成長の踊り場を抜ける、ボトルネックを特定するには

――どこが細いかは、感覚ではなく、段ごとの3つの数字で決まる。判断の流れも、同じ物差しで測る。
山口偉大 2026.10.28
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顧問の最初の数回で、同じ質問を、部署ごとに別々に聞くことがあります。

「今、どこがボトルネックだと思いますか」

  • マーケティングは「営業です。リードは渡しているのに、商談にならない」。

  • 営業は「リードの質です。温度の低いリードばかり来る」。

  • カスタマーサクセスは「期待値のずれです。営業が言っていたことと、実際が違う」。

  • 経営は「マーケの数字が、売上につながっていない」。

全員が、隣を指します。嘘をついている人は一人もいません。それぞれの席から見える景色では、たしかに隣が詰まって見える。

この状態で「ボトルネックはどこか」を会議で決めると、いちばん声の大きい部署の隣が、ボトルネックになります。そして、そこに人と予算を足す。半年後、売上は動いていない。月曜に書いた「同じことを増やしている」状態は、たいてい、この誤特定から始まります。

感覚で決めると外れる理由は、3つあります。ひとつ、人は自分の席から見える範囲で判断する。マーケからは営業の机しか見えず、営業からはマーケの机しか見えない。ふたつ、忙しさと問題を混同する。いちばん忙しそうな部署が、いちばん問題のある部署に見える。みっつ、全体の数字しか見ていない。売上、会員数、リード数。全体の数字は、どの段で詰まっているかを教えてくれません。

3つとも、数字の取り方を変えれば消えます。席に関係なく、全員が同じ表を見る。忙しさではなく、通過率と滞留で見る。全体ではなく、段ごとに見る。

月曜に、横ばいの会社の詰まりは4か所(定義・導線・手数・決定)に分かれる、と書きました。今日の手順に置き換えると、こうなります。定義は「各段の通過を何と呼ぶか」、導線は「顧客の流れの段」、手数は「各段に打っている施策」、決定は「判断の流れの段」。月曜が地図なら、今日は、その地図の上で現在地を決める作業です。

今日は、4か所のうち、今いちばん細い一か所を、感覚ではなく数字で決める手順を書きます。手順は4つ。使う数字は、段ごとに3つだけです。

ボトルネックは、いちばん忙しい部署ではなく、その手前にある

この章の要点を先に言うと、忙しい部署は、細い段ではありません。細い段の手前に、仕事が溜まっているだけです。

ボトルネックという言葉の元には、エリヤフ・ゴールドラットの制約理論があります。小説『ザ・ゴール』(原著1984年)で工場の話として書かれ、のちに「5つの集中ステップ」として整理されました。制約を見つける、制約を徹底的に使う、他のすべてを制約に従わせる、制約を強化する、惰性が次の制約にならないようにする。

『ザ・ゴール』で有名なのは、工場ではなく、遠足の場面です。子どもたちの列は、いちばん歩くのが遅い子の速さでしか進まない。先頭の子を速くしても、列は長くなるだけで、到着は早まらない。遅い子を列の先頭に置き、荷物を他の子が持つと、列全体が速くなる。流れの速さは、いちばん遅い一か所で決まる。この一点が、制約理論の全部です。

工場の話で、いちばん大事な観察は、こうです。制約の手前には、必ず仕掛品が溜まる。 細い工程の前に、処理しきれない部品が山になる。その山を見て「ここが忙しいから、ここが問題だ」と判断すると、外れます。山は、細い工程の手前にできるのであって、細い工程そのものではない。

もうひとつ、制約理論から借りたい考え方があります。流れ全体の速さは、いちばん細い一か所で決まる。 他の段をどれだけ広げても、細い段を通れる量しか、最後には出てこない。だから、手を入れる場所は、常に一か所です。「全部を少しずつ良くする」は、聞こえは良いですが、細い段が変わらなければ、流れは変わりません。横ばいの会社が「施策を増やしているのに動かない」のは、細い段以外を広げ続けているからです。

