僕が顧問・アドバイザリー先を『年間5社』に絞る、本当の理由。
こんにちは、山口偉大です。
僕は、エグゼクティブ顧問・アドバイザリーの枠を、年間で最大5社に絞っています。
支援する範囲は、マーケティング施策だけではありません。
経営判断、ブランド、事業の伸ばし方、組織、AI活用、新規事業。経営者や経営層の意思決定パートナーとして、会社の重要な問いを横断して見ます。
料金は月50万円からです。
こう書くと、「限定5社」という希少性で売るためのセールストークに見えるかもしれません。
枠が少ないから、急いで申し込んだ方がいい。
高単価に見せるために、数を絞っている。
仕事を減らし、余裕のある働き方をしたい。
そう見える可能性は分かっています。
もちろん、枠を明示することに商売上の効果がないとは言いません。
でも、それが本当の理由ではありません。
年間5社は、売るために作った数字ではなく、受けた会社の判断を薄く扱わず、僕自身の独立した視点を守るために置いた上限です。
顧問の価値は、会議で話した時間ではない。会議の外でも、その会社の問いを持ち続けられるかで決まる。
今回は、なぜ顧問先を増やすほど、助言が一般論へ寄りやすいのか。その構造まで踏み込んで書いていきます。
1. 年間5社は、希少性の演出ではなく「容量の宣言」である
ありがたいことに、顧問・アドバイザリーの相談をいただく機会は増えました。
経営者から見ると、支援枠を5社に止めるのは、少し不思議に見えると思います。
需要があるなら、8社、10社と増やせばいい。
必要ならチームを増やし、もっと大きな売上を目指せばいい。
実際、専門サービスの会社は、人員、稼働率、案件数を増やしながら成長するのが一般的です。
僕自身も、以前は「相談が増えること」と「事業が強くなること」を、かなり近いものとして考えていました。
仕事の依頼が来る。
頼られる。
案件が増える。
売上が積み上がる。
一見すると、順調です。
ただ、顧問・アドバイザリーは、案件数を増やしても、同じ品質のまま横へ広げられる仕事ではありません。
資料作成や分析の一部は、AIや外部パートナーに渡せます。
定型的な診断や運用は、Marketing-OSやテンプレートで仕組みにできます。
商品・求人・店舗などのマスターデータを扱う業務は、FeedSyncでルールとデータ処理の流れを整えられます。
しかし、経営者が言葉にしきれていない迷いを聞き、数字と現場のズレを捉え、別の支援先で見た構造と比べ、今この会社が何を決めるべきかを返す部分は、簡単に複製できません。
その会社について考えた時間が必要です。
その経営者が何を大事にし、何を恐れ、過去にどんな判断をしてきたかを知る必要があります。
社員の名前、組織の関係、顧客の言葉、事業の季節性、社内で通じる言い回しまで、文脈として持つ必要があります。
年間5社とは、「5社分の会議ができる」という意味ではありません。
5社の経営文脈を、日常の中で持ち続けられる上限です。
枠を絞るとは、選ばれた会社だけを特別扱いすることではない。受けた会社を、薄く扱わないと約束することだ。
僕は、この数字を「限定感」ではなく、容量の宣言として置いています。
2. 顧問・アドバイザリーの仕事には、カレンダーに映らない原価がある
顧問・アドバイザリーの仕事を、月2回の会議だと考えると、5社は少なく見えます。
1社あたり月2回、1回60〜90分。
5社でも、会議時間だけなら月10〜15時間です。
それなら、10社でも20〜30時間。
十分に回せそうです。
でも、原価は、会議時間だけでは測れません。
会議の前に、前回の議事録を読む。
数字の変化を見る。
支援先から届いたチャットを確認する。
競合や市場のニュースを、その会社の文脈に置き直す。
会議後に、言葉にならなかった違和感を残す。
別の仕事をしている時に、「あの会社の問題は、広告ではなく商品構成かもしれない」と気づく。
資料を見ていない時間にも、文脈は頭の中で動いています。
この時間は、請求書にもカレンダーにも表れません。
それでも、助言の質を決めています。
Sophie Leroyの研究は、未完了の仕事から別の仕事へ切り替えた時、前の仕事についての認知活動が残る「attention residue」を示しました。2つの実験では、前の仕事から注意を完全に切り替えることが難しく、次の仕事のパフォーマンスが下がりました。
