効率化しているのに負ける会社の共通点
こんにちは!山口です。
このニュースレターでは、企業のマーケティングや事業グロース戦略等について分析していきます。時折、ゲストを招いた対談記事なども配信していけたらと考えています。
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✓ レターのテーマ
・マーケティング
・事業戦略
・企業/事業分析
・汎用的なビジネスノウハウ
・キャリア論
自己紹介
まずは簡単な自己紹介から。略歴はこんな感じです。基本的には、起業家として活動しながらも「マーケティングや事業開発」が自分のキャリアの軸となっております。
経歴
山梨県出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。PR会社「株式会社ベクトル」にてPRコンサルタントとして従事したのち、「株式会社Branding Engineer(現 株式会社TWOSTONE&Sons)」へ参画、各種人材・DX関連の事業立ち上げや事業部長・経営企画を歴任し独立。上場企業から地方の中堅・中小企業までありとあらゆる業種・規模感の新規事業開発 / マーケティング / ブランディング / PR支援等を実施。その後「Start-X合同会社」を設立。マーケティングや事業開発、クリエイティブ制作等の支援事業と共同・自社事業を複数展開。複数企業の顧問・アドバイザーも兼務。
※SNS発信も頑張っておりますので、ぜひフォローのほどよろしくお願いします!
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はじめに:効率化という「罠」
ここ数年、多くの企業で組織効率化やプロセス改善の動きが加速しています。
RPA導入で業務効率化
DX推進で組織をリモート化
人員削減で経営効率化
アウトソーシングで固定費削減
確かに、短期的には数字が改善しているように見えます。
コスト削減額で見ると、時に数億円単位の成果が出ています。
しかし同時に、多くの企業で同じ現象が起きています。
売上は伸びていない。
むしろ、市場シェアを競合に奪われ始めている。
顧客満足度は低下している。
従業員のエンゲージメントは冷え込んでいる。
そしてここが最も重要なのですが、
組織全体として、事業は衰弱し始めている。
一見矛盾しているように思えます。
効率化しているのに、なぜ弱くなるのか。
プロセスを改善しているのに、なぜ成長しないのか。
この問いに答えることが、これからの企業経営にとって、最も重要になります。
第1章:「効率化」と「成長」は別ゲームだ
まず、明確にしておく必要があります。
効率化と成長は、本質的に別のゲームです。
1-1. 効率化とは何か
効率化の定義は明確です。
同じアウトプットを、より少ないインプットで実現する
または
同じインプットで、より大きなアウトプットを生み出す
つまり、効率化とは、
既存のプロセスを改善する
無駄を削減する
コストダウンを実現する
という活動です。
言い換えると、
既にある仕事を、より速く、より安くやる
ということです。
1-2. 成長とは何か
一方、成長の定義はどうか。
新しい価値を顧客に提供し、売上または利益を増加させる
成長とは、
新しい市場に進出する
新しい商品を開発する
新しい顧客セグメントを開拓する
既存顧客への提供価値を高める
という活動です。
言い換えると、
今までにない仕事を始める
ということです。
1-3. なぜ両者は衝突するのか
ここが核心です。
効率化が進むと、組織は固定化します。
プロセスが明確化される
ルールが厳密化される
責任と権限が細分化される
その結果、組織は非常に効率的になる。
でも同時に、
変化に対して、極端に弱い構造になる。
例えば、新しいチャレンジをしようとするとどうなるか。
既存のプロセスに当てはめようとする
ルールに従わない理由を探し始める
「前例がない」という理由で却下される
効率化された組織では、
新しいことをやること自体が、非効率として認識されるようになるのです。
第2章:日本企業がハマる「効率化の深い罠」
ここから、本当に重要な話です。
