マーケ予算を「投資」に変える、予算配分の判断基準とは
予算の会議で、ある行が削られ、隣の行が守られる。その瞬間に立ち会うことがあります。
削られる行には、たいてい、こういう質問が飛んでいます。
「この広告、本当に効いてるの?」
「止めたら、売上は下がるの?」
「それで、いくら儲かるの?」
担当者は管理画面の数字で答えようとして、言葉に詰まる。
守られる行では、同じ質問に、別の答え方がされています。たとえば、こうです。「この行は、半年後の商談を増やすための行です。止めた地域と比べて、商談がこれだけ増えています。変動費を引いた利益で、◯か月で回収できる見込みです。商談化率が◯を切ったら、止めます」。
二つの行の違いは、金額ではありません。答えが、あらかじめ書いてあったかどうかです。
月曜は、予算表の1行には去年の前提が埋まっている、と書き、経営層が上位5行に投げる2つの問いを置きました。その2つは、今日渡すカードの「前提」と「増分」の欄になります。今日は、そこに時間軸・回収・撤退条件を足して、その1行を「投資」として審議し、承認に使える形にします。
費用と投資は、書いてあるかどうかで分かれる
マーケの予算は、会計の上では費用です。販管費の行に載り、使った年に落ちる。だから「マーケは投資だ」と言っても、経理の目からは費用にしか見えません。
それでも、予算の会議の中では、行が二種類に分かれます。費用として扱われる行と、投資として扱われる行です。分けているのは、科目ではありません。その行について、4つのことが書いてあるかどうかです。

時間軸、増分、回収、撤退条件。 いつ効くか、その行がなくても起きた分を除いたか、いつ何で戻るか、どうなったら止めるか、です。この4つが書いてある行は、苦しい月にも守られます。書いていない行は、どれだけ良い行でも、苦しい月に真っ先に名前が挙がる。月曜に書いた「測れる行ほど守られる」は、言い換えると「書いてある行ほど守られる」です。
4つのうち、最初の時間軸だけは、ここで書いておきます。ほかの3つは、この時間軸の上に乗るからです。
基準1:時間軸──いつ効く行かを、先に決める
時間軸を決めないまま回収や撤退を書くと、長い時間をかけて効く行が、短期の物差しで裁かれます。
時間軸は、3つに分けます。
短期(刈り取り)は、今月から3か月ほどで売上に効く行です。すでに買うつもりのお客さまに、最後のひと押しをする。指名や比較の語の検索広告、リターゲティング、期間限定の販促がここに入ります。
中期(育成)は、3か月から1年ほどで効く行です。まだ買う段階にないお客さまを、比べる段階、試す段階へ進める。展示会、資料請求からの育成、導入事例の制作、使い始めたお客さまの活性化の施策。
長期(ブランド)は、1年以上かけて効く行です。お客さまがそのカテゴリを思い出すとき、最初の候補に入っている状態をつくる。ブランドの広告、PR、指名を育てる発信。

比率の目安として、よく引かれる研究があります。英国の広告業協会(IPA)のデータをもとに、レス・ビネとピーター・フィールドが2013年にまとめた『The Long and the Short of It』です。メディア予算を「ブランドづくり」と「販売の活性化」の2つに分けたとき、長期で見た平均的な目安は60:40だった、という内容です。2018年の続編『Effectiveness in Context』では62:38で、ほとんど変わっていません。
ただし、これは英国の広告賞の応募事例をもとにした平均で、BtoBや立ち上げ期の事業では比率が変わります。そして、2つに分ける研究なので、ここでの3層とは分け方が違います。テンプレートでは、短期40%、中期30%、長期30%を初期値にしていますが、これはStart-Xが置いた出発点にすぎません。自社の比率は、自社の数字で決めてください。
大事なのは比率そのものより、短期と長期を、同じ物差しで比べないことです。短期の行は、増分と回収で見る。中期の行は、次の段階への通過(資料請求から商談へ、契約から活性化へ)で見る。長期の行は、指名検索や、カテゴリを思い出したときに名前が挙がるかで見る。見直す間隔も、短期は四半期ごと、中期は半年ごと、長期は年に1回と、時間軸ごとに変えます。
支援の現場で、ブランドや認知の施策が、短期の数字で止められる場面を何度も見てきました。単月や四半期の評価で、ROIやROASが適切かどうか分からないまま止める。足元の集客数だけを見て、少し後に売上が落ちる。時間軸を先に書いておけば、この行を何か月目にどの物差しで見るかが決まります。
同じ行でも、日次で見れば揺れていて、四半期で見れば伸びている、ということは普通にあります。どの時間軸で判断するかを、行ごとに先に決めておく。
基準2:増分──その行がなかったら、何が減るか
「管理画面のCVって、全部広告のおかげ?」「指名検索は、止められないよね?」。支援の現場で、経営層から聞かれる質問は、ほぼ全部、増分についての質問です。管理画面の数字では、どれにも答えられません。
管理画面の数字は、媒体が自分の手柄として数えた成果です。広告に触れてはいるが、広告がなくても起きていた購入が混ざります。カードに書くのは、その行がなかったら生まれなかった分、つまり増分です。
ここから先はサポートメンバー向けに、増分の測り方と残り2つの基準、空欄のある行を「費用のまま:止める条件なし」のように自動で判定する投資判断カード、経営会議に出す1枚までを書きます(月500円で、過去の限定記事もすべて読めます)。