データドリブンを機能させる、指標設計の具体ステップとは
支援先の会議で、大きなモニターに40個くらいの指標が映っていた。
きれいなダッシュボードだった。色分けされ、前週比の矢印がつき、グラフはなめらかに動いていた。担当の方が順に読み上げていく。数字はどれも正確だった。
途中で、ひとつだけ質問をさせてもらった。
「この数字が下がったら、誰が、何をしますか」
10秒くらい、誰も何も言わなかった。
悪気があったわけではありません。その場にいた全員が、真面目にデータを見ていた。ただ、見てはいたけれど、使ってはいなかった。 その差が、その10秒に出た。
データドリブンが機能していない会社の多くは、数字が足りていないわけではないんです。むしろ多すぎる。足りていないのは、数字と判断をつなぐ一本の線のほうです。
今日は、その線をどう引くかを書きます。前半は、なぜ詰まるのか。後半は、僕が支援先で実際に使っている「指標を作る前に書く一文」を、業種別のサンプルまで含めて、そのまま公開します。
測るコストが、ゼロになった
そもそも、なぜこんなに指標が増えたのか。
答えは単純で、測るのが簡単になりすぎたからです。BIツールを入れれば、ほとんどの数字は自動で出る。生成AIに聞けば、分析のたたき台も数分で返ってくる。「これも測っておきますか」に、断る理由がなくなった。
測るコストがゼロに近づいた結果、何が起きたか。
増えたのは数字で、減ったのは判断です。
前回のニュースレターで、集める力が安くなって、関係をつける力だけが残った、という話を書きました。指標の世界でも、まったく同じことが起きている。測れることが無限になったぶん、選ぶ側の負荷だけが上がった。
ここを取り違えると、「データドリブンが機能しないのは、まだデータが足りないからだ」という結論に向かいます。そして、また一つツールを増やす。悪循環です。
ダッシュボードが、壁紙に変わるとき
機能しないダッシュボードには、共通する詰まり方があります。

ひとつめは、測れるものから始めてしまうこと。
本来は「何を決めたいか」が先で、指標は後から決まります。でもツールを開くと、もう数字が並んでいる。並んでいるものから選ぶと、決めたいことと関係のない指標が主役になります。
ふたつめは、指標と判断がつながっていないこと。
冒頭の10秒がこれです。数字は見ている。でも、その数字がどう動いたら何をするかが決まっていない。だから見ても、動きが変わらない。
みっつめは、多すぎること。
ある調査記事では、念のため追っておこうという指標が積み重なって、ダッシュボードが20〜30個の指標で埋まっている状態が典型的な失敗として挙げられていました。そうなると、レビュー会議で全体を把握できず、結局いちばん目立つ数字だけを見て判断する。データドリブンのつもりで、属人的な判断に戻っている。
この3つのどれかが起きると、ダッシュボードは計器ではなく壁紙になります。眺めるものとして、そこにある。
「虚栄の指標」を、定義し直す
見栄えはいいのに役に立たない指標のことを、虚栄の指標と呼びます。エリック・リースが『リーン・スタートアップ』で使った言葉です。ページビュー、フォロワー数、累計ダウンロード数あたりが、よく例に挙がります。
ただ、この説明には少し困ったところがあって、「見栄えがいいだけ」という見分け方だと、実務では判定できないんです。
ページビューが本当に無意味かというと、広告を売っている会社にとっては中核の指標です。逆に、商談数のような一見まっとうな数字でも、増えたところで誰も動き方を変えないなら、それは飾りと同じことになる。
だから僕は、支援先ではこう定義し直しています。
虚栄の指標とは、判断文を持たない指標のことだ。
判断文というのは、僕が勝手にそう呼んでいる一文です。これが書けるかどうかで、その数字が計器なのか壁紙なのかが、はっきり分かれる。冒頭の会議で僕が聞いた「この数字が下がったら、誰が何をしますか」は、要するに「判断文はありますか」という質問でした。
では、その一文はどう書くのか。
書き方には型があります。型に沿って書くと、指標設計でやるべきことが、ほとんど一度に終わります。
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