事業が伸びないのは、戦略ではなく"構造"の問題だ

――どれだけ正しい戦略を描いても、構造が間違っていれば事業は動かない
山口偉大 2026.04.09
誰でも

こんにちは!山口です。

このニュースレターでは、企業のマーケティングや事業グロース戦略等について分析していきます。時折、ゲストを招いた対談記事なども配信していけたらと考えています。

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自己紹介

まずは簡単な自己紹介から。略歴はこんな感じです。基本的には、起業家として活動しながらも「マーケティングや事業開発/事業グロース」が自分のキャリアの軸となっております。

経歴

山梨県出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。PR会社「株式会社ベクトル」にてPRコンサルタントとして従事したのち、「株式会社Branding Engineer(現 株式会社TWOSTONE&Sons)」へ参画、各種人材・DX関連の事業立ち上げや事業部長・経営企画を歴任し独立。上場企業から地方の中堅・中小企業までありとあらゆる業種・規模感の新規事業開発 / マーケティング / ブランディング / PR支援等を実施。その後「Start-X合同会社」を設立。マーケティングや事業開発、クリエイティブ制作等の支援事業と共同・自社事業を複数展開。複数企業の顧問・アドバイザーも兼務。

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はじめに:「戦略は正しかった。なのになぜ伸びないのか」という呪い

「戦略は間違っていないはずなんです」

経営相談の現場で、この一言を聞く頻度は年々増えています。

言っている当人は本気でそう思っている。そして、実際に間違っていないことも多い。

市場調査は丁寧にやっている。競合分析もできている。ターゲット顧客の解像度も高い。打ち手の方向性も理に適っている。

なのに、事業は伸びない。

施策を打てば一時的に反応はある。しかし、継続的な成長につながらない。「踊り場」から抜け出せない。

こういうケースに何度も何度も直面するうちに、私はある仮説に辿り着きました。

「戦略が正しいのに伸びない」のではなく、「構造が間違っているから、正しい戦略が機能しない」のではないか。

この仮説を持って500社以上の事業に関わった結果、確信に変わりました。

事業が伸びない理由の8割は、戦略の問題ではなく、構造の問題です。

「もっと良い戦略を」と考える前に、「今の構造で、その戦略は機能するのか」を問うべきでした。

このレターでは、「構造」とは何か、なぜ構造の問題が見えにくいのか、そして構造をどう変えるかを、徹底的に解き明かします。

***

第1章:「戦略」と「構造」の混同が生む最大の経営の罠

1-1. なぜ私たちは「戦略」に答えを求めてしまうのか

事業が伸び悩んだとき、経営者が最初に手を付けるのは「戦略の見直し」です。

なぜか。

理由は単純です。「戦略」は言語化しやすく、変更しやすいからです。

「ターゲットを変える」「価格を変える」「チャネルを変える」「メッセージを変える」——これらはすべて、比較的短期間で意思決定できる「戦略レベルの変更」です。

決定から実行まで、早ければ数週間。

経営会議でホワイトボードに書き、合意して、走り出せる。

戦略は、変えることが「行動している感」を生み出すのに最も向いているツールです。

一方、「構造」は違います。

構造とは、組織の意思決定の流れ、情報の伝達経路、インセンティブの設計、顧客との関係の質、ビジネスモデルの物理的な「形状」です。

これらは「変える」という意思決定をしても、実際に変わるまでに半年〜2年かかる。

変わったかどうかを確認する方法も難しい。

経営会議でホワイトボードに書いて解決できるものではない。

だから、経営者は無意識に「構造の問題」を「戦略の問題」に読み替えてしまいます。

解決しやすい問題の形に変換してから取り掛かる——これが「戦略という罠」の正体です。

1-2. 「戦略」とは何か、「構造」とは何か

まず定義を整理します。

戦略(Strategy):何をするか、どこに資源を集中するか

戦略は、選択と集中の意思決定です。

「このターゲット顧客に」「この価値提案で」「このチャネルを通じて」「この価格帯で」アプローチする——というのが戦略の中身です。

戦略は「何を」「どこに」「どのくらい」という問いに答えるものです。

構造(Structure):戦略を実行するための「器」

構造は、戦略が機能するための物理的・組織的な前提条件です。

「その戦略を継続的に実行できる意思決定の仕組みがあるか」「その戦略が機能するビジネスモデルになっているか」「その戦略を支えるインセンティブが組織に設計されているか」——というのが構造の中身です。