この研究は、顧問先を5社にすべきだと証明するものではありません。
ただ、案件を切り替えるたび、頭の中が完全に白紙へ戻るわけではないという事実は、専門支援の容量を考えるうえで重要です。
A社の値上げ。
B社の組織再編。
C社の新規事業。
D社のAI導入。
E社のブランド再定義。
その間に、Start-Xの経営、Marketing-OS、FeedSync、執筆、発信、音楽、生活があります。
顧問先が増えるほど、会議数だけでなく、未完了の文脈が増えます。
支援業の見えない原価は、時間ではない。頭の中に残り続ける、未完了の文脈である。
この原価を無視すると、カレンダー上は空いているのに、判断だけが鈍くなります。
3. 顧問・アドバイザリー先を増やすと生まれる「文脈負債」
僕は、顧問・アドバイザリー先が増えすぎた時に起きる問題を、文脈負債と呼んでいます。
技術負債は、短期的な実装を優先した結果、あとから修正や保守のコストが積み上がる状態です。
文脈負債も似ています。
案件を増やした直後は、売上が増えます。
会議も対応できます。
ただ、徐々に次のことが起きます。
前回の話を思い出すために、毎回ログを読み直す。
会議の冒頭で、背景説明が増える。
助言が、どの会社にも当てはまる一般論へ寄る。
経営者が以前話した言葉との矛盾に気づけない。
フォローが遅れ、追加の確認会議が増える。
その確認会議が、さらに別の文脈を分断する。
顧問・アドバイザリー先を増やしたことで生まれる循環を、図にすると次のようになります。

図解の要点は、案件数の増加が直接、質を下げるのではないことです。
案件数が増え、文脈を持ち直す時間が足りなくなり、助言が一般化する。
その結果、支援先側でも確認や手戻りが増え、さらに時間を奪われる。
質の低下が、新しい負荷を生む循環です。
Microsoftの2025年Work Trend Index特別レポートでは、Microsoft 365利用者は平均2分に1回、会議、メール、通知のいずれかで中断されていました。また、従業員の48%、リーダーの52%が、仕事を混沌として断片的だと感じています。
顧問・アドバイザリーという仕事で危険なのは、断片化が本人だけに見えることです。
会議では普通に話せる。
資料も返せる。
だから、周囲からは回っているように見える。
しかし、深い問いを持ち続ける力から、静かに失われます。
顧問・アドバイザリー先を増やすと、予定が埋まる前に、助言の解像度が薄くなる。
4. 専門サービスは、規模を増やすだけでは強くならない
専門サービス業では、売上を増やすために、稼働率、案件数、人員数を増やす発想が自然です。
ただし、量を増やせば成果が比例するわけではありません。
2025 Professional Services Maturity Benchmarkでは、専門サービス企業のEBITDAマージンは9.8%と歴史的な低水準で、稼働率は3年連続で低下し、納期内完了率は73.4%まで下がったと報告されています。一方で案件パイプラインは8%増えていました。
需要がないのではありません。
需要を、利益と品質へ変える運用が追いついていない。
この数字は、「顧客数を絞れば利益が上がる」と直接示しているわけではありません。
大規模組織と一人や少人数の会社を同列に扱うこともできません。
それでも、専門サービスでは、受注残や需要があっても、資源配分、納品、スコープ、間接コストを管理できなければ、売上を利益と信頼へ変えられないことが分かります。
僕が目指しているのは、大きな専門サービス会社ではありません。
大量の案件をチームへ割り当てるモデルでもありません。
経営者と近い距離で、会社の重要な問いを扱う、小さな顧問・アドバイザリー業です。
だから、最適化すべき数字は、稼働率ではありません。
一社あたりの請求時間でもありません。
次の意思決定が変わったか。
その会社に判断基準が残ったか。
僕がいない時も、経営と現場が同じ言葉で話せるようになったか。
ここを見ます。
多社型と、年間5社型の違いを、比較すると次の通りです。

多社型の価値は、標準化、専門機能、ベンチマークの提供にあります。
それが悪いわけではありません。