日本企業はなぜ、効率化の罠にハマりやすいのか。
それは、日本企業の組織文化そのものに根があります。
2-1. 「予測可能性の追求」という思考
日本企業の組織運営の根底にあるのは、
「予測可能な組織」を目指すこと
です。
四半期ごとの数字が予測できるか
年間売上が計画通りになるか
組織のパフォーマンスが安定しているか
この「安定性」「予測可能性」を至上とします。
だから、
リスク要因は事前に排除される
標準化されたプロセスが徹底される
「例外」は許容されない
組織文化として、極めて合理的です。
しかし、これは同時に、
組織を"石化"させる文化でもあります。
2-2. 「コスト中心」の経営判断
日本企業の多くは、経営判断の中心にコストを置きます。
人件費削減
オペレーションコスト削減
設備投資の削減
目線は常に、
「いかに減らすか」
です。
これが問題な理由は、
減らすことに成功した企業ほど、
次のステップが「さらに減らす」になることです。
つまり、
減った状態が"基準"になってしまう。
だから増やす判断ができない。
結果として、
投資判断が極端に保守的になる
新規事業への予算がつかない
人材育成の投資を後回しにする
という悪循環に陥るのです。
2-3. 「部分最適」が強すぎる組織文化
これはかなり深刻な問題です。
日本企業は、部門別の組織設計が非常に強い。
営業部は営業の利益を最適化
マーケティング部はマーケティングのコストを最適化
製造部は製造効率を最適化
それぞれが、自分たちの領域を極度に効率化します。
これ自体は素晴らしいことです。
ただし、
全体として最適であるかは、全く別問題
です。
例えば、営業が短期的な利益を最大化するために、
品質を落とした商品を売り続けたとします。
短期的には売上は増えます。
でも、顧客満足度は低下し、長期的には売上が減少します。
営業部から見れば「正解」ですが、
全社から見れば「不正解」です。
こういった部分最適による組織の分断が、
効率化を進める企業では極めて顕著になるのです。
2-4. 「正しいプロセス」への信仰
日本企業はプロセスを非常に大切にします。
PDCAサイクル
ISO認証
業務マニュアル
これらは、確かに品質管理には有効です。
ただし、ここに陥りやすい罠があります。
「正しいプロセスを回していれば、成功する」という信仰
です。
実際には、
市場環境は急速に変化する
顧客ニーズは予測不可能に進化する
競争環境も激変する
なのに、
プロセスだけは、10年変わっていない
という企業は珍しくありません。
結果として、
組織は正確に衰退していく。
でも本人たちは、
「私たちのプロセスは正しい」と信じているから、
問題に気付かないのです。
第3章:効率化で「負ける会社」の典型的パターン
では、実際にはどのような企業が、効率化によって衰退しているのか。
その典型的なパターンを整理してみます。
パターン1:大手小売業の衰退
この数年で最も顕著な事例は、大手小売業です。
かつての小売業界は、日本経済の中核でした。
全国規模の店舗展開
高い営業効率
強い顧客基盤
これらを背景に、大手小売企業は、
徹底的な効率化を推し進めました。
人員配置の最適化
店舗単位での利益管理
商品カテゴリーごとのマージン管理
その結果、
数年間は確かに、営業利益は改善しました。
ROI(投資利益率)も上昇しました。
しかし、同時に何が起きたか。
顧客体験の衰弱です。
人員を減らすと、店舗サービスの質が低下する。
品揃えの効率化をすると、ニッチなニーズに対応できなくなる。
配送コストを削減するために、配送日数を伸ばすと、顧客満足度が低下する。
こうした細かな「顧客体験の劣化」が、
やがて大きな競争力の喪失につながります。
一方で、Amazonやメルカリのような企業は、
「顧客体験」を最優先にプロセスを設計してきました。
赤字覚悟で配送速度を高める。
在庫を多く持つ。
カスタマーサービスに人を充てる。
短期的には、効率が悪い。
でも、それが競争優位性になる。
結果として、かつての小売業者たちは、
逆転不可能なほどの競争力差をつけられてしまったわけです。
パターン2:製造業の「技術喪失」
もう一つの典型は、日本の製造業です。