構造は「仕組み」「流れ」「関係性」「制約」という問いに答えるものです。

この2つの違いをもっとシンプルに表現すると、

戦略=地図
構造=地形

地図(戦略)がどれほど精巧でも、地形(構造)が険しければ、その地図通りには進めません。

川を渡る計画を立てても、橋がなければ渡れない。

山を越える計画を立てても、足腰が弱ければ越えられない。

「正しい地図」と「走れる地形」は、別の問題です。

多くの経営者は地図を精緻にし続ける。しかし、地形を整備しない。

これが「戦略は正しいのに伸びない」という状況を生み出しています。

1-3. 「構造の問題」が見えにくい3つの理由

なぜ、構造の問題は戦略の問題に比べて見えにくいのでしょうか。

理由①:構造は「空気」のように自明化する

長く同じ組織で働いていると、その組織の構造は「当然あるもの」になります。

意思決定のプロセス、情報の流れ、評価の基準——これらはいつしか「空気」のように自明化し、疑問の対象になりません。

「うちはそういう会社だから」「業界全体がそうなっているから」という言葉が出始めたら、構造が自明化している証拠です。

理由②:構造の問題は「別の何か」のせいに見える

構造の問題が顕在化する時、それは直接「構造が問題だ」という形では現れません。

「営業の動きが悪い(実際は営業インセンティブの設計の問題)」

「マーケの施策が機能しない(実際は顧客との接点設計の問題)」

「新規事業が育たない(実際は既存事業の評価制度が新規事業を阻害している問題)」

症状は「人の問題」「施策の問題」「市場の問題」として現れますが、根因は構造にある。

理由③:構造の変化には「痛み」が伴う

構造を変えるということは、誰かの仕事のやり方を変えることであり、誰かの評価基準を変えることであり、場合によっては誰かの権限を変えることです。

これは、組織内に必ず抵抗を生みます。

だから、構造の問題が見えたとしても、「構造を変える」という選択は回避されやすい。

代わりに「戦略を変える」という、より小さな痛みで解決しようとします。

結果として、構造は温存され、問題は解決されません。

***

第2章:事業の成長を阻む「5つの構造的問題」

では、具体的にどのような「構造の問題」が事業成長を阻むのでしょうか。

私がコンサルティング現場で繰り返し遭遇する、5つの構造的問題を解剖します。

構造的問題①:「誰が顧客か」が組織内で統一されていない

最も根本的で、最も見落とされやすい構造的問題です。

「顧客は誰か」——これは、あまりにも基本的な問いに見えます。

だから、多くの組織では「当然わかっている」ものとして扱われます。

ところし、実際に「顧客は誰ですか」と組織の各部門に聞くと、部門によって答えが微妙に、しかし決定的に異なることがあります。

例として、とある架空のBtoB SaaS企業「株式会社フロンティア(仮称)」の場合を見てみましょう。

フロンティアは中堅製造業向けの生産管理ツールを提供しています。

この会社で「顧客は誰か」を各部門に聞くと、こうなります。

営業部門の答え:「製造部門の部長クラス。現場の課題を持っている人たちが顧客です。彼らが稟議を通してくれないと契約できません」

マーケティング部門の答え:「経営企画や情報システム部門のDX推進担当者。彼らが課題感を認識して検討を始めるので、彼らに刺さるコンテンツを作っています」

カスタマーサクセス部門の答え:「実際に毎日ツールを使う現場の作業者たちが顧客です。彼らが使いこなせなければ解約になります」

経営陣の答え:「中堅製造業の経営者。最終的に意思決定するのは経営者なので、経営者に価値を示す必要があります」

全員が「当然わかっている」と思っていながら、4者4様の「顧客像」を持っています。

この状況では、何が起きるか。

マーケティングが作るコンテンツは「DX推進担当者」向けに最適化されますが、そのコンテンツで獲得したリードを渡された営業が「製造部門の部長クラス」に話しに行くと、トーンが合わない。

営業が獲得した顧客に、カスタマーサクセスが「現場作業者」向けのオンボーディングをしようとすると、「そういう使い方をするつもりはない」と言われる。

各部門がバラバラの「顧客」に最適化しているため、組織全体として一貫した顧客体験を作れない。

これは「戦略の失敗」ではなく、「顧客定義の構造的不統一」という問題です。

戦略を変えても、この構造的問題が解決されない限り、同じことが繰り返されます。

構造的問題②:「価値提供の連鎖」が切断されている

企業が顧客に価値を提供するプロセスは、複数の部門をまたいで連鎖しています。

マーケティング → 営業 → プロダクト → カスタマーサクセス

この連鎖が「切断されている」企業は、どれほど優れた戦略を持っていても、顧客に価値を届けられません。

切断の典型的なパターンを見てみましょう。

パターンA:マーケティングと営業の断絶

マーケティングは「リード数」を最大化するインセンティブを持っています。

営業は「受注数(もしくは受注金額)」を最大化するインセンティブを持っています。

この2つのインセンティブが「同期していない」場合、マーケティングは「量の多いリード(質が低い)」を大量に獲得し、営業に渡します。

営業は質の低いリードを処理する非効率が生まれ、受注率が下がります。

どちらも「自分のKPIに向かって合理的に動いている」のに、組織全体として非合理な結果が生まれます。

パターンB:プロダクトと顧客の断絶

プロダクト開発チームが「何を作るか」を決定するプロセスに、顧客の声が直接届いていない場合に起きます。

顧客フィードバックはカスタマーサクセスが受け取り、それを営業がプロダクトマネージャーに伝え、プロダクトマネージャーが翻訳して開発に渡す——という長い伝言ゲームになっている。

情報が各段階で変換・削減されるため、プロダクトが「作りたいものを作る」状態になります。

機能追加は続くが、顧客が本当に必要としているものは作られない。

パターンC:カスタマーサクセスと事業成長の断絶

顧客の成功体験が、新規獲得に循環していない場合です。

「顧客が喜んでいる」という情報がカスタマーサクセス部門にとどまり、マーケティングのコンテンツ制作に活用されない。成功した顧客がリファラル(紹介)や口コミの発信者にならない。

