お客さまは、あなたの会社を一言で何と呼んでいるか
このニュースレターで分かること
会社が名乗る言葉と、お客さまが呼ぶ言葉は違う。そして、会社の本当の位置を表しているのは、呼ばれているほうだということ
「○○の会社」の○○は、他社との違いではなく、お客さまが思い出すきっかけと結びついた言葉だということ
今週、お客さま3人に聞くだけでできる、自社の位置の確かめ方
誰かがあなたの会社を紹介するとき、何と言っているか
想像してみてください。
あなたの会社のお客さまが、知り合いと食事をしている。相手が、ちょうどあなたの会社が解決できそうな困りごとを話し始める。お客さまはこう言う。
「それなら、いいところ知ってるよ。」
そのお客さまの口から、次に出る一言。それが、あなたの会社の本当の位置です。
たぶんそれは、ホームページの一番上に書いてある言葉とは違います。「お客さまの課題に寄り添い、最適なソリューションを提供する」とは、誰も言いません。「業界をリードする総合○○企業」とも言わない。もっと短くて、もっと具体的で、ときどき、会社が思ってもみなかった言葉になります。
「あそこ、夜中でも返事くれるよ」
「○○さんっていう人がいて、その人に頼むといい」
「安いやつじゃなくて、ちゃんとしたほうの会社」
僕はこの一言を、呼び名と呼んでいます。会社が決めた名乗りではなく、お客さまが自分の頭の中で、その会社につけた名前です。
今日の話は、この呼び名についてです。会社の名乗りと、お客さまの呼び名は、なぜずれるのか。ずれているとき、どちらが本当なのか。そして、自分の会社の呼び名を、どうやって知るのか。
僕の場合、呼び名は「会社」ではなかった
自分のことから書きます。
僕は、Start-X(スタートエックス)という会社をやっています。でも、顧問先やお客さまが僕のことを誰かに紹介するとき、「Start-Xっていう会社がある」とは、まず言いません。出てくるのは、僕の名前です。「山口さんっていう人がいる」。会社の名前も、僕が自分で名乗っている「意思決定の編集者」という言葉も、紹介の一言には、ほとんど出てこない。
これは、意図したことでもあります。僕は会社ではなく個人で発信を続けてきたので、お客さまの頭の中にある棚は、「会社」の棚ではなく「人」の棚です。顧問の依頼をいただくときも、「SNSやnoteを普段から見ていました」と言われることがほとんどで、そこに会社名は出てきません。
ただ、ここで気づいたことがあります。
自分が名乗っている言葉と、お客さまが口にする言葉は、違う。 僕は「意思決定の編集者」と名乗り続けていますが、お客さまが紹介のときに使っているのは、僕の名前と、「マーケティングとか事業のこと、構造から見てくれる人」といった、もっとくだけた言い方のはずです。名乗りは、僕が決めた。呼び名は、お客さまが決めた。そして紹介の場で働いているのは、呼び名のほうです。
自分の会社ですら、こうです。社員が何十人もいて、部門ごとに違う言葉で自社を説明している会社で、名乗りと呼び名が一致しているほうが珍しい。
名乗りと呼び名は、なぜずれるのか
ずれは、怠慢や失敗から生まれるのではありません。会社とお客さまが、構造的に違うものを見ているから生まれます。

会社は「全部」を伝えたい。お客さまは「一つ」しか覚えない
会社は、自分たちができることを全部知っています。だから名乗りには、全部を入れたくなる。「企画から制作、運用まで一貫して」「BtoBもBtoCも」「製造業からサービス業まで幅広く」。嘘ではありません。全部できる。でも、全部を入れた言葉は、何も言っていないのと同じになります。
お客さまは、その会社のことを、一つの場面でしか知りません。自分が頼んだ、その一回の仕事。そこで見たものが、その会社のすべてです。だから覚えている言葉も、一つしかない。
会社が全部を入れたくなるのには、もう一つ理由があります。名乗りを決める会議には、各部門の人が座っているからです。製造の人は製造の強みを、営業は営業の強みを入れたい。誰かの担当を外した名乗りは、その人の仕事を軽んじたように見える。だから、全員の担当が入った、長い名乗りになります。会社の名乗りは、お客さまに向けた言葉である前に、社内の調整の結果なのです。
呼び名は、お客さまが「頼んだ場面」から生まれる
お客さまの呼び名は、会社の説明を要約したものではありません。お客さまが、何に困って、何を探していたときに、その会社に出会ったか。その場面の記憶から生まれます。
夜中にトラブルが起きて、慌てて連絡したら返事が来た。だから「夜中でも返事くれるところ」。安い業者で失敗したあとに頼んだ。だから「ちゃんとしたほうの会社」。会社が「24時間対応」や「高品質」を名乗っていなくても、お客さまはそう呼びます。逆に、会社がどれだけ「高品質」と名乗っても、お客さまがその場面を体験していなければ、呼び名にはなりません。