特に、複数階層の協力企業を抱える大企業で顕著です。
これらの企業は、
組織の効率化の名の下に、
下請け企業への単価叩き
設計・製造プロセスの標準化
技術者の派遣化
を進めてきました。
短期的には、確かにコストが削減できます。
しかし中長期的には、
組織全体の「技術力」が喪失される。
なぜなら、
効率化のために標準化したプロセスは、
「汎用的な仕事」ばかりを要求するから。
「創意工夫」「試行錯誤」「失敗経験」といった、
本来は技術力の源泉となる経験が削ぎ落とされるのです。
その結果、
独自技術を開発できない企業になる
競合との差別化ができない
大手メーカーの下請けから抜け出せない
という悪循環に陥ります。
実際、日本の製造業が国際競争力を失い始めたのは、
まさにこの時期と重なっています。
パターン3:銀行・金融機関の「本業喪失」
さらに、金融業界でも同様の現象が起きています。
日本の銀行は、
「金融の機械化」「業務の電子化」の名の下に、
徹底的な効率化を進めてきました。
支店の統廃合
行員の削減
営業活動の簡素化
結果として、
地域の企業や個人との接点が失われた
顧客の本当のニーズを理解できなくなった
営業力そのものが低下した
という事態が起きています。
一方で、新興フィンテック企業や、
Amazon や Google といった異業種企業が、
「顧客体験」を中心に金融サービスを再設計すると、
瞬く間に市場シェアを奪われていく。
これは、偶然ではなく、
効率化による「本質的な競争力の喪失」
の結果なのです。
パターン4:通信キャリアの「イノベーション停止」
最後に、通信キャリアの例。
かつて、NTTドコモやソフトバンクは、
通信業界のイノベーターでした。
ただし、ここ10年を見ると、
業務効率化に注力
レガシーシステムの維持費に投資を集中
新規事業への投資を縮小
という方向性で進んできました。
結果として、
i-mode から始まるイノベーションの流れが止まった
5G時代の新規ビジネス創造ができない
新興プレイヤーに市場を奪われ始めた
という事態が起きているのです。
第4章:「効率化の罠」に陥る組織の共通点
では、こうした「効率化によって負け始めた企業」には、
どのような共通点があるのか。
詳しく分析してみます。
共通点1:「コスト視点」だけで意思決定している
まず最初の共通点は、
意思決定の軸が「コスト」だけになっている
ということです。
効率化が進むと、組織の全ての判断基準が、
「これはコストを削減できるか」
という視点になります。
新しいシステム導入?コストがかかるから却下。
人材育成?投資効果が不明確だから後回し。
新規事業開発?赤字が出るから慎重に。
その結果、
すべての判断が「守り」の判断になってしまう。
攻めの判断が消えてしまう。
例えば、アップルは、
初期段階の iPhone 開発に莫大な投資をしました。
当時、株主たちから批判の声も上がりました。
「こんなに投資して、元が取れるのか?」
でも、スティーブ・ジョブズは、
「顧客にとって本当に必要な体験を作ることが優先」
という価値軸を譲りませんでした。
結果として、市場全体を再定義する製品が生まれた。
一方、日本企業の多くは、
最初から「投資効果が不明確」という理由で、
そうした判断を下しません。
だから、イノベーションが生まれない。
共通点2:「短期的な数字」に執着している
二番目の共通点は、
短期的な数字改善に執着する
ということです。
効率化の成果は、すぐに数字に表れます。
コスト削減:○月時点で◎◎万円削減実績
業務効率化:生産性が120%に向上
人員削減:営業利益率が5pt改善
こうした短期的な数字は、経営層に評価されます。
四半期決算で数字が良くなれば、
株価も上がるし、ボーナスも増える。
その結果、
短期的な数字改善のために、中長期的な競争力を失う
という判断が、無意識のうちに進行するのです。
例えば、ソニーが携帯音楽プレイヤーで苦戦した理由も、
ここにあります。
Walkman という素晴らしい製品を持っていたのに、
デジタル化時代への転換で出遅れた。
なぜなら、
Walkman事業で得ている短期的な利益を、
新規事業開発に投資することが、
当時の経営層には「非効率」に見えたからです。