顧客の成功が「事業の次の成長の燃料」として機能していない。

これらはすべて「戦略の問題」ではありません。

価値提供の連鎖が、組織の縦割り構造によって物理的に切断されているという「構造の問題」です。

構造的問題③:「意思決定の速度」と「市場の変化速度」のミスマッチ

現代のビジネス環境では、市場の変化速度が組織の意思決定速度を上回ることで起きる構造的問題が深刻化しています。

具体的に何が起きているか。

例えば、あるマーケティング施策の効果が「機能しない」ことがデータで示されたとします。

施策を変更するために、マーケティング担当者は「施策変更の稟議」を上げます。

承認フローは「マーケティングマネージャー → マーケティング部長 → 事業部長 → CFO(予算変更のため)」という4段階。

最短でも2週間かかる。

その間、機能しない施策に予算が使われ続けます。

2週間後に承認が下り、新しい施策の設計に1週間、実装に1週間、合計4週間後にようやく新施策が動き始めます。

ところし、この4週間の間に、市場環境はまた変化しています。

競合が新しい施策を打っている。ターゲット顧客の関心が別のトピックに移っている。プラットフォームのアルゴリズムが変わっている。

組織の意思決定速度が市場の変化速度に追いついていない場合、どれほど正しい判断をしても、常に「4週間遅れの判断」になります。

これは戦略の問題ではありません。

意思決定の構造の問題です。

承認フローの設計、権限委譲の構造、予算の使用権限の配分——これらを変えない限り、「速い戦略」は機能しません。

構造的問題④:「正しい失敗」を学習に変換できない

事業成長には、実験と学習のサイクルが不可欠です。

しかし、多くの組織では「失敗」が「学習」に変換されない構造になっています。

なぜか。

失敗に対する評価制度が「失敗=マイナス評価」になっているからです。

この評価制度のもとでは、組織メンバーは「失敗を隠す」か「失敗しそうなことに挑戦しない」かのどちらかを選びます。

結果として、組織は「確実に成功する施策だけ」を実行するようになります。

「確実に成功する施策」とは何か。

過去に成功した施策のリピートです。

過去の成功体験のコピーは、確かに「失敗しにくい」。しかし、市場環境が変化した状況では、「効果を発揮しにくい」。

実験しない → 失敗しない → 学習しない → 環境変化に対応できない → 事業が伸びない

これが「正しい失敗を学習に変換できない構造」が引き起こす成長停滞のメカニズムです。

重要なのは、この問題が「挑戦する意欲のない人材」の問題として語られがちだということ。

「うちの社員はチャレンジ精神がない」という言葉の裏側には、ほぼ必ず「失敗を許容しない評価制度」という構造的問題が潜んでいます。

構造的問題⑤:「収益構造」がビジネスモデルの進化を阻害している

最も根深い構造的問題が、収益構造そのものです。

現在の収益構造(どこから、どのように、どのくらいの比率で収益を得ているか)は、経営者が「次の成長」のために取るべき戦略的選択を制約します。

例として、架空のメディア企業「株式会社ルーメン(仮称)」のケースを見てみましょう。

ルーメンは広告収入に80%依存したデジタルメディアです。

2022年頃から、広告収入モデルの限界が見えてきました。

ページビューが伸びても広告単価が下がり、収益成長が鈍化。コンテンツの質より量を求める広告主の要求が、コンテンツの質を低下させる圧力になっている。

経営陣は「サブスクリプションへの転換」を戦略として打ち出しました。

高品質な有料コンテンツを作り、読者から直接課金する——という方向性は正しい。

ところし、この戦略の実行を阻んだのは何か。

現在の収益構造そのものでした。

広告収入に依存している以上、「広告主が喜ぶコンテンツ」を優先せざるを得ない。

広告主は「バイラルなコンテンツ」「多くの人が読む大衆向けコンテンツ」を好みます。

しかし、サブスクに転換するためには「深く読まれる専門性の高いコンテンツ」が必要です。

この2つのコンテンツ戦略は、根本的に矛盾しています。

広告収入を維持しながらサブスクに転換しようとすると、コンテンツ戦略が「どちらにも半端」な状態になります。

どちらにも半端な状態で、どちらの戦略も機能しない。

「サブスクへの転換」という戦略は正しかった。しかし、広告依存という収益構造を変えないまま戦略だけを変えようとしたから、機能しなかった。

これが収益構造という「構造の問題」が引き起こす戦略の無効化です。

***

第3章:「構造の問題」が「戦略の問題」に見える理由の解剖

3-1. 「症状」と「根因」の混同

医療の世界に「症状治療」と「根治治療」という概念があります。

症状治療:発熱に解熱剤を投与する。痛みに鎮痛剤を投与する。症状は一時的に緩和されるが、根本原因は解決されない。

根治治療:感染症の場合は抗菌薬で菌を倒す。骨折の場合は骨を正しい位置に固定する。根本原因を解決するため、症状は再発しない。

事業成長においても、同じ構図が当てはまります。

「新規顧客が増えない」という症状に対して、「広告費を増やす」「コンテンツを増やす」「営業人員を増やす」という対応は「症状治療」です。

一時的に指標が改善するかもしれない。ところし、根本原因(例えば「顧客定義の不統一」「価値提供の連鎖の切断」)が解決されない限り、増やしたリソースも同じ構造的問題にぶつかります。