ここが、名乗りと呼び名の一番大きな違いです。名乗りは会社の内側で決まり、呼び名はお客さまの体験の中で決まる。 会社が決められるのは、名乗りだけです。
名乗りすら一つになっていない会社
ブランドの支援に入ると、呼び名の前に、もっと手前で止まっている会社に出会います。名乗りが、社内で一つになっていない会社です。
CMOがいない会社で、よく見る場面があります。
営業が持っていく提案書の表紙と、マーケティングが出す広告と、採用ページで、会社の説明がまったく違う。営業は「導入実績」を、マーケは「最新技術」を、採用は「風通しのよさ」を前に出している。どれも嘘ではないけれど、三つを並べると、別の会社に見えます。
そこに、社長の一言が乗ります。「うちは、やっぱり○○の会社だから」。その一言で、半年かけて整理した言葉が覆る。そして翌月、別の会議で、社長がまた違う一言を言う。
さらに、外部のブランドコンサルタントが作った立派な言葉がある。きれいに製本されたブランドブックの中に、「私たちは○○を通じて、△△を実現する」と書いてある。でも現場の誰も、その言葉を使っていません。お客さまの前では、それぞれが自分の言葉で話している。
僕が支援でやっていることの多くは、派手なクリエイティブを作ることではありません。社内に散らばった言葉を集めて、社長の一言と、コンサルの言葉と、現場の言葉を一つの場所に並べ、どれを残すかを決める会議を設けることです。内側の言葉がそろって初めて、外に向けた言葉が決まる。順番は、いつも内側からです。
名乗りが一つになっていない会社は、呼び名がさらに散らばります。 営業経由のお客さまと、広告経由のお客さまと、紹介経由のお客さまが、それぞれ違う会社だと思っている。そういう状態で「うちは○○の会社として覚えられたい」と言っても、スタート地点にすら立てていません。
思い出されるのは「違い」からではなく、「場面」から
ここで、ブランドの研究に少し寄り道します。「○○の会社」と覚えられるとはどういうことか、二つの有力な立場があるからです。
一つの言葉を持て、という立場
一つ目は、1981年にアル・ライズとジャック・トラウトが『ポジショニング』で広めた考え方です。ポジショニングとは製品に何かをすることではなく、見込み客の頭の中に対して何かをすることだ、と彼らは書きました。あふれる情報の中で記憶に残るには、見込み客の頭の中に一つの位置を占めるしかない。そのために、会社や製品は一つの言葉を持つべきだ、という主張です。
40年以上前の本ですが、「○○といえばあの会社」という感覚は、ここから来ています。
違いより、思い出されることが大事だ、という立場
二つ目は、2010年のバイロン・シャープ『How Brands Grow』と、そのあとジェニー・ロマニウクが発展させた、エーレンバーグ・バス研究所の考え方です。大量の購買データを分析した彼らの結論は、少し意外なものでした。顧客は、ブランド間の違いをほとんど認識していない。ブランドが伸びるかどうかは、違いがあるかではなく、買う場面で思い出されるかどうかで決まる、というものです。
ロマニウクはこれを、カテゴリー・エントリー・ポイントという言葉で整理しました。顧客が「何かを買おう」と思う入口は、たくさんあります。急いでいるとき、誰かに贈るとき、失敗したくないとき、安く済ませたいとき。ブランドは、そうした入口のどれと結びついているかで、思い出される確率が決まる。
二つの立場は、同じ方向を指している
一つの言葉を持てという立場と、違いより思い出されやすさだという立場。正反対に聞こえますが、僕は同じ方向を指していると思っています。どちらも、勝負は会社の中ではなく、お客さまの頭の中で決まると言っている。そして、お客さまの頭の中で起きていることは、ある場面と、ある会社が結びつくことです。

ここから、「○○の会社」の○○について、僕の考えを書きます。
○○は、他社との違いを表す言葉である必要はありません。お客さまが、どんな場面で、何を探しているときに、あなたを思い出すか。その「きっかけ」と結びついた言葉であることのほうが、ずっと大事です。
「業界で唯一の○○技術を持つ会社」。これは違いの言葉です。立派ですが、お客さまがどんな場面でそれを思い出すかが、見えません。「展示会の前日に、まだ資料ができていないときに頼む会社」。これは場面の言葉です。違いは何も言っていませんが、お客さまは展示会の前日になるたびに、この会社を思い出します。
小さな会社ほど、違いの言葉を探して疲れます。大手と比べて唯一の技術など、たいていは持っていないからです。でも、場面の言葉なら持てます。どんな会社にも、お客さまが頼んだ場面はあるからです。