結果として、iPod に市場を奪われた。
共通点3:「組織の分断」が進んでいる
三番目は、
部門間の「壁」が高くなっている
ということです。
効率化が進むと、各部門の責任と権限が明確化されます。
これ自体は良いことです。
ただし同時に、
各部門が自分たちの「効率性」だけを追い求めるようになります。
営業部は、営業の効率だけ。
製造部は、製造の効率だけ。
企画部は、企画の効率だけ。
その結果、全社最適の判断ができなくなるのです。
例えば、
営業が「この商品は売りやすい」という理由で売上至上主義に走れば、
製造部は品質を落としてコストを抑えるようになる。
すると、顧客満足度が低下し、
やがて売上そのものが減少する。
でも、営業部が責任を取るわけではなく、
「市場が悪い」とか「競合が強い」という理由にされる。
こうして、責任が曖昧になるのです。
共通点4:「失敗を許容しない文化」が強い
四番目は、
組織全体として「失敗」を許さない
という文化です。
効率化の論理では、
失敗 = 無駄
です。
だから、失敗を出さないために、
すべて事前に計画を立てる
リスク要因を事前に排除する
慎重に物事を進める
という行動様式になります。
短期的には、これは失敗を減らします。
ただし長期的には、
組織全体のイノベーション能力が低下する。
なぜなら、イノベーションは本来、
試行錯誤と失敗の積み重ねから生まれるからです。
新しいことをやれば、失敗する確率は高い。
でも、その過程で、予期しなかった発見が生まれる。
それが、やがて新しい価値創造につながる。
ただし、失敗を許さない組織では、
そうした「失敗から学ぶプロセス」が存在しません。
結果として、イノベーションが生まれない。
第5章:「効率化で衰退する企業」の組織診断フレーム
では、自社の組織が、
この「効率化の罠」に陥っていないかを、
どのように判断すればよいのか。
実践的な診断フレームを整理しました。
診断項目1:「攻め:守りの予算配分」
まず確認すべきは、
経営判断に「攻め」と「守り」がどの程度含まれているか。
攻め:新規事業、新規市場、新規顧客開拓に向けた投資
守り:既存事業の効率化、コスト削減、構造改革
理想的には、この比率は50:50か、
あるいは攻め寄りであるべきです。
(特に成長期の企業は、攻め70:守り30程度)
ただし現実には、多くの日本企業は、
守り70:攻め30
という比率になっています。
特に、大企業で顕著です。
これが診断結果として「守り偏重」となれば、
組織は確実に衰弱し始めています。
チェックポイント:
過去3年の経営判断の中で、攻めの投資判断の件数は?守りの投資判断と比べて、どの程度か?
診断項目2:「新規の取り組みの「承認期間」」
次に確認すべきは、
新しい取り組みが実行されるまでの期間です。
効率化された組織では、
新規事業の承認に時間がかかります。
なぜなら、
事前に緻密な計画を立てさせられる
複数部門の合意が必要になる
予算承認のプロセスが複雑になる
という理由です。
一方で、スタートアップや新興企業では、
新しいアイデアは、数日~数週間で実行されます。
「とりあえずやってみよう」
という組織文化があるからです。
組織が効率化で「石化」していれば、
この承認期間は必ず長くなります。
チェックポイント:
新規事業提案から実行開始まで、何ヶ月かかるか?その過程で何段階の承認が必要か?承認しない判断基準は明確か?
診断項目3:「失敗事例から学ぶ仕組み」
三番目は、
失敗をどのように扱うか
です。
効率化で衰退する組織では、
失敗は「避けるべきもの」として扱われます。
だから、
失敗について報告しない
失敗した人が評価される
失敗した部門が予算を削られる
という悪循環が起きます。
一方で、イノベーティブな企業では、
失敗は「学びの源泉」として扱われます。
だから、
失敗について透明に報告する
失敗からどう学んだかが評価される
失敗した試みについても次のチャンスが与えられる
という好循環が起きています。
チェックポイント:
過去1年で、失敗から学んだ施策は何件あるか?失敗が原因で、その人の評価が下がった例は?失敗の報告は、どのレベルまで組織で共有されるか?