多くの企業が「戦略を変える」という名目で行っていることの実態は、症状治療です。

根治のためには、症状の奥にある「構造」に手を入れる必要があります。

3-2. 「すぐ確認できる問題」と「遅れて現れる問題」の非対称性

構造の問題が見えにくいもう一つの理由は、構造の問題が「遅れて現れる」という特性を持つからです。

戦略の問題は比較的早く現れます。

「この広告クリエイティブは機能しない」は2週間後にわかります。

「このターゲット設定は間違っている」は1〜2ヶ月後にわかります。

一方、構造の問題が顕在化するのは、1〜3年後です。

「顧客定義が組織内で統一されていない」という問題は、組織規模が小さいうちはコミュニケーションで補えるため、顕在化しません。

組織が成長し、部門間のコミュニケーションが難しくなった時、初めて「顧客定義の不統一」という構造的問題が表面に現れます。

問題が顕在化した時点では、その原因が1〜3年前の構造的欠陥にあることが多いため、経営者は「最近変えた何か」を原因として探してしまいます。

「戦略が間違っているから問題が起きた」と考えてしまう。

しかし実際には「3年前から存在していた構造的欠陥が、今になって顕在化した」という状況であることが多い。

3-3. 「人の問題」への誤帰因

構造の問題が最も頻繁に誤帰因されるのは、「人の問題」です。

「営業の動きが悪い」——本当は、営業インセンティブの設計が間違っている(構造の問題)

「マーケのリードの質が低い」——本当は、マーケと営業のKPIが同期していない(構造の問題)

「新規事業担当者に覇気がない」——本当は、既存事業の評価制度が新規事業への挑戦を罰している(構造の問題)

「顧客対応の品質がバラバラだ」——本当は、顧客体験の設計と評価の基準が統一されていない(構造の問題)

構造が間違っていれば、正しい人を入れても同じ問題が再現します。

逆に言えば、「人を変えても問題が解決しない」という状況が繰り返されているなら、それは構造の問題である可能性が高い。

「人の問題」に見えているものを「構造の問題」として捉え直す視点の転換が、根治への第一歩です。

***

第4章:事例分析 ── 「構造の問題」が事業を止めた3つのパターン

ケース①:成長が止まった中堅SaaS「株式会社アセンド」(架空)

アセンド(仮称)は、中小企業向けの人事管理SaaSです。

創業から4年で、ARR(年次経常収益)2億円を達成。「次の4年でARR10億円」という目標を掲げ、経営陣は攻めの戦略を描きました。

戦略の内容は以下でした。

  • 営業人員を2名から10名に増員

  • マーケティング予算を3倍に拡大

  • 機能開発を加速し、競合製品との差別化を図る

  • エンタープライズ(大企業)セグメントへの参入

どれも「正しい戦略」に見えます。

しかし、2年後にARRは2.8億円にとどまり、経営陣は頭を抱えていました。

なぜ伸びなかったのか。

私がアドバイスのために現場に入り、3ヶ月間かけて分析した結果、判明したのは4つの構造的問題でした。

構造的問題A:「中小企業向け」と「エンタープライズ向け」のセールスプロセスが同一になっていた

アセンド(仮称)は「エンタープライズへの参入」という戦略を掲げながら、営業プロセスを変えていませんでした。

中小企業向けのセールス(意思決定者1〜2名、商談2〜3回で受注)と、エンタープライズ向けのセールス(意思決定者6〜10名、商談10〜20回で受注)は、まったく異なるプロセスが必要です。

増員した8名の営業は、中小企業向けのプロセスでエンタープライズにアプローチし続けました。

受注サイクルが長すぎて、KPIの「月次受注件数」を達成できない。

結果として、営業はエンタープライズを諦め、「受注しやすい中小企業」に戻っていきました。

戦略は「エンタープライズ参入」。しかし、構造は「中小企業向け」のまま。戦略が機能するはずがない。

構造的問題B:採用した営業人員のオンボーディング構造がなかった

2名から10名への営業増員は「戦略的に正しい」判断でした。

ところし、アセンド(仮称)には「新しい営業メンバーを戦力化する構造」がありませんでした。

製品の知識、競合との違い、典型的な顧客の課題、効果的なデモの進め方——これらを体系化した「営業イネーブルメントの仕組み」が存在しなかった。

2名の時代は、創業営業メンバーが「現場のOJT」で暗黙知を伝えていた。

10名になると、その暗黙知の伝達が追いつかない。

結果として、新規採用の8名は戦力化に1年以上かかり、その間のパフォーマンスは著しく低かった。

「人を増やす」という戦略を機能させるためには、「人を戦力化する構造」が先に必要でした。

構造的問題C:マーケティングと営業の情報共有に構造的な断絶があった

マーケティング予算を3倍に増やした結果、リード数は増えました。

ところし、増えたリードの「質」について、営業からマーケティングへのフィードバックが届く仕組みがありませんでした。

マーケティングは「リード数」というKPIを達成していたため、「問題なし」と認識。

営業は「リードの質が低い」と感じていたが、その情報がマーケティングの施策修正に活用されていなかった。

結果として、マーケティング費用の3倍増のうち、真に有効な顧客獲得に使われていたのは一部に過ぎなかった。

構造的問題D:機能追加と顧客価値の因果関係が検証されていなかった

「機能開発の加速」という戦略の下、プロダクトチームは次々と新機能を追加しました。

ところし、「どの機能が顧客のどの課題を解決しているか」「その機能の利用率はどのくらいか」「その機能を使っている顧客と使っていない顧客で解約率は違うか」といった分析は、ほぼ行われていませんでした。