踊り場が長引くと、起きることがもう一つあります。支援の現場で、マーケティング予算が真っ先に削られる典型は、コロナのときと、事業の成長が止まったときでした。踊り場に入って半年、一年と経つと、「増やす」ための予算そのものが消えていく。細い段を見つけるのに時間をかけられるのは、踊り場の最初のうちだけです。

踊り場、と呼ばれる状態は、この構造でできています。成長していた時期は、細い段を広げ続けていた。踊り場に入ったのは、細い段が移動したのに、以前と同じ段を広げ続けているからです。

先に言っておきたいのは、細い段は悪者ではない、ということです。細い段の部署が怠けているのではなく、流れの中で、そこにいちばん負荷がかかる構造になっている。細い段を見つける目的は、責任を決めることではなく、資源を回す先を決めることです。ここを間違えると、特定した瞬間に、その部署が防御に回って、数字を出さなくなります。

事業に翻訳すると、こうなります。リードが溜まっているなら、細いのはリード獲得ではなく、その次の商談化です。マーケが忙しそうに見えるのは、渡したリードが商談にならずに手元に戻ってくるから。営業が「リードの質が悪い」と言うのは、商談化の段が細くて、通れないものが山になっているから。両方とも、山を見て隣を指しています。

溜まりは、部署の中では「忙しさ」と「人手が足りない」という訴えの形で現れます。だから、踊り場の会社からの相談は、よく採用の話から始まります。「営業をもう一人」「マーケに専任を」。支援先から採用の相談を受けたとき、役割の定義から一緒に作ることがあるのは、そのためです。足そうとしている部署が、細い段なのか、細い段の手前で溜まりを抱えているだけなのか。手前なら、人を足しても溜まりが増えるだけです。

ここまでが、無料で読める範囲の肝です。溜まりの場所から細い段を逆算する対応表は、このあと全部書きますが、1行だけ先に置いておきます。

リードが溜まっている → 細いのはリード獲得ではなく、商談化。

この1行が腑に落ちたら、残りの行も同じ理屈で読めます。

壁の手前でできることを、一つだけ。社内で、誰かが「〜待ち」と言っている場所を探してください。「営業の返事待ち」「開発の見積もり待ち」「社長の決裁待ち」「お客さまの初期設定待ち」。「待ち」という言葉が出る場所が、溜まりです。そして、待たれている側が、細い段です。数字を取る前に、言葉だけで、候補は半分に絞れます。

もう一つ。溜まりは、件数ではなく日数で感じられます。「商談が20件ある」は溜まりかどうか分からない。「商談が平均45日動いていない」は溜まりです。数字を取るときに、件数と一緒に日数を取る理由は、ここにあります。

特定は、4つの手順でできる

この章の要点を先に言うと、手順は4つで、Excelも新しいツールも要りません。先月の数字と、先月の議事録があれば足ります。

  • 流れを2本描く:顧客の流れと、判断の流れ

  • 段ごとに3つの数字だけ取る:流入、通過、滞留日数

  • 溜まりを探す:滞留がいちばん長い段の、手前を見る

  • 細い段を一つに決める:通過率が最低で、滞留が最長の段。2つが別なら、下流

ひとつだけ、壁の手前で質問を置いておきます。先月、あなたの会社で、議題が出てから決まるまで、何日かかりましたか。商談が受注するまでの日数は答えられる会社が多いのに、この質問には、ほとんどの会社が答えられません。測っていないからです。そして測ってみると、商談より長い。

必要なものは、3つだけです。先月の数字(広告の管理画面、CRM、案件台帳、利用ログのどれか)。2年分の議事録。それから、段を切るための1時間。新しいツールは要りません。

ここから先は、4つの手順のそれぞれを、支援の現場でやっている形で書いていきます。特に手順1の「判断の流れ」は、顧客の流れと同じ物差しで測ると、たいてい顧客のどの段より長いことが分かります。ここを測っている会社は、まだ少ない。月500円で、この続きと過去の限定記事がすべて読めます。

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