診断項目4:「顧客との接点の喪失」
四番目は、
顧客との直接的な接点が減少しているか
です。
効率化が進むと、組織の中層以上は、
顧客と直接話をする機会が減ります。
なぜなら、
データで判断する
営業からの報告で判断する
市場調査レポートで判断する
という「間接的な情報」に頼るようになるからです。
その結果、
顧客のニーズの「深い部分」が見えなくなる。
例えば、ある大手銀行の役員は、
5年間、顧客と直接会っていなかったそうです。
すべてデータと報告資料で判断していた。
結果として、
顧客が本当に必要としているものが何か、
全く理解できていませんでした。
チェックポイント:
経営層は月にどのくらい、顧客と直接会っているか?営業現場の声は、どのように経営層に届いているか?顧客からの「予期しない提案」を、組織はどのくらい受け入れているか?
診断項目5:「長期視点で評価されている人材」
最後に確認すべきは、
組織で誰が評価されているか
です。
効率化で衰退する組織では、
短期的な数字を出す人が評価されます。
今期の売上を達成した営業マン
コスト削減を実現した企画スタッフ
定時で仕事を終わらせる事務職
一方で、
顧客のために時間をかけた人
新規事業開発に時間を使った人
チーム全体の成長に投資した人
こうした「長期的価値を生む人」が評価されません。
なぜなら、
その成果は「数字」として現れるのが、
翌年以降だからです。
結果として、
組織全体として「短期視点」の人が増殖する。
チェックポイント:
過去1年で昇進・昇給した人は、どのような功績で評価されたのか?顧客満足度の向上に貢献した人は評価されているか?新規事業開発にチャレンジした人は評価されているか?
第6章:効率化の罠から抜け出すための「再構造化」
では、こうした「効率化の罠」に陥った企業は、
どのように抜け出せばよいのか。
その実践的なアプローチを整理します。
6-1. 「成長指標」の導入
最初にすべきは、
経営判断の軸を、
「効率」から「成長」に転換することです。
具体的には、
以下のような指標に注目するようにします。
現状主義のKPI:
営業利益率
人件費の削減額
処理件数(効率性)
成長主義のKPI:
顧客満足度
新規顧客獲得数
顧客生涯価値(LTV)
市場シェア
イノベーション指数(新製品の売上構成比)
特に重要なのは、
短期の利益より、長期の顧客価値を優先する
という経営判断です。
6-2. 「小規模実験」の仕組みを組織に埋め込む
次に必要なのは、
組織全体で「小規模な試行錯誤」が行われるようにすることです。
具体的には、
予算の10%を「実験枠」として確保
新規事業案は、簡略な承認プロセスで実行開始
失敗したプロジェクトも、その学びを全社で共有
という制度設計です。
これを導入している企業として、
Google の「20% Time」や、
Amazon の「Two Pizza Team」が有名です。
これらの企業では、
組織全体として、
常に「未来の事業」を試行錯誤している
のです。
6-3. 「経営層の現場回帰」
三番目は、
経営層が定期的に顧客の現場に出ることです。
これは、データやレポートでは決して得られない、
顧客の本当のニーズを理解するプロセス
です。
例えば、ザッポスの CEO トニー・シェイは、
毎年、複数の週を、
顧客サービスのコールセンターで過ごすそうです。
これによって、
経営判断の中に「顧客の生の声」が反映されるようになります。
6-4. 「失敗を報酬する仕組み」
四番目は、組織文化の改革です。
具体的には、
「建設的な失敗」を高く評価する
新規事業の失敗について、その人を処分しない
むしろ、失敗から学んだ経験を、組織全体の資産にする
こうした施策によって、
組織全体で「試行錯誤する心理的安全性」が生まれる
のです。
6-5. 「長期視点のキャリア評価」
最後に必要なのは、
人事評価制度の見直しです。
短期の売上だけで評価しない
顧客満足度向上に貢献した人を評価する
新規事業開発にチャレンジした人を評価する
チーム全体の成長に投資した人を評価する
といった、
「長期的価値の創造」に対する評価
を組み込むことです。
これが組織的に実行されれば、
やがて組織全体の意識が変わり始めます。