機能は増え続けたが、「顧客の成功体験」に直結する機能が何かを把握していなかった。

結果として、開発リソースが「顧客が使わない機能」の開発に多く費やされ、「顧客が本当に求めている機能」の開発が後回しになっていました。

この4つの構造的問題は、「戦略を変える」だけでは解決しません。

それぞれについて、「構造を変える」具体的な設計が必要でした。

私たちは3ヶ月で以下の構造的変更を実施しました。

  • エンタープライズ専用のセールスプロセスとKPIの設計

  • 営業イネーブルメントのプログラム(プレイブック、デモ動画、競合比較シート)の整備

  • マーケティングと営業の週次フィードバックセッションの制度化

  • 製品ログを用いた「フィーチャーアダプション率」の可視化と開発優先度への反映

これらの構造的変更の実施から12ヶ月後、アセンドのARRは2.8億円から4.5億円に成長しました。

戦略は2年前から変わっていません。変えたのは、構造だけです。

ケース②:「売れる商品があるのに拡大できない」D2C企業「ミネルバ」(架空)

ミネルバ(仮称)は、ナチュラルスキンケアのD2Cブランドです。

主力商品は、口コミで「本当に肌が変わった」と絶賛されるフェイスクリーム。

ローンチ初年度に1.2億円を達成し、「これは本物の商品だ」という手応えがありました。

2年目に向けて経営陣は「月商1億円」を目標に、広告投資を5倍に増やす戦略を立てました。

結果、広告費は増えました。リードも増えました。

ところし、LTV(顧客生涯価値)が想定より30%低く、広告費用対効果が著しく悪化。

2年目は売上こそ2億円になったが、広告費の増加で利益は1年目より低下しました。

「商品は良い」「戦略も間違っていない(はず)」——しかし、数字は良くない。

分析の結果、見えてきたのは3つの構造的問題でした。

構造的問題A:「口コミで売れる商品」と「広告で売れる商品」では、購買後のプロセスが異なる

ミネルバ(仮称)の商品は「口コミで来た顧客」には高い効果実感と満足度が生まれ、高いリピート率を実現していました。

しかし「広告で来た顧客」は、使用前の期待値が「口コミ顧客」より高く、効果実感のハードルが高かった。

口コミ顧客:「友達が勧めてくれた」→「思ったより良かった」→高満足→リピート
広告顧客:「広告で気になった」→「思ったほどではなかった」→低満足→離脱

「商品は同じ」でも「顧客の来り方」によって体験の構造が変わる——という事実が、設計に反映されていませんでした。

構造的問題B:「初回購入後のコミュニケーション設計」が広告顧客向けに最適化されていなかった

ミネルバ(仮称)の購入後フォローアップは、「すでにブランドのファン」である口コミ顧客を前提に設計されていました。

購入後のメールは「ありがとうございます、また来てください」という薄い内容。

一方、広告から来た顧客には「この商品の正しい使い方」「効果が出るまでの適切な期間」「なぜこの成分が有効なのか」という、ブランドへの信頼構築のためのコンテンツが必要でした。

この「顧客の理解を深め、信頼を構築する」コミュニケーション設計が欠けていた。

構造的問題C:LTVの計算に「顧客獲得チャネル別」の区分がなかった

ミネルバ(仮称)は「LTV:平均1.8万円」という数字を把握していましたが、それは全顧客の平均でした。

チャネル別に分析すると、

口コミ経由:LTV 3.1万円
SNS広告経由:LTV 1.1万円
検索広告経由:LTV 0.9万円

という大きな差がありました。

検索広告の顧客のLTV(0.9万円)に対して、CPAが1.5万円であれば、広告は使えば使うほど赤字になります。

この数字を「チャネル別に見る構造」がなかったため、「広告全体のROASは100%を超えている(一見黒字に見える)」という誤解の中で、赤字垂れ流しの広告投資が続いていました。

戦略ではなく、「LTVをチャネル別に把握する計測構造」が欠けていたことが問題でした。

ケース③:「組織は大きくなったのに成長が止まった」IT企業「スタースケープ」(架空)

スタースケープ(仮称)は、デジタルマーケティング支援のIT企業です。

創業3年で社員20名、年商3億円を達成。

「次は社員50名、年商10億円」という目標を掲げ、採用を加速しました。

2年後、社員数は45名になりました。ところし、年商は4億円にとどまっています。

社員は2倍以上になったのに、売上は33%しか増えていない。

生産性が著しく低下しています。

なぜか。

分析の結果、判明したのは「組織設計の構造的欠陥」でした。

創業期(社員20名以下)の組織は、全員が代表の目が届く範囲にいて、「フラットな意思決定」ができていました。

代表が直接、全案件の方針を決め、全メンバーのアウトプットを確認していた。

この「ハブ型」の組織設計は、20名以下では機能します。

しかし、45名になると破綻します。

代表がボトルネックになる。すべての意思決定が代表の承認を待つため、動きが遅くなる。

代表の時間が不足し、案件の品質確認が追いつかない。

45名の組織に、20名の組織設計を適用し続けたことが、生産性低下の根本原因でした。

必要だったのは「組織設計の再構築(構造の変更)」でした。

具体的には、以下のような構造変更が必要でした。

  • 事業ラインに沿ったチーム制の導入(代表への集中から、チームリーダーへの分散へ)

  • 各チームリーダーへの権限委譲と評価制度の整備

  • 案件進行の標準化(代表の頭の中にあった「良い仕事の基準」を明文化)