それに、違いの言葉には寿命があります。「業界で唯一」は、競合が追いついた瞬間に嘘になる。「最新の」は、翌年には古くなる。場面の言葉は、違います。「展示会の前日」は、来年も再来年もやってきます。お客さまがその場面に立つたびに、呼び名は思い出され、そのたびに少しずつ強くなっていく。小さな会社が持つべき言葉は、競合が真似できない言葉ではなく、お客さまの生活や仕事の中で、繰り返しやってくる場面の言葉です。
BtoBとBtoCで、呼び名が働く場所は違う
呼び名が実際に働く場面は、BtoBとBtoCで少し違います。
BtoBでは、紹介の一言
BtoBでは、呼び名は紹介の場で働きます。経営者どうしの食事、同業の勉強会、取引先からの「どこかいいところない?」。紹介する人は、長い説明をしません。一言で言える会社だけが、紹介されます。
言い換えると、紹介する人が言いやすい一言を持っていない会社は、紹介されにくい。どれだけ満足していても、「えっと、何て言えばいいかな、いろいろやってる会社で」となった瞬間、紹介は止まります。紹介する人は、自分の言葉に自信が持てないものを、人に勧めません。
BtoBの会社で、紹介がなかなか増えないと悩んでいるところは、紹介したくなる満足度が足りないのではなく、紹介するときの一言が足りていないことがあります。
紹介する側の立場で考えると、分かりやすい。紹介は、自分の信用を少し貸す行為です。貸した相手が外れれば、自分の評判に傷がつく。だから人は、自分が説明できるものしか紹介しません。「何をやっている会社なのか、一言で言えない」は、「紹介したときに、自分がうまく説明できないかもしれない」と同じ意味です。満足している顧客が紹介してくれないとき、原因は顧客の側ではなく、渡している言葉の側にあることが多い。
BtoCでは、場面の一言
BtoCでは、呼び名は生活の場面で働きます。「子どもの誕生日に頼むケーキ屋」「残業の帰りに寄る店」「母の日はあそこ」。店の名前そのものより、場面と結びついた一言のほうが先に浮かび、店の名前はそのあとについてきます。
この場合、○○は商品の特徴ではなく、生活の中の場面です。店がどれだけ「素材にこだわった」と言っても、お客さまの頭の中では「誕生日」の棚に置かれている。それなら、誕生日の棚で一番に思い出される店になるほうが、こだわりの説明を増やすより、ずっと効きます。
先々週の話との接点
先々週、顧客が離れる本当の理由について書きました。離れた顧客は何もしていないわけではなく、必ず何かに置き換えている、という話です。
呼び名の話は、その裏側です。お客さまがあなたをどの棚に置いたかで、比べられる相手も、置き換えられる相手も決まります。 「展示会前日の駆け込み」の棚に置かれていれば、比べられるのは同じ棚にいる会社です。「安い業者」の棚に置かれていれば、もっと安い業者が出てきた瞬間に、置き換えられます。自分がどの棚にいるかを知らないまま、競合を分析しても、見当違いの相手を見ていることになります。
実験:お客さま3人に、紹介の一言を聞いてみる
ここまでが見方です。ここからは、自分の会社の呼び名を知る方法を書きます。大がかりな調査は要りません。3人に、一つだけ聞きます。
「私たちのことを、知り合いに紹介するとしたら、何と言いますか」
聞き方に、いくつかコツがあります。
アンケートではなく、会話の中で聞く。 書かせると、人は整った言葉を書こうとします。会社のホームページを見て、それらしい言葉を写してくる人もいる。欲しいのは、その人が食事の席で実際に口にする言葉なので、雑談の中で、軽く聞くのがいちばんです。
「どう思いますか」ではなく「何と言いますか」と聞く。 感想を聞くと、評価が返ってきます。「よくやってくれています」「満足しています」。それは呼び名ではありません。紹介するときに使う言葉を聞くと、お客さまはその場面を思い浮かべて、実際に使う一言を探してくれます。
3人は、違う経路の人を選ぶ。 最近誰かを紹介してくれた人、長く続いている人、最近取引が始まった人。この3人が同じ棚にあなたを置いていれば、呼び名は定まっています。ばらばらなら、まだ定まっていません。どちらが分かっても、収穫です。
聞いたあとに、訂正しない。 これが一番難しい。「いや、うちは本当はこういう会社で」と言いたくなります。言わないでください。訂正した瞬間、お客さまは会社の名乗りに合わせて答えを直し始め、本当の呼び名は二度と聞けなくなります。欲しいのは、お客さまの頭の中にある棚の位置であって、会社が望む位置ではありません。
返ってくる答えの5つの型と、その意味
実際に聞くと、返ってくる答えには、だいたい決まった型があります。それぞれが、何を意味しているかを書いておきます。

言葉に詰まる。
