施策は、いくら回しても資産にならない

――「構造を設計する会社」と「施策を回す会社」の、静かで決定的な差について
山口偉大 2026.09.07
誰でも

先日、ある社長と話していて、ふと手が止まった。

その会社は、よく動く。SNSも更新しているし、広告も回している。展示会にも出るし、ウェビナーもやる。新しい施策の話をふると、社長はいつも「もうやってます」と即答する。動いていないわけじゃない。むしろ、めちゃくちゃ動いている。

なのに、伸びていない。

3年前と、売上がほとんど変わらない。人は増えた。やることも増えた。忙しさだけが、きれいに右肩上がりになっている。

僕が「なんでだと思います?」と聞くと、社長はしばらく黙って、こう言った。

「……やってるんですけどね。何かが、積み上がってない感じがするんです」

この「積み上がってない感じ」。ここに、今日の話の全部が詰まっている気がした。

同じくらいの規模で、同じくらいの人数で、なぜかどんどん強くなっていく会社がある。その差は、能力じゃない。運でもない。「施策を回しているだけの会社」と「構造を設計している会社」の違いだと、僕は思っている。

見た目は、そっくりだ。どちらも忙しいし、どちらも施策を打っている。傍から見たら、区別がつかない。でも、1年、3年と経つと、片方だけが、静かに引き離していく。

今日は、その差の正体を、書いてみたい。

***

施策は「点」でしか残らない

施策を回す会社を、しばらく観察していると、あることに気づく。

一つひとつの施策が、終わると消える。

たとえば、あるキャンペーンをやる。そこそこ当たる。担当者は満足して、次のキャンペーンに移る。で、次も、その場で考えて、その場でやる。前のキャンペーンで何がわかったのか、なぜ当たったのか、そういうことは、誰の頭にも残っていない。正確に言うと、担当者一人の頭には残っているんだけど、その人が異動したら、まるごと消える。

これが「点で施策を打つ」ということだ。

点は、いくら増やしても、点のままだ。100個打っても、101個目を打つときに、前の100個は何の役にも立たない。毎回、ゼロから考えている。だから、忙しさは増えるのに、うまさは増えない。

僕はこれを、焼畑農業みたいだな、と思うことがある。その年は収穫できる。でも、土地は痩せていく。次の年は、別の場所を焼く。移動し続けないと、食べていけない。ずっと動いているのに、豊かにはならない。

構造を設計する会社は、ここが違う。

一つの施策をやったら、そこから「なぜ効いたのか」を抜き出して、次に使える形にする。キャンペーンそのものは終わっても、「うちの顧客は、こういうときに、こう動く」という理解が残る。次にキャンペーンを打つとき、その理解の上に積める。ゼロからじゃない。101個目は、前の100個を踏み台にできる。

点じゃなくて、線になる。線が増えると、面になる。面になると、それはもう「その会社にしかない地形」になっていく。

言い方を変えると、施策を回す会社は毎回「作業」をしていて、構造を設計する会社は毎回「資産」を作っている。同じ一回の施策でも、後に残るものが、まったく違う。

***

「で、次は何をやる?」という口ぐせ

どっちの会社かは、会議を10分見ていれば、だいたいわかる。

施策を回す会社の会議は、いつも「で、次は何をやる?」から始まる。ネタ出しだ。あれをやろう、これもやろう。ホワイトボードが、やることのリストで埋まっていく。活気はある。前向きだ。でも、その会議で「なぜ前のがうまくいったのか(いかなかったのか)」を掘る時間は、ほとんどない。振り返りは「はい、KPIは達成しました/未達でした」の一行で終わる。そして、また次のネタ出しへ。

構造を設計する会社の会議は、順番が逆だ。

まず「この前のあれ、なんで効いたんだっけ?」から入る。ここにいちばん時間をかける。効いた理由がわかったら、それを「じゃあ次も再現できる形にしよう」と言葉にする。次に何をやるか、は、その後で自然と出てくる。むしろ、理由がわかっていれば、次の打ち手は考えるまでもなく決まっていたりする。

前者は「未来のネタ」を探す会議で、後者は「過去の意味」を掘る会議だ。

不思議なのは、未来のネタを探している会社ほど、未来が細っていくことだ。ネタは無限に出る。でも、どれも当たるかどうかわからない。毎回ギャンブルだから、当たり外れに振り回されて、疲れていく。

過去の意味を掘っている会社は、逆に、未来が読めるようになっていく。「うちはこういうときに勝てる」という地図が、少しずつできてくるからだ。ギャンブルが、だんだん、計算に変わる。

過去を掘るほど、未来が見える。ちょっと逆説的だけど、現場を見ていると、これは本当にそうだ。

***

なぜ、みんな「回すほう」に流れるのか

じゃあ、構造を設計したほうがいいに決まってるじゃないか、と思う。実際、そうだ。

なのに、ほとんどの会社が、施策を回すほうに流れていく。なぜか。

理由は、たぶん、そんなに立派なものじゃない。

一つは、施策を打つほうが、気持ちがいいからだ。

新しいことを始めると、動いている感じがする。会議で「新しくこれをやります」と言えば、前向きに見えるし、褒められる。一方で「先月のあれを、もう一回ちゃんと分解しませんか」と言うと、なんだか後ろ向きに聞こえる。「終わったことより、次いこうよ」という空気になる。人は、褒められるほうに、無意識に流れる。