  • 情報共有の仕組みの構築(代表が全情報を持つ状態から、組織全体で情報を共有する状態へ)

戦略を変えたのではありません。組織設計という「構造」を変えました。

***

第5章:「構造を変える」とはどういうことか ── 6つの構造変更のアプローチ

では具体的に、「構造を変える」ためには何をすればよいのか。

6つのアプローチを整理します。

アプローチ①:「顧客定義の統一」プロセスを設計する

最初に手を付けるべきは、「顧客は誰か」という定義を組織全体で統一することです。

これは一見シンプルですが、実践は難しい。

なぜなら、「顧客定義」は各部門がそれぞれに最適化されたものを持っているからです。

統一のプロセスは次のように設計します。

ステップ1:各部門の「顧客定義」を言語化・収集する

マーケティング、営業、カスタマーサクセス、プロダクト、経営陣それぞれが「誰が顧客か」を文書化します。

ステップ2:差異を可視化し、議論する

収集した定義の差異を比較し、「なぜ違うのか」を議論します。

この議論の中で、各部門がどのような前提を持っているかが明らかになります。

ステップ3:「主顧客」「副顧客」「利用者」の3層に整理する

多くの場合、「顧客」には3つの役割が存在します。

「主顧客(購買決定者)」「副顧客(予算保有者・推薦者)」「利用者(実際に使う人)」

これらを明確に区別し、各部門がどの層に対してどのようにアプローチするかを統一します。

ステップ4:「顧客定義書」として文書化し、全部門で共有する

顧客定義を「生きたドキュメント」として管理し、四半期ごとに見直す習慣を作ります。

アプローチ②:「価値提供の連鎖」を可視化し、切断箇所を特定する

組織内の「価値提供の連鎖」を可視化するために、「バリューストリームマッピング」を実施します。

顧客が初めて自社を知るところから、価値を受け取り、リピーターになるまでの全プロセスを図示します。

各プロセスで「誰が」「何を」「どの情報をもとに」「どのツールを使って」動いているかを明確にします。

この可視化の中で、以下を特定します。

  • 「情報が途切れる箇所」(マーケから営業へのリード引き継ぎ、営業からCSへの情報引き継ぎ等)

  • 「責任の空白地帯」(誰も責任を持っていないプロセス)

  • 「手作業による処理が多い箇所」(自動化・構造化の余地)

  • 「顧客の体験が分断される箇所」(部門間の切れ目で顧客体験が非連続になっている箇所)

この可視化を通じて、「どこに構造的問題があるか」が地図として見えてきます。

アプローチ③:「意思決定の権限委譲マップ」を作成する

意思決定の速度を上げるためには、「誰がどの意思決定をする権限を持っているか」を明示化し、適切な委譲を行う必要があります。

権限委譲マップの作成ステップは以下です。

ステップ1:組織内で行われる意思決定を全てリストアップする

日常的な意思決定から戦略的な意思決定まで、できる限り網羅的にリストアップします。

ステップ2:現状の意思決定者と「本来の意思決定者」を比較する

「現在誰が決めているか」と「本来誰が決めるべきか」を比較します。

ボトルネック(特定の人物に集中している意思決定)を特定します。

ステップ3:委譲すべき意思決定と委譲条件を設定する

委譲するにあたって必要な条件(スキル、情報、権限の範囲)を明確にします。

ステップ4:「意思決定ガイドライン」を文書化する

委譲後に各メンバーが「何をもとに決断するか」のガイドラインを整備します。

これにより、委譲された権限が「正しく使われる」ための構造が整います。

アプローチ④:「実験の構造」を設計する

正しい失敗を学習に変えるためには、「実験が安全にできる構造」を意図的に設計する必要があります。

具体的には以下の要素を設計します。

実験の承認プロセスの軽量化

小規模な実験(例:予算50万円以下、期間1ヶ月以内)は、担当者レベルで承認・実行できるプロセスを設計します。

実験の評価軸の事前設定

実験を開始する前に「何をもって成功・失敗と判断するか」を明確にします。

これにより、「失敗を認める」ことへの心理的コストが下がります。

失敗の「学習化」の義務付け

実験の結果がどうであれ、「何を学んだか」を文書化する習慣を組織に埋め込みます。

失敗を「学習の資産」として扱う文化を、制度として設計します。

実験結果の「組織知識化」のプロセス

個々の実験から得た学びを、組織全体の知識として蓄積・共有する仕組みを設計します。

アプローチ⑤:「収益構造の多様化」を計画的に設計する

収益構造を変えることは、最も時間のかかる構造変更です。

しかし、ビジネスモデルの進化のためには不可欠です。

収益構造の多様化を設計する際のフレームワーク:

現在の収益構造の「リスク診断」

  • 売上の何%が単一の収益源に依存しているか

  • その収益源は今後3〜5年で拡大・縮小するか

  • 収益源の変化が現在の戦略的選択肢をどのように制約しているか

「次の収益構造」の仮説設計

  • 3年後に目指す収益源の構成比

  • 新たな収益源を構築するために必要な顧客との関係性の変化

  • 既存収益を維持しながら移行するためのロードマップ

移行のための「過渡期の構造設計」

収益構造の転換は一夜にはできません。

過渡期において、新旧の収益モデルが共存できる「ハイブリッド構造」を意図的に設計することが重要です。

アプローチ⑥:「組織の成長段階」に合わせた設計変更

スタースケープ(仮称)のケースで見たように、組織の成長段階によって最適な構造は変わります。

組織の成長段階と、それぞれに適した構造の特徴を整理します。

フェーズ1(1〜10名)

