打ち手を減らすと、成果は増える
はじめに:「やることが多すぎて、成果が出ない」
あるマーケティング責任者から、疲れた顔で相談を受けたことがある。
「やることが、多すぎるんです。SNSも、広告も、SEOも、メルマガも、ウェビナーも、展示会も、全部やっている。チームは疲弊しているのに、どれも中途半端で、成果が出ない。もっとリソースがあれば、と思うんですが……。」
僕は、こう返した。「リソースを増やす前に、やめる施策を決めましょう。」
彼は、少し驚いた顔をした。「やめる? でも、どれも必要だと思ってやっているんです。減らしたら、成果がもっと下がるんじゃ……。」
ここに、多くのマーケティング組織が陥っている、最大の誤解がある。
「成果が出ないのは、打ち手が足りないからだ」——この発想が、そもそも間違っている。
多くの場合、成果が出ない本当の理由は、打ち手が足りないからではない。打ち手が多すぎて、リソースが分散し、どれも中途半端になっているからだ。
実際、複数の施策を同時に展開すると、予算や時間といったリソースが分散されてしまい、結果的にどの施策も期待した成果を上げられないことがある。特定の施策に集中することで、予算や時間を効果的に使い、各施策のパフォーマンスを向上させることができる。
つまり、成果を上げるには、足すのではなく、減らす。これが、強いマーケターが知っている、逆説的な真実だ。
結論から言う。
打ち手を増やすほど、成果は下がる。リソースは有限だから、施策を増やすほど、一つひとつへの投下量が減り、すべてが中途半端になる。強いマーケターは、足すより先に「何をやめるか」を決める。絞り込みこそが、最大の打ち手だ。
「選択と集中」という言葉は、誰もが知っている。でも、実際にやれている組織は、驚くほど少ない。なぜなら、「やめる」という決断は、「やる」という決断より、はるかに難しいからだ。
今日は、なぜ打ち手を減らせないのか。そして、どうやって施策を絞り込むのか。その具体的な手順、判断基準、テンプレートを、経営現場で使っているレベルまで、すべて公開する。
この記事は、二部構成だ。
前半(ここから、無料で読める範囲)では、「なぜ打ち手は増え続け、減らせないのか」——その構造を解剖する。
後半(サポートメンバー限定)では、「では、どうやって絞り込むのか」——その4ステップ、2軸マトリクス、やめる基準、実践テンプレートを、すべて公開する。
まずは、問題の構造から。
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第1章:なぜ、打ち手は増え続けるのか
まず、根本的な問いから始めよう。なぜ、マーケティングの打ち手は、放っておくと、どんどん増えていくのか。
減らすのが正しいと頭でわかっていても、現実には増えていく。そこには、抗いがたい「3つの力」が働いている。

力①:足し算バイアス。
マーケターは、成果が出ないとき、「何か新しいことをやらなければ」という不安に駆られる。競合が新しい施策を始めたと聞けば、「うちもやらなければ」と焦る。この不安が、次々と新しい施策を足させる。そもそも「減らす」という発想が、頭に浮かばない。人間は、問題を解決するとき、何かを「足す」ことは思いついても、「引く」ことはなかなか思いつかない。これは、認知の癖だ。
力②:やめられない心理。
一度始めた施策は、成果が薄くても、なかなかやめられない。「せっかくここまでやったのに」「これまでの投資が無駄になる」という気持ちが働く。これは「サンクコスト(埋没費用)の呪縛」だ。すでに使ったコストを惜しむあまり、成果の出ない施策を、ずるずると続けてしまう。やめる判断は、この心理的な痛みを伴うから、先送りされる。
力③:総花的な合意。
組織で施策を決めると、関係者全員の意見を取り入れようとする。営業は「この施策を」、経営は「あの施策も」、各部門がそれぞれの要望を出す。それらを全部足していくと、「あれもこれも」の総花的な施策リストができあがる。誰の顔も立てようとした結果、焦点のぼやけた、盛りだくさんのリストになる。
この3つの力が働くから、マーケティングの打ち手は、意識的に減らさない限り、必然的に増え続ける。そして、増えれば増えるほど、リソースは分散し、成果は下がっていく。
打ち手が増えるのには、3つの力がある。足し算バイアス(引く発想が湧かない)、サンクコストの呪縛(やめられない)、総花的合意(全員の要望を足す)。この力に抗って意識的に減らさない限り、施策は必然的に増え、成果は薄まる。
第2章:「増やす」は努力に見え、「減らす」は怠慢に見える
打ち手を減らせない理由には、もう一つ、根深いものがある。組織の中で、「増やす」と「減らす」が、まったく違う評価を受けることだ。
新しい施策を始めると、「頑張っている」ように見える。会議で「新しくこういう施策を始めます」と言えば、前向きで、積極的で、評価される。上司も「よくやっている」と思う。
一方、施策をやめると、「サボっている」ように見えかねない。「この施策、やめます」と言うと、「なぜ? 諦めるのか?」「もっと頑張れないのか?」という空気になる。やめる判断は、後ろ向きで、消極的だと受け取られがちだ。
だから、マーケターは、無意識のうちに「増やす」方向にインセンティブを感じる。増やせば評価され、減らせば疑われる。この構造がある限り、誰も進んで「やめる」とは言わない。
しかし、これは、まったくの逆だ。
本当は、「増やす」ほうが簡単で、「減らす」ほうが、はるかに難しく、価値がある。新しい施策を足すのは、ただ足せばいい。でも、やめる施策を決めるには、どの施策が本当に効いているかを見極め、心理的な痛みに耐え、関係者を説得しなければならない。「減らす」には、明確な判断基準と、強い意志が要る。
ランチェスター戦略の考え方が、これを的確に突いている。「何をやるか」よりも「何を捨てるか」で成果が決まる。非効率な販路や顧客層を思い切って捨てることで、残りの領域に集中投資できるようになる。そして、この「やめる勇気」は、現場で最も反発が出やすい意思決定だ、と。
強いマーケターと、そうでないマーケターの差は、ここに出る。弱いマーケターは、評価されやすい「増やす」に逃げる。強いマーケターは、反発を受けても、価値のある「減らす」を、やり切る。
組織では「増やす」は努力に見え、「減らす」は怠慢に見える。だから誰も進んでやめない。だが実際は逆だ。増やすのは簡単で、減らすのは難しく、価値がある。強いマーケターは、評価されにくい「減らす」を、意志を持ってやり切る。
ここまでで、なぜ打ち手が減らせないのか、その構造は見えた。3つの力が施策を増やし、評価構造が「減らす」を妨げる。
問題は、わかった。打ち手は、意識的に「減らす」必要がある。絞り込む必要がある。
では、具体的に、どうやって?
膨大な施策の中から、どれを残し、どれを捨てるのか。その判断を、勘や度胸ではなく、明確な手順と基準で行うには、どうすればいいのか。反発を乗り越えて「やめる」を実行するには、何が必要なのか。
ここから先、サポートメンバー限定で、その具体的な手順を、テンプレートごと、すべて公開する。
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