僕も、広く届ける部分は、書籍、ニュースレター、Marketing-OS、FeedSync、診断コンテンツへ置いています。
一方、顧問・アドバイザリー枠では、標準化しにくい問いを扱います。
広く届ける知識と、狭く背負う判断は、同じ売り方をしない方がいい。
知識は、できるだけ広く開く。
判断を一緒に背負う時間は、少数へ深く置く。
この二つを分けることで、商売と思想を両立させています。
5. 深い関係は、支援側だけでは作れない
顧問が深く考えれば、良い支援になる。
これも半分だけ正しいと思っています。
顧問・アドバイザリーは、支援側が答えを持っていく仕事ではありません。
支援先が持っている一次情報、現場の矛盾、過去の判断、組織の関係を共有し、一緒に問題を定義し直す仕事です。
2023年にPLOS ONEで発表された専門サービスの研究は、58人のプロジェクトマネージャーと171人の専門職を分析しました。顧客参加はチームの成果とメンバーのアイデア創造性に正の影響を持ち、その効果はチーム内の結びつきが強い時に大きくなりました。
一方で、顧客参加が常に良いとは限りません。
顧客内で問題認識が揃っていない。
特定の診断へ誘導しようとする。
必要な人員や時間を出せない。
こうした場合、参加は複雑さや政治性を増やし、専門職側を顧客の意向に捕らわれた状態へ近づける可能性も指摘されています。
つまり、深い支援には、アクセスだけでなく関係の質が必要です。
経営者へ率直に反対できる。
都合の悪い数字も見せてもらえる。
現場の人が、顧問向けに整えた報告ではなく、生の言葉を話せる。
支援先の中に、実行と学習を引き受ける人がいる。
この条件がないと、顧問の時間を増やしても深くなりません。
深い顧問関係は、長時間話すことで生まれない。都合の悪い事実を、互いに隠さず扱える関係から生まれる。
年間5社という上限は、支援先を選別するだけの仕組みではありません。
僕自身も、信頼に値する関わり方を続けられるかを問う基準です。
6. 書籍で「年間5社」と書いたのは、4つの仕組みを一緒に作るから
書籍『事業の成長は、すべて設計と編集である。──売上は、仕組みで決まる。』の巻末で、顧問・アドバイザリーを次のように位置づけました。
経営判断、ブランド戦略、組織設計、新規事業まで扱う
経営者と直接、月2回から週1回の対話を行う
月50万円から
年間限定5社まで
この枠は、単なる相談サービスではありません。
書籍で扱った4つの仕組みを、支援先の会社に合わせて、ゼロから一緒に組み立てる仕事です。
ブランドOSの最初の30項目を、経営者と一緒に書き出す。
顧客フィードの流れを、現場と一緒に描く。
AIや外部パートナーへ渡す仕事と、人間が握る判断の境界を決める。
学習ループを、毎週回せる形にする。
本の中心には、次の考え方があります。
会社は、誰かが書いた判断の集合体である。
だから、顧問の仕事も、答えを言うだけでは終わりません。
経営者の頭の中にある判断を、組織が使える形へ残す。
現場の違和感を、経営が見られる情報へ通す。
一度の成功を、次にも使える基準へ変える。
AIが作る素材を、会社らしい意思決定へ通す。
ここまで一緒に作ります。
5社に絞るのは、5社へ助言するためではない。5社の判断の仕組みを、会社の中へ残すところまで責任を持つためだ。
無料パートでは、ここまでを共有しました。
年間5社という数字は、希少性を演出するためでも、楽をするためでもありません。
顧問業の見えない原価である文脈を守り、支援先と深く問題を定義し、会社の中へ判断基準を残すための上限です。
ただ、ここで次の問いが残ります。
なぜ、3社ではなく5社なのか。
10社では、本当にだめなのか。
どんな会社なら受け、どんな会社なら断るのか。
月50万円という価格と、年間5社は、事業としてどう成立するのか。
関係を始めた最初の90日で、何を確認するのか。
ここから先では、僕が実際に使っている容量計算と判断基準を、数字とテンプレートまで含めて開きます。
年間5社とは、5社しか働かないという宣言ではない。5社の経営判断を、自分の頭の中に同時に置ける上限を宣言することだ。
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