特性:全員が同じ情報を持ち、直接コミュニケーションが取れる
最適構造:フラットなチーム型。意思決定は全員参加。代表が全情報を持つ「ハブ型」でも機能する

フェーズ2(10〜30名)

特性:全員が直接コミュニケーションを取ることが難しくなる
最適構造:機能別の役割分担。情報共有の仕組みが必要になる。代表の「ハブ型」はこの段階で機能しなくなり始める

フェーズ3(30〜100名)

特性:部門間の情報断絶が起きやすい。意思決定のボトルネックが生まれる
最適構造:チーム制の導入。権限委譲の明文化。情報の透明化(社内Wiki、ダッシュボード等)

フェーズ4(100名以上)

特性:組織文化の統一が難しくなる。新旧メンバーの価値観の差が生まれる
最適構造:事業部制またはスクワッド制。文化の明文化(バリュー、行動指針)。マネジメント層の育成制度

自社の組織規模が成長した際に「前のフェーズの構造を持ち続けていないか」を定期的に検証することが重要です。

***

第6章:「構造的思考」を持つ経営者・CMOになるための視点転換

6-1. 「なぜ機能しないのか」の問いを「Who」から「How」に変える

問題が起きた時、多くの経営者は「誰が問題か(Who)」を探します。

「誰が失敗したのか」「誰の判断が間違っていたのか」

構造的思考を持つ経営者は、「どの仕組みが機能していないか(How)」を探します。

「どのプロセスが問題を生み出したのか」「どの設計が誤った行動を誘発したのか」

この問いの立て方の違いが、「人を変える」という症状治療から「構造を変える」という根治治療への転換を生み出します。

「Who is wrong?」ではなく「How is the system broken?」

これが構造的思考の起点です。

6-2. 「現在の成功」が「将来の構造的欠陥」を隠していることを知る

非常に重要な視点として、現在うまくいっている企業こそ、「構造的欠陥が見えにくい状態」にあることを知っておく必要があります。

成功している時期は、構造的問題が「成長のエネルギー」に隠されます。

市場が伸びている、商品が当たっている、優秀なメンバーが揃っている——こうした外部・内部の好条件が揃っている時は、構造的欠陥があっても顕在化しません。

むしろ「成功しているのだから、この構造で正しい」という誤った確証が生まれます。

そして、市場の成長が鈍化した時、商品が陳腐化した時、優秀なメンバーが離脱した時——初めて、長い間温存されてきた構造的欠陥が一気に顕在化します。

成功している時こそ、「この成功は構造の健全さによるものか、それとも外部環境の追い風によるものか」を問い続けることが必要です。

追い風があっても飛べない構造は、追い風がなくなった瞬間に墜落します。

6-3. 「構造を変えるコスト」と「変えないコスト」を正しく比較する

前のレターでも触れましたが、構造を変えることへの躊躇の根本には「変えることのコストの過大評価」があります。

構造を変えることは確かにコストがかかります。

  • 変更の設計コスト

  • メンバーへの説明・説得コスト

  • 移行期間の混乱コスト

  • 慣れるまでの非効率コスト

これらは「可視化されたコスト」です。

一方、変えないことのコストは「不可視」です。

  • 間違った方向への組織エネルギーの継続的な投入コスト

  • 構造的問題が顕在化した際の事後対処コスト

  • 優秀な人材が「構造に阻まれて成果を出せない」ことで離脱するコスト

  • 市場機会を逃し続けることの機会損失コスト

不可視のコストは、可視のコストの数倍から数十倍に及ぶことがほとんどです。

構造を変えるか否かの意思決定において、可視コストと不可視コストを同じ重みで評価できる経営者が、「構造を変える」という正しい選択ができます。

6-4. 「戦略の実行力」を「構造の設計力」から切り離さない

最後に、最も重要な視点転換を共有します。

多くの経営論では「戦略」と「実行」が分離されて議論されます。

「優れた戦略」と「高い実行力」が揃えば、事業は成長する——という論理です。

この論理は正しい。しかし、「実行力」の実態を誤解していることが多い。

「実行力」を「個々のメンバーの能力・意欲・スピード」と捉えている限り、「実行力が低い」という問題は「人の問題」になります。

「実行力」の本質は「構造的実行能力」——つまり、正しい行動が生まれやすく、間違った行動が生まれにくい構造が設計されているかどうかです。

優れた戦略を「優秀な個人の努力」で実行しようとすれば、スケールしません。

優れた戦略を「優れた構造」が支えることで、初めて組織全体として継続的に実行できます。

「戦略を考える人」と「構造を設計する人」は、本来同じ人物であるべきです。

戦略と構造を分離して考えてきた経営者は、両者を統合する視点を持つことで、「機能する戦略」を作れるようになります。

***

第7章:「構造診断」の実施方法 ── 今すぐ自社の構造の健全性を測る

7-1. 構造健全性の自己診断チェックリスト

以下の15の問いに「はい/いいえ」で答えてください。

「いいえ」が多いほど、構造的問題の可能性が高いです。

顧客定義の統一

□ 全部門が「誰が主な顧客か」について同じ定義を持っているか
□ 顧客のセグメントと購買意思決定プロセスが文書化されているか

価値提供の連鎖

□ マーケティングから営業へのリード引き継ぎのプロセスが明文化されているか
□ 顧客からのフィードバックが製品開発に直接届く仕組みがあるか
□ カスタマーサクセスの成功事例が新規獲得に活用される仕組みがあるか

