
その分析が、
「本来問うべき問い」への気付きをもたらします。
第9章:シーシャログから見えた「問い」の力
ここまで、抽象的な事例を示してきました。
最後に、私自身の最新プロジェクト
「シーシャログ」という事例を通じて,
「正しい問い」がいかに事業設計を変えるのか,
具体的に示したいと思います。
9-1. シーシャログが問うた問い
シーシャログは、
「食べログのシーシャ屋版」というアプリですが,
その出発点は、
「なぜ日本には、シーシャカフェの『評判を信頼できる場所』がないのか」
という疑問です。
これは、一般的なビジネス分析からは決して生まれません。
なぜなら、「シーシャ市場」など、
経営学的には「ニッチ市場」に分類されるから。
市場規模分析では、
「参入する価値があるのか」という問いが優先されます。
ただし、私が問うたのは、
「市場規模」ではなく、
「シーシャという個人的な趣味の中で,
自分が本当に困っていることは何か」
というシンプルな疑問だったのです。
9-2. その疑問から見えた事業設計
その疑問から,以下のことが明確になりました。
困難さの本質:
店舗検索が困難(Google マップは情報が古い)
フレーバー情報が統一されていない
初心者にとって「どこが初心者向けか」が不明瞭
スタッフの対応品質にばらつきがある
その困難さを解く方法:
利用者(シーシャ愛好家)が、自分で店舗情報を更新できるプラットフォーム
フレーバーとスタッフ対応の「信頼スコア」
コミュニティ的な「初心者ガイド」機能
これらは、「市場規模」の分析からは決して出てこない,
「個人的な課題」を起点にしたデザインなのです。
9-3. シーシャログが「素材を編集して場を作る」という核心を強化する理由
実は,シーシャログという事業は,
Start-X の事業ポートフォリオにおいて,
「素材を編集して,場を作る人」
というコア定義を,
最も具現化するプロジェクトなのです。
くらべるメディア:情報を編集して,意思決定を支援
Marketing-OS:1000社の経験を蒸留し,編集して,提供
シーシャログ:シーシャカフェの情報を編集し,コミュニティの場を作る
全て,「素材の編集」という同じ原理で統一されています。
その統一性が,
個人ブランドの磁力を指数的に高めるのです。
最後に:問い直す勇気
ここまで述べてきたことは,
要するにこういうことです。
戦略の80%は,「何を問うか」で決まる。
その「問い」の質は,「市場分析の精度」ではなく,「個人の疑問の深さ」で決まる。
多くの経営者は,
「もっと詳細に分析しよう」
と考えます。
ただし,本当に必要なのは,
「現在の『問い』が本当に正しいのか」
を問い直す勇気です。
その問い直しの瞬間に,
事業成長の本当のきっかけが生まれるのです。
それでは,最後までお読みいただきありがとうございました!
次回は「成長企業だけがやっている「仮説の回し方」をテーマに,
お届けします。
今回は「グロース戦略はなぜ『間違った問い』から始まるのか」についてお届けしましたが,
今後も企業や事業などの分析を通じて,
お役立ち情報を発信していきます。
応援のほどよろしくお願いします。
ではでは。
いかがでしたか。今回の記事が少しでも参考になれば嬉しいです。
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