第7章:「効率化」と「成長」を両立させるための戦略フレーム
ここまで、「効率化の罠」について述べてきました。
ただし、ここで重要な誤解を避ける必要があります。
「効率化が不要」ということではありません。
むしろ、適切な効率化は、
組織の競争力の基盤です。
では、「良い効率化」と「悪い効率化」は、
どう違うのか。
その区別を整理します。
7-1. 「良い効率化」の条件
良い効率化とは、
顧客に価値を提供するための効率化
です。
例えば、
Amazon の物流システムの最適化は、
「配送コストの削減」ではなく、
「より速く、より確実に商品を届けるための効率化」
です。
その結果、
顧客満足度が向上する
新規顧客獲得が加速する
売上が増加する
という好循環が生まれるのです。
つまり、
効率化の結果として、競争力が高まっている
ということです。
良い効率化の特徴:
顧客体験を損なわない
組織全体の最適化を目指している
短期的な数字改善だけが目的ではない
イノベーションの余白を保持している
7-2. 「悪い効率化」の条件
一方、悪い効率化とは、
組織の内部効率だけを追求する効率化
です。
例えば、
コストカットのために人員を削減し、
結果として顧客サービスの質が低下するというケース。
短期的には営業利益は改善しますが、
顧客競争力は確実に低下している
のです。
悪い効率化の特徴:
顧客体験の低下につながっている
部分最適に陥っている
短期的な数字改善だけが目的
イノベーション能力が低下している
7-3. 「効率化」と「成長」の両立フレーム
では、どのようにして両立させるのか。
その答えは、
「優先順位」を明確にすること
です。
具体的には、以下のようなフレームワークが有効です。
第1優先:顧客価値の創造
組織の全ての判断は、
「これは顧客に価値を提供するか」
という問いから始まります。
第2優先:組織全体の最適化
個別部門の最適化ではなく、
全社としての成長を考えます。
第3優先:効率化の推進
その上で、
「どうやってコストを下げるか」
を考えるのです。
このように優先順位を明確にしていれば、
効率化が暴走することはありません。
第8章:実践的な「効率化からの脱却」90日プラン
では、実際に「効率化の罠」から脱却するには、
どのような行動を起こせばよいのか。
実践的な90日プランを提案します。
30日目までの行動:「現状把握」
Week 1-2:診断実施
前章の「組織診断フレーム」を使用して、自社の現状を把握
役員級の人員にインタビューを実施
「攻め:守り」の予算配分を確認
新規事業の承認期間を計測
Week 3-4:ステークホルダー分析
経営層のマインドセット確認
「効率化」と「成長」のどちらを優先しているか、整理
組織の「壁」を可視化
60日目までの行動:「マインドセット転換」
Week 5-6:経営層ワークショップ
「顧客視点の重要性」について、経営層で議論
長期視点での事業戦略の再定義
「成長指標」の導入についての検討
Week 7-8:パイロットプロジェクト開始
「小規模実験」の仕組みをテスト的に導入
1つの事業部で「20% Time 相当」の試行を開始
失敗を許容するプロセスの試験運用
90日目までの行動:「制度設計と実装」
Week 9-10:制度設計
「成長指標」の導入方針を決定
小規模実験の仕組みを全社化する計画を策定
人事評価制度の見直し方針を確認
Week 11-12:実装開始
新しいKPI体系の運用開始
「実験予算」の配分開始
経営層の「現場回帰」スケジュール作成
90日後のマイルストーン
効率化一辺倒の経営判断が、「成長」も組み込まれた判断に転換
組織内で小規模実験が常態化し始める
失敗を学びとして捉える文化が醸成され始める
第9章:「効率化の時代」から「創造の時代」へ
ここまで、「効率化の罠」について詳しく述べてきました。
最後に、より大きな文脈での考察を加えたいと思います。
9-1. 産業環境の転換点
実は、この「効率化の限界」という現象は、
単なる経営課題ではなく、
産業環境そのものが転換する時期
を示しているのです。
思い返してみてください。
1990年代~2010年代は、
何が競争優位性を生んでいたのか。