意思決定の速度

□ 現場レベルで一定範囲の意思決定が完結するか(上位承認なしに)
□ 市場の変化に対して1週間以内に施策変更できる体制があるか

学習の構造

□ 実験が失敗した場合、学びとして記録・共有される仕組みがあるか
□ 過去の失敗から得た知識が、新しい施策設計に活用されているか

収益構造

□ 収益源を複数持っているか、または多様化の計画があるか
□ チャネル・顧客セグメント別のLTVを把握しているか
□ 現在の収益構造が3年後も有効かを定期的に検証しているか

組織設計

□ 現在の組織規模に適した意思決定構造になっているか
□ 新しいメンバーが3ヶ月以内に戦力化できる仕組みがあるか
□ 組織の成長に合わせて構造を見直す制度があるか

10問以上「はい」:構造は比較的健全。戦略の見直しが成長の鍵になりうる
7〜9問「はい」:構造に部分的な問題がある。優先順位をつけて改善を
6問以下「はい」:構造に深刻な問題がある可能性が高い。戦略より構造の見直しを優先

7-2. 「構造の盲点」を見つける3つの対話

チェックリストだけでは見えない構造の問題は、以下の3種類の対話を通じて発見できます。

対話①:「越境インタビュー」

普段接点のない部門のメンバーと1時間の対話をします。

「あなたの仕事の中で、最も時間がかかっているプロセスは何か」

「他の部門に、もっとこうしてほしいと思っていることはあるか」

「情報が来ないために判断に困ったことはあるか」

これらの問いに対する答えの中に、構造的問題のシグナルが潜んでいます。

対話②:「新入社員インタビュー」

入社後3〜6ヶ月のメンバーに話を聞きます。

「入社前と入社後で、最も驚いたことは何か」

「効率が悪いと感じるプロセスはあるか」

「外から見ていた時と、中に入ってみた時で、この組織に対する認識が変わったことはあるか」

新入社員は「構造の自明化」が起きていないため、ベテランには見えなくなった構造的問題を可視化してくれます。

対話③:「退職者インタビュー」

退職した元メンバーと、できれば退職後3〜6ヶ月後に対話します。

「退職した理由を、率直に教えてほしい」

「在籍中に変えてほしかったことは何か」

「今の組織の最大の構造的問題は何だと思うか」

退職者は「利害関係」から解放されているため、在籍中には言えなかった構造的問題を話してくれることがあります。

7-3. 「構造変更ロードマップ」の作成

構造的問題が特定できたら、次は「どの順番で変えるか」のロードマップを作成します。

優先順位の判断軸は以下の2つです。

軸①:インパクトの大きさ

変更することで事業成長への貢献が大きい構造的問題から手を付けます。

軸②:変更の難易度

インパクトが同等であれば、変更しやすい問題から手を付けます。

変更が容易な問題を先に解決することで、「構造を変えることができる」という組織の自信が生まれます。この自信が、より難しい構造変更への挑戦を支えます。

ロードマップは「3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月」の3段階で設計します。

3ヶ月で「最も変えやすく、効果が早く出る構造変更」を実施し、「変えられた」という実績を作ります。

6ヶ月でより難しい構造変更に着手します。

12ヶ月で根本的な構造変更(収益構造、組織設計の再構築等)を実施します。

***

おわりに:「構造を疑う経営者」だけが、次のステージへ進める

事業が伸びない時、私たちは本能的に「戦略」を疑います。

「もっと良い戦略があるはずだ」

「別のターゲットにすべきだったか」

「競合はどんな戦略を取っているか」

この問いは悪くない。ただし、戦略の問い直しを先に行うと、根本原因にたどり着けないことが多い。

まず問うべきは「今の構造で、その戦略は機能するのか」という問いです。

構造が整っていない状態で戦略を変えても、「新しい戦略が古い構造に阻まれる」という同じ問題が繰り返されます。

私がこれまで関わってきた500社以上の事業の中で、「戦略を変えて成功した」企業より「構造を変えて成功した」企業の方が、成功の持続性が高かった。

戦略の変更は模倣されやすい。

しかし、構造の変更は時間がかかる分、模倣も難しい。

構造という「器」を正しく設計した企業は、どんな戦略を注ぎ込んでも機能する。

反対に、構造という「器」が壊れたままでは、どんなに良い戦略を注いでも漏れ続けます。

今日から、「戦略の前に構造を問う」習慣を持ってください。

「なぜ機能しないのか」の問いを立てる前に、「どの構造が機能していないのか」を問う視点を持ってください。

その視点の転換が、「頑張っているのに伸びない」という停滞から抜け出すための、最初の一歩になります。

***

今回は「事業が伸びないのは、戦略ではなく"構造"の問題だ」というテーマでお届けしました。

「うちの会社もこうかもしれない」と感じた部分があれば、ぜひ周囲のメンバーと共有してみてください。構造の問題は、一人で発見するより、複数の視点から対話する方が、はるかに見えやすくなります。

次回は「データはあるのに勝てない企業の正体」というテーマで執筆予定です。

引き続きよろしくお願いします。

いかがでしたか。今回の記事が少しでも参考になれば嬉しいです。

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