もう一つは、構造の設計が、すぐには成果に見えないからだ。

「なぜ効いたか」を言葉にする作業は、その週の売上を1円も上げない。効いてくるのは、半年後、1年後だ。目の前の数字に追われていると、この「今は効かないけど後で効く」作業は、いつも後回しにされる。そして、後回しにされ続けて、結局やられない。

これは、個人のダイエットや勉強と、まったく同じ構造だな、と思う。正しいことは、だいたい地味で、すぐには報われない。間違ったことのほうが、派手で、すぐに気持ちよくなれる。だから、わかっていても、間違ったほうに流れる。

会社も、同じだ。「構造を設計しよう」と頭で思っても、日々の忙しさが、静かに「施策を回すだけ」の側に、引き戻していく。

僕が顧問先で、いちばん力を使うのも、実はここだ。新しい施策を考えることじゃない。「今月、新しいことをやらない勇気」を、一緒に持つこと。空いた時間で、先月のことを掘り返すこと。地味だけど、これができる会社だけが、あとで効いてくる。

***

週20時間で、なぜ回るのか

少し、自分の話をさせてください。

僕は、Start-X社に経営・事業運営業務に関していうと週に20時間くらいしか働いていない。それで、いくつかの事業をなんとか回している。こう言うと「どうやって?」とよく聞かれる。特別な効率化ツールでも使っているのか、と。

種を明かすと、たいしたことはしていない。ただ、新しい施策を、ほとんど打っていないだけだ。

その代わり、一度うまくいったやり方を、「誰がやっても同じ結果が出る形」にすることに、時間を使っている。最初は面倒だ。自分でやったほうが早い。でも、一回それを「型」にしておくと、次からは自分がいなくてもいい。手を離せる。手が離れた分だけ、僕の時間が空く。空いた時間で、また別の何かを型にする。

これを繰り返していくと、働く時間は増えないのに、回る事業は増えていく。

もし僕が、毎回その場で施策を考えて、その場で手を動かしていたら、20時間ではとても足りない。事業の数だけ、僕の時間が食われていく。すぐにパンクする。

構造を設計するというのは、要するに、これだ。一回の労力を、その一回で終わらせない。次も、その次も、効く形にしておく。会社の話に聞こえるかもしれないけど、根っこは、一人の働き方の話とまったく同じだと思っている。

余談だけど、僕は夜にDJをやることがあって、これもよく似ている。フロアで受けた選曲を、その場限りの「よかったね」で終わらせる人と、「なぜこの流れで受けたのか」を持ち帰る人がいる。後者は、次のフロアでも応用できる。同じ夜遊びに見えて、片方だけ、うまくなっていく。

結局、どの分野でも、「点を線にできる人」だけが、積み上がっていくんだと思う。

***

明日、何をやめるか

じゃあ何から始めればいいか、という話で終わりたい。

大きな仕組みを作りましょう、とは言わない。いきなりそれをやろうとすると、それ自体が新しい「施策」になって、結局回すだけになる。本末転倒だ。

もっと小さいことでいい。

次にうまくいった施策があったら、次のネタ出しをする前に、30分だけ止まってみてください。そして「なんで、これは効いたんだろう」を、チームで言葉にしてみる。それだけ。当てずっぽうでいい。仮説でいい。「たぶん、タイミングがよかった」でも「あの一言が刺さったんじゃないか」でもいい。

大事なのは、その30分を、次の施策より先に取ること。順番だ。

たいていの会社は、この30分を「余裕があったらやる」に置いている。だから、永遠にやられない。忙しさに、いつも先を越される。そうじゃなくて、この30分を、いちばん最初に置く。ネタ出しより、前に置く。

もう一つ、勇気がいるほうの話もしておく。

今やっている施策のリストを、一度、全部書き出してみてください。そのうえで、「これ、なんで続けてるんだっけ?」と説明できないものを、一つでいいから、やめてみる。

やめると、時間が空く。その空いた時間を、さっきの「なぜ効いたのか」を掘る30分に、あてる。

たったこれだけのことなんだけど、これができる会社と、できない会社で、3年後、本当に差がつく。僕は現場で、その差を、何度も見てきた。派手な戦略の差じゃない。この、地味な順番の差だ。

あなたの会社は、今週、新しい施策を「足す」ほうに時間を使っているだろうか。それとも、先週のことを「掘る」ほうに、使えているだろうか。

***

最後に

うまく動いているのに伸びない、という悩みは、本当に多い。

その原因は、たいてい、努力が足りないことじゃない。むしろ逆で、動きすぎていて、一つひとつの動きを、資産に変える時間がないことのほうが多い。施策は、いくら回しても、回しただけでは積み上がらない。掘って、型にして、次に渡して、はじめて会社のものになる。

僕がずっと考えているのは、「素材を編集して、場と意思決定を作る」ということです。今日の話で言えば、一回きりの施策(素材)を、次も効く構造(意味)に編集する、ということ。作りっぱなしにしない。回しっぱなしにしない。そこに、強い会社と、忙しいだけの会社の分かれ道があるんだと思っています。

もし「うちは、施策を回すだけになっているかもしれない」と、少しでも思ったなら。

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