大量生産・大量販売
スケールメリット
効率的なオペレーション
つまり、
「効率化」が、最大の競争優位性だった時代
です。
だからこそ、日本企業が世界を席巻していました。
ただし2010年代後半から、
状況が変わり始めました。
AIの登場、プラットフォーム企業の台頭、デジタル化の急速な進展。
こうした環境下では、
「効率化」は、前提条件である
という状況に転換しました。
つまり、
効率的であることは「必須条件」ですが、
それだけでは競争優位性にならないのです。
求められるのは、
「創造性」「スピード」「顧客中心性」
といった、効率化とは相容れない要素です。
9-2. 「創造の時代」に必要な組織設計
こうした環境転換に対応するために、
求められる組織のあり方が変わってきました。
効率化の時代の組織:
縦型・階層型の組織
明確に分断された部門
プロセス・ルール重視
短期的な数字管理
創造の時代の組織:
横型・プロジェクト型の組織
部門横断的なコラボレーション
原理原則・顧客価値重視
長期的な競争力構築
この転換に対応できた企業が、
次の時代を生き残ります。
一方、依然として「効率化」を追い求めている企業は、
相対的に衰弱していくのです。
第10章:チェックリスト&読者への問いかけ
では最後に、
あなたの企業が「効率化の罠」に陥っていないかを確認するための、
チェックリストを提供します。
「効率化の罠」にハマっていないか、確認する
下記の項目について、YESが3項目以上該当する場合、
要注意です。
□ 過去3年間で、経営判断の70%以上が「コスト削減」「効率化」である
□ 新規事業提案から実行開始まで3ヶ月以上かかっている
□ 新規事業の失敗により、その責任者が人事評価で下がった例がある
□ 経営層の定期的な顧客訪問が制度化されていない
□ 組織の「縦割り」が強く、部門間のコラボレーションが少ない
□ 短期の売上成績が、人事評価の最大要因である
□ 市場での競争力(市場シェア)が過去3年で低下している
□ 組織全体での「イノベーション」と呼べるものが出ていない
あなたの企業は、成長を追求しているか?
最後に、あなたの企業の経営層に、
こう問いかけてみてください。
「我々の会社は、何のために存在するのか?」
答えが、
「利益を最大化するため」
「効率的に経営するため」
であれば、
その企業は「効率化の罠」に陥っています。
一方、
「顧客の課題を解決するため」
「社会に新しい価値をもたらすため」
であれば、
その企業は成長志向を持っている可能性が高い。
この「企業の存在意義」の定義が、
すべての経営判断の源泉になるのです。
最後に
ここまで、「効率化しているのに負ける会社」について、
詳しく分析してきました。
結論は、シンプルです。
「効率化」だけでは、組織は衰弱する。
「成長」と「創造」を同時に追い求める企業だけが、次の時代を生き残る。
特に日本企業は、
この認識を、緊急に改める必要があります。
多くの日本企業が「効率化」を徹底した結果、
確かに短期的には競争力を持ちました。
ただし、その過程で、
「イノベーション能力」「チャレンジ精神」「顧客中心性」
といった、本来は日本企業の最大の武器であった要素を、
手放してしまったのです。
これから求められるのは、
その失われた要素を、
組織の中に呼び戻すことです。
効率化と成長。
短期と長期。
部分最適と全体最適。
これらを同時に追い求める、
バランスの取れた企業設計
が、これからの時代の合言葉になるでしょう。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!
次回は「グロース戦略はなぜ『間違った問い』から始まるのか」をテーマに、
戦略策定時の前提条件の重要性について、詳しく掘り下げます。
今回は「効率化しているのに負ける会社の共通点」についてお届けしましたが、
今後も、企業や事業などの分析を通じて、
お役立ち情報を発信していきます。
時間の許す限り、週1で頑張って配信していきたいと思っておりますので、
応援のほどよろしくお願いします。
ではでは。
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