「えっと、何て言えばいいかな」。これは、お客さまがまだ、あなたをどの棚にも置いていないということです。満足はしているかもしれない。でも、紹介の場では出てこない。一番多く返ってくる答えで、一番もったいない状態です。
業種の名前だけ。
「ウェブ制作の会社」「税理士さん」。棚はあります。でも、同業他社と同じ棚です。この棚で思い出されるかどうかは、たまたまそのとき一番近くにいたか、一番最近会ったかで決まります。
担当者の名前。
「○○さんっていう人がいて」。会社ではなく、人が覚えられています。僕自身がこれなので、悪いことだとは思っていません。ただ、会社として覚えられたいなら、その人が辞めたとき、呼び名ごと消えるという意味です。
思ってもみない用途。
「あそこは、急ぎのときに助かる」「細かい相談にのってくれる」。会社が売りにしているつもりのないことが、呼び名になっているパターンです。これは、がっかりする答えではありません。お客さまが本当にあなたを置いている棚が、ここで初めて分かる。 会社の名乗りと一番ずれている答えが、一番価値のある答えです。
場面つきの一言。
「展示会の前日でも間に合わせてくれる会社」「子どもの誕生日はあそこ」。思い出すきっかけと結びついた言葉が返ってきたら、呼び名は定まっています。あとは、それを会社の側が自覚して、そろえるだけです。
この見立ての限界
言い過ぎないように、いくつか断っておきます。
呼び名が一つに定まっていないことが、いつも悪いわけではありません。 成長の途中で事業が変わっている会社、複数の事業を持っている会社では、呼び名が散らばっているのは自然なことです。無理に一つに絞ると、伸びている事業を切ることになりかねません。
呼び名は、会社が決めるものではなく、変えるのに時間がかかります。 今日「うちは○○の会社です」と宣言しても、お客さまの頭の中の棚は、すぐには動きません。棚が動くのは、お客さまがその場面を何度か体験したあとです。年単位の話だと思っておいたほうがいい。
3人に聞いただけでは、偏ります。 3人は入口です。社内にあるお客さまの言葉を広く集めて、そこから一言を選び、会社のすべての接点でそろえていく手順は、金曜の記事で書きます。
「違い」が要らないと言っているわけではありません。 場面と結びついた上で、他社との違いもあれば、それに越したことはない。順番の話です。小さな会社は、違いを探す前に、場面を押さえたほうが早い、ということです。
今週の小さな一歩

今週やってほしいことは、一つだけです。
お客さま3人に、「私たちを、知り合いに紹介するとしたら、何と言いますか」と聞く。雑談の中で、軽く。
返ってきた3つの答えを、並べてみてください。同じ棚に置かれているか、別々の棚か。会社の名乗りと一致しているか、ずれているか。ずれていたら、そのずれは、あなたの会社の本当の位置を教えてくれています。
点検してみてほしいこと
□ お客さまが、あなたの会社を紹介するときの一言を、1つでも知っている
□ その一言と、ホームページの一番上の言葉が、同じ方向を向いている
□ 営業、マーケティング、採用で、会社の説明が一つにそろっている
□ 「他社との違い」ではなく「お客さまが思い出す場面」で、自社を説明できる
□ 紹介してくれる人が、迷わず言える一言を持っている
最後の問いかけ
あなたの会社を紹介するとき、お客さまは、何と言っていますか。
今日の要点
会社が名乗る言葉と、お客さまが呼ぶ言葉は違う。名乗りは会社の内側で決まり、呼び名はお客さまが頼んだ場面から生まれる。本当の位置を表しているのは、呼び名のほう
「○○の会社」の○○は、他社との違いではなく、お客さまが思い出すきっかけと結びついた言葉。小さな会社は、違いを探す前に、場面を押さえる
BtoBでは紹介の一言、BtoCでは生活の場面の一言として、呼び名は働く。紹介する人が言いやすい一言がない会社は、紹介されない
今週は、お客さま3人に「紹介するとしたら、何と言いますか」と聞く。ずれている答えほど、価値がある
金曜の記事では、集めたお客さまの言葉から一言を選び、会社のすべての接点でそろえて、「○○の会社」として定着させる手順を、社内ワークの台本と、呼び名を集めて整理するシートつきで書きます。
自分の会社がお客さまにどう呼ばれているのか分からない、社内で名乗りがそろわない。そんな状態なら、一度話しにきてください。お客さまの言葉を集めるところから、一緒に見ます。売り込みは、しません。
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— 山口偉大 / Yamaguchi